龍次達の電動四輪自転車は、時速八キロくらいの速さで走っていた。 ショーケンが、龍次の顔を見ながら質問した。 「これ、どのくらいのスピードが出るの?」 「そうですねえ、せいぜい二十キロくらいかな。」 「これ、四人で同時に漕ぐと、かなり軽いねえ。」 「そうですね、かなり軽いです。」 「力いっぱい漕ぎたときにはどうするのかな?」 「そういうときには、誰かが充電モードで漕いで、充電します。」 「充電モード?」 「空漕ぎで充電できるんです。」 「ふ〜〜〜ん。」 ショーケンは振り向いた。後から、ニート革命軍の連中が、歩いてついて来ていた。ある者は色んな物を載せた半電動リアカーを引いていた。 「けっこう、多いんですねえ、みなさん。」 「毎月、数名増えてますねえ。」 「時々、変な人も来るんじゃないですか?」 「変な人と言うと?」 「たとえば、怠ける奴とか。自分勝手な奴とか。」 「ときどき勘違いして、来るのがいますよ。」 「どうすんですか?」 「一ヶ月様子を見て、追い返します。」 「やっぱりね。」 「われわれのニートは、権力に対するニートであって、生活ニートではありませんから。」 「そうなんだ。」 「小乗仏教みたいなものです。」 「しょうじょうぶっきょう・・」 ショーケンは、軽く頷(うなず)いたが、言葉の意味が分からなかった。 アキラは後ろで、お寺や景色を見ながら二人の話を何気なく聞いていた。 「やっぱ、インテリは難しいこと言うねえ。」 龍次は、アキラの顔を横目で見た。 「難しかった?」 「ちょっとね!」 通りすがりの、お遍路姿の二人が、お経らしきものを言い合いながら歩いていた。 『南無大師遍照金剛(なむだいしへんじょうこんごう)!南無大師遍照金剛(なむだいしへんじょうこんごう)!』 ショーケンは、初めて聞くお経だった。 「なんか、聞いたことのない、お経だなあ?」 「空海の、お経です。」 「くうかい?」 「ここはねえ、空海の聖地なんですよ。」 ショーケンには初めて聞く名前だった。 「くうかい…」 「有名な人ですから、知ってますよね〜、学校で教わりましたよねえ〜?」 「ああ、知ってます、知ってます!」 龍次は、独り言を言うように喋っていた。 「いつもここを通っていると、時間の重さと切なさを感じるんですよ。」 龍次は、小さな声で森の妖精にささやくように、ジュリーの<時の過ぎ行くままに>を歌いだした。
あなたは すっかり疲れてしまい 生きてることさえ嫌だと泣いた〜 ♪ 壊れたピアノで 思い出の歌 片手で弾いては溜め息ついた〜 ♪
「ここを通るとねえ、なぜか、この歌が脳裏に浮かぶんですよ。」
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