「お兄ちゃん、やっぱり風が強くなってきたわ。」 「そうだなあ。」 兄妹二人は、窓辺で外を眺めていた。 「トマトは大丈夫かしら?」 「大丈夫だよ。このくらいの風なら。」 「そうだよね。お父さんが作ったアクリルハウスだもんね。」 「ああ。びくともしないよ。」 まさとは椅子に腰掛け、真由美は、まさとの膝の上に横向きに腰掛けていた。 「真由美、重くなったなあ〜。」 「そ〜お?」 「来年から、小学生だもんな。」 「早く行きたいなあ〜。」 「真由美は大丈夫だよ。頭がいいから。」 「お兄ちゃん。もっと教えてよ。学校で一番になってやるんだ。」 「ああ、教えてやるよ。幼稚園に行かなかった分、たぁくさん教えてやるよ。」 「幼稚園の先生なんかよりも、お兄ちゃんのほうが偉いんだから!」 お兄ちゃんは、拳を握り振り上げた。 「お〜〜〜!」 真由美ちゃんが真似をした。 「お〜〜〜!」 隣の部屋から、母親が尋ねた。 「何をしてるの?」 お兄ちゃんが返事をした。 「何でもないよ。小学校の話しをしてたんだよ。それで気合いを入れてたの。」 「そうなの。」 突然、近くの街路灯に設置してある拡声器からアナウンスが流れた。
< 暴走車が一台 封鎖を破って高野山内に入りました 各寺院は気をつけてください >
「なぁに、お兄ちゃん!?」 「大丈夫だよ。高野山(こうやさん)に変なやつが入って来ても、日本一の高野山警察がいるから。」 「そうだよね。高野山警察には忍者隊・月光もいるもんね。」 「ああ、高野山警察の忍者隊・月光は凄いからなあ。」 母親の心配気な声がした。 「外に出ちゃあ、駄目よ。」 お兄ちゃんが、即座に答えた。 「分かってるよ。」 蝶の形をした紅紫色の小さな花を無数につけた曼荼羅のようなハギの花の下で、しなやかで 強いススキの穂と、ピンクの小さくて可愛いコスモスの花が、助け合うように寄り添いながら風に揺れていた。
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