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作品名:ニート革命軍 作者:毬藻

第111回   クローンの涙
三人は、ヘリの行方を見ていた。頭脳警察の治安用攻撃ヘリ・猿狩り小次郎は、転軸山を避けて遠くに逃げて行った。
甲賀忍は、案山子(かかし)を肩に担いだままだった。
「やつら、何しに来たんだろう?」
クリスタル・ヨコタンの瞳は、科学者のように鋭くなっていた。
「そうですねえ…」
ショーケンは察していた。
「高野山に逃げ込んでくる連中を待ち伏せしてるんだよ。」
忍は、ショーケンを見ていた。
「なあるほど。」
ヨコタンもショーケンを見ていた。
「なるほど。さすがショーケンさんだわ。そこまでは気だつかなかった。まるで経験者みたいだわ。」
その言葉にショーケンは笑みを漏らした。
「どういう意味かな?」
「深い意味はありません。」
ヨコタンは、ヘリの過ぎ去った方向を見ていた。
「引き返しては来ないみたいだわ。」
甲賀忍は目の前の空を見つめていた。
「さっき、みんなが騒いでたけど、あれのことかな?」
「何を騒いでたんですか?」
「遠くから見たもので、よく分からない。呼び止める様子もなかったから大したことじゃないと思うけど。」
「きっと、他に何かあったんだわ。」
ショーケンが促(うなが)した。
「変な予感がする。急いで帰ろう。」
「そうね。」
二人は、急いで龍次たちのいるところに向かった。
取り残された忍は、急ぎ足で案山子を立てに行った。
高野山には、いつもと変わりない初秋の爽やかな夜の風が吹いて、月明かりに映る白い雲を流していた。風と友達のいろんな虫たちが命の限りに鳴いて競いあっていた。ここにはいつものように、浅瀬を流れる水の音楽が流れていた。
ショーケンは急ぎ足になりながらも、水の音楽を聴いていた。
「いい音楽だなあ…」
ヨコタンは、ひたすらに早足で歩いていた。末広のワンピースが風に揺れて、ときどきめくれていた。だけど、ショーケンの後ろだったので、ショーケンには見えなかった。
思わずヨコタンは、「待って!」と叫んだ。それは取り残された少女の叫びだった。
ショーケンは優しく手を差し伸べた。ヨコタンが右手を出すと、左手でしっかりと握った。
ショーケンは、今まで感じたことのない手の温もりを感じた。
「人間の手って温かいんだなあ…」
「えっ?」
クローンのショーケンは、初めて人間の温かさを感じていた。
「人間の血って、温かいんだなあ…」
「えっ?」
ショーケンの目は、なぜか涙で潤んでいた。思わず右手で拭った。
ヨコタンは彼の涙を見逃さなかった。
「どうしたの?」
「うん、何だろう?この涙は?」
ショーケン自身にも、涙の理由が分からなかった。
「変だなあ〜。」
「どうしたのかな?」
「おかしいなあ〜、勝手に涙が出てきちゃったんだよ。」



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