インターネット喫茶の窓の外では、女性が小さなキャリーを引いてやって来て。甲高い声で叫んでいた。 「絞りたての、青森のリンゴジュースはいかがですか〜!」 泣きそうな声だった。幾人かの通行人はびっくりして立ち止まっていた。 「絞りたての、青森のリンゴジュースはいかがですか〜!」 たまりかねた通行人の男が、彼女に近づいて買い求めた。 「いくら?」 「二百円です。」 彼女は、大きな取っ手のついた容器に入った液体を、紙コーップに注いで通行人の客に渡した。 「ありがとございま〜す!」 「うん、なかなかおいしいねえ。」 もう一人、上品そうな女性の客がやってきた。 「お一つください。」 龍次は検索を中断して、その様子を上から見ていた。 「ああいう売り方って、反則だよなあ。」 蝶子も見ていた。 「泣き叫びながらじゃあ、同情して買うわよね。」 「女って凄いなあ。必死になったら何でもやるんだなあ。」 大きな女の声が聞こえた。 「社会に甘えてんじゃないわよ!」 韓国訛りだった。 「仕事から帰ってきたら、酒飲んでテレビを見て、ごろ寝。仕事することが、そんなに偉いの?」 男は酔っていた。ふらついていた。 「甘えてる?」 「そうよ。日本人の男は、平和な世の中に甘えてるわ!韓国は徴兵があるのよ。男は戦争に備えて、もっとしっかりしてるわ。」 「あ〜〜〜、分かった分かった!」 男は逃げて行った。 蝶子は、龍次のパソコンを覗いた。 「早く、自転車を検索してよ。」 「あっ、そうか。何て検索すればいいの?」 「折りたたみ自転車。」 「分かった。」 検索は早かった。 「出たよ。」 「どれどれ…」 蝶子は龍次の前のパソコンを覗いた。 「写真を大きくして。」 「はいよ。」 「赤いのがいいわ。」 「これ、十六インチだよ。大丈夫?」 「材質は?」 「アルミフレームで、八万円。」 「八万円かあ…」 「どうしたの?」 「八万も出すんだったら、電動があるんじゃない?」 「折りたたみで、あるの?」 「あるわよ。友達が乗ってるもん。」 「じゃあ、再度検索!電動、折りたたみ…」 検索は早かった。 「出たよ。」 「ほ〜〜ら、あるでしょう。」 「でも、ちょっと高いよ。」 「これいいわねえ。赤いの。」 「十二万…」 「二万くらい、おまけしてよ〜。」 「…しょうがないなあ、じゃあ条件付で。」 「まぁた?」 「来週の日曜日に手伝ってくれる。」 「えっ、何を?」 「レンタル畑の周りに、垣根を作るんだよ。それを手伝って欲しいんだよ。」 「…重労働?」 「ううん、いたって軽作業。」 「じゃあ、いいわよ。」 「細かい仕事が多いんで助かるよ。」 窓の下の通りに、暴徒が逃げこんで来た。警官が追って来た。通りは大騒ぎになった。
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