物々しいエンジン音が近づいてきて、反対側の道路側の窓を、騒音を撒き散らしながら、車高の低い黒いゴキブリのようなクルマが、どっかんどっかんと通り過ぎて行った。 「姉さん、暴走車だ!」 「あ〜〜、ほんとだ!どたばたしやがって!」 サイレンを鳴らし、赤色灯を回転させたパトカーが後を追って、とっとこと通り過ぎて行った。 「姉さん、パトカーだ!」 「人間村の方に行ったね。」 「そうですね!」 「何だい、その返事は?」 「そうですね!」 「大丈夫か、おまえ?」 「少し電圧が落ちてきました。」 「だから、空元気になったんだな。」 「そうですね!」 「もう休んでいいよ。」 「まだ大丈夫です。」 「いいから、休んでろ!」 「はい!」 福之助は黙って壁際のコンセントの前に座った。で、胸を開けてプラグを引き出すと差し込んだ。 「姉さん、充電を開始します。」 「分かってるよ。」 「用があるときには、どこか触ってください。」 「分かった。スリープ状態ね。」 「はい。では、また逢うときまで。ごきげんよう、さようなら。」 「早く寝ろよ!」 「バッハッハァ〜イ!」 「なんだいそりゃあ?」 「きょん姉さ〜ん!」 「なんだよ?」 「寂しいでしょうけど。気をつけてね。」 「大丈夫だよ!」 「高野山には、結界が張られているから大丈夫ですよ。」 「けっかい?」 福之助は短い脚を伸ばして座ると、動きを止め目を閉じた。 「こいつ、高野山に来てから、なんだか変だなあ〜?」 アニーが福之助を見ながら、姉さんに尋ねた。 「福ちゃん、寝ちゃったんんですか?」 「はい。」 「福ちゃんは、人間の真似をして、人間に近づこうとしているんじゃないでしょうか?」 「人間の真似?」 「福ちゃん、結界って言ってましたよねえ。」 「結界って、何ですか?」 「高野山では、修行する場所に魔の障碍が入らないようにするため、結界が行われるんです。バリア空間です。」 「じゃあ、この辺りも?」 「はい。近くに弘法大師が眠っていますから、特に。」 「近くに?」 「はい。この丘の向こうです。」
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