高野山の所々の街路灯に取り付けられた拡声器からアナウンスが流れていた。
< 各地でガソリン猿人による暴動が起きています 高野山は封鎖されました >
クリスタル・ヨコタンは、不安になりショーケンの手を強く握った。 「大変なことになったわ。」 こういう状況に場慣れしているショーケンは、いたって落ち着いていた。 「やつらが封鎖を突破して入って来るかもしれない。急ごう。」 「はい。」 照明に照らされたニート革命軍・人間村の看板の下で、白髪の老人がうずくまっていた。 ショーケンは立ち止まった。 「どうしたんですか?」 老人は間を置いて答えた。 「ちょっと、つまずてしまったんだよ。大丈夫だよ。ありがとう。」 男だった。ヨコタンが心配そうに尋ねた。 「ほんとうに大丈夫ですか?」 「ちょっと休めば歩けるよ。ほらね。」 老人は、両方の膝を交互に動かして見せた。 「何かあったら、遠慮なく呼んでください。あそこの集会所にいますから。」 彼女は指差した。 「ああ、あそこにいる人たちか。ありがとう。」 「わたしたち、行きますよ。」 「大丈夫だよ。いざとなったら携帯電話で家族の者を呼ぶから。」 「気をつけてね。」 「どうもすまないねえ。」 老人は自分の人生を見るように風を見ていた。老人にとって、今起きていることは、ただの風だった。 ショーケンとヨコタンは、駆け足で集会所に向かった。 集会所に入ると、みんなは黙ってテレビを見ていた。 入口の近くにいた鶴丸隼人が二人に気付いた。 「お帰りなさい。」 その言葉に、みんなが振り向いた。アキラがショーケンに向かって無言で手を上げた。 ヨコタンが鶴丸隼人に尋ねた。 「何かあったの?」 「各地で暴動が起きているんです。」 テレビには、燃える駅と電車が映っていた。 「あれ、もしかして新宿駅?」 「そうです。新宿駅です。」 「どうしたの?何これ?」 「一時間ほど前から、この状態なんです。」 「いったい何が起きてるの?」 拡声器からアナウンスが流れた。
< 暴走車が一台 封鎖を破って高野山内に入りました 各寺院は気をつけてください >
龍次が若い隊員に命じた。 「人間村の門を閉めろ!」 三人の隊員が「はい!」と答えて出て行った。 「閉めるの?じゃあ、あのおじさん、連れてくるよ。」 そう言うと、ショーケンは出て行った。 アキラがヨコタンに聞いた。 「兄貴、どこに行ったの?」 「倒れてた老人を助けに行ったみたい。」 「じゃあ、俺も行こう!」 アキラも出て行った。みんなも集会所を出て行った。 再度、拡声器からアナウンスが流れた。
< 暴走車が一台 封鎖を破って高野山内に入りました 各寺院は気をつけてください >
高野山に、転軸山からの吹き下ろしの風が吹き、草花が大きく揺れていた。月にかかる雲の流れは速くなっていた。
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