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作品名:ニート革命軍 作者:毬藻

第112回   さすがインテリ!
根来衆バンドの一団は、三十分ほどで店を出て行った。
龍次と蝶子は、一団を横目で見ていた。龍次が彼女に尋ねた。
「サインとか、もらっちゃえばよかったのに?」
「いいの。」
「あっ、そう。」
店の外では、人々が右往左往していた。龍次は溜息をついた。
「まだ終わりそうもないなあ。」
「そうですね〜。」
龍次は、折りたたみの自転車で、ピンクのフレアスカートをひらひらとなびかせて走る女性に目が行った。
「蝶子ちゃん、自転車乗る?」
「乗るわよ。なんで?」
「どんなの乗ってるの?」
「普通の。ママチャリってやつ。」
「ああ、前かごのついたやつね。」
「そうそう。」
「僕ね、最近ああいう折りたたみの乗ってるのよ。クルマに積んで。」
「クルマに積んでるの?」
「そう。いいところがあったら、自転車に乗り換えて散歩するんだよ。」
「自転車で散歩するの?」
「そう。ゆっくりとね。景色を見ながら、ちんたらちんたらと、画家のように。」
「ふ〜〜ん。そうやって、残り少ない人生を味わっているんだ。」
「なんだって?」
いつもの彼女的な答えに、龍次は笑った。話を続けた。
「カメラで、パチリパチリと町や村の風景を撮りながらね。」
「なんか面白そうね。」
「面白いよ。土地の人とも話せるしね。ときどきスマートな素敵な女性とも出会えるし。ロマンチックだよ。」
「それが目的なんだ。」
「違うよ〜。たまたまなんだよ。この前なんか、メールアドレスもらっちゃった。」
「ほら〜〜、やっぱり!」
「違うって!偶然なのよ。」
龍次は携帯電話を取り出した。
「この人。なかなか美人でしょう。」
「ほんとだぁ…、土地の人?」
「違う。なんでも大阪とか言ってたよ。」
「住所は知らないんだ。」
「初対面な人には、そこまでは教えないでしょう。」
「そうだね。何人目?」
「何人目?」
「これで?」
「…五人目かなあ。」
「な〜〜んだ、それだけ。」
「別に、それが目的じゃないから。」
「ま〜たぁ。」
「ほんとだよ。ロマンチックが目的なの。」
「女性とのロマンチック?」
「詩的なロマンチックだよ。まあ、それも含まれているのかも知れないなあ。」
「女は、そのロマンチックって言葉に弱いんだよな〜。」
「ああ、そうなの。」
「現実の生活が、ちゃちで夢のない変な男ばっかりで、ちっともロマンチックじゃないから。」
「ああ、そうなの。」
「龍次さんは、A型の潔癖性だからね。」
「うん?」
そのことには、あまり興味のないような感じだったので、蝶子は話題を変えた。
「その自転車、今も積んであるの?」
「あるよ。いつでも積んであるよ。」
「軽いの?」
「軽いよ、チタンだから。片手で持てるよ。」
「高そうね?」
「まあね。三十万ちょっとだったかな。」
「そ〜んなにするの。凄いなあ〜。さすがだわ。」
「やっぱ、いい自転車は疲れないよ。乗ってて気持ちがいい。」
「いいなあ〜。乗ってみたいなあ〜。」
「乗ってみたい?」
「うん。でも今の身分じゃ、そんなのは買えないわ。」
「じゃあ、買ってあげようか。」
「えっ、ほんと?」
「十万以下のやつだったらね。」
「え〜〜、ほんと?」
「その代わり、月に一回、僕と一緒にポタリングするのが条件。」
「ポタリング?」
「自転車散歩だよ。」
「ポタリングって言うの?」
「ポタル。ぶらつくっていう意味だよ。」
「ふ〜〜ん。泊まりとかはないんでしょう?」
「そんなところには連れて行かないよ。」
「別に、龍次さんだったらいいんだけど。」
「どういう意味?」
「人畜無害のジェントルマンだから。」
「そういうことか。」
「いいわよ。土日だったら。」
「おお〜〜、じゃあ早速自転車を買いに行こう。」
「気が早いのねえ〜。龍次さんは、どこで買ったの?」
「インターネット。高いのは、町の自転車屋さんでは売ってないんだよ。」
「じゃあ、このパソコンで探せばいいじゃない。」
「あっ、そうか。」
龍次は、パソコンに向かうと、検索を始めた。
「レンタル畑ってのをやっているんだよ。」
「レンタル畑?」
「住宅地の近くの耕作放棄地を安くで買ってね、そこを野菜作りの好きな住民にレンタルしてるんだよ。」
「へ〜〜え。龍次さんの家の近く?」
「ああ。」
「それ、いいアイデアだわ。」
「だろう。駐車場みたいに整地する必要もないし。」
「あったまいい〜!さすがインテリ!」
「いいだろう。レンタル畑。」
蝶子は、なぜか龍次の目を見つめていた。
「どうしたの?僕に惚れたの?」
「龍次さん!」
「なに?」
「もっと小さい声で話したほうがいいわよ。」
「なんで?」
「聞いて真似する人がいるから。」
「そうかなあ。」
「そういうのって、どうやって思いつくの?」
「人々が欲するものを、冷静に考えると、自(おの)ずと思いつくよ。」
「おのずとって何?」
「日本語だよ、これ?」
「どういう意味?」
「自(おの)ずとは、自(おの)ずとだよ。」
「なんだ、そりゃあ?」
「あらら、困ったなあ〜。」
「日本語なの?」
「そうだよ。」
「おのずと…、それ方言でしょう!」
「違うよ。ちゃんとした標準語だよ。」
「おのずと…?は〜じめて聞いたよ。」
「困ったなあ〜。」


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