三人は、ヘリの行方を見ていた。頭脳警察の治安用攻撃ヘリ・猿狩り小次郎は、転軸山を避けて遠くに逃げて行った。 甲賀忍は、案山子(かかし)を肩に担いだままだった。 「やつら、何しに来たんだろう?」 クリスタル・ヨコタンの瞳は、科学者のように鋭くなっていた。 「そうですねえ…」 ショーケンは察していた。 「高野山に逃げ込んでくる連中を待ち伏せしてるんだよ。」 忍は、ショーケンを見ていた。 「なあるほど。」 ヨコタンもショーケンを見ていた。 「なるほど。さすがショーケンさんだわ。そこまでは気だつかなかった。まるで経験者みたいだわ。」 その言葉にショーケンは笑みを漏らした。 「どういう意味かな?」 「深い意味はありません。」 ヨコタンは、ヘリの過ぎ去った方向を見ていた。 「引き返しては来ないみたいだわ。」 甲賀忍は目の前の空を見つめていた。 「さっき、みんなが騒いでたけど、あれのことかな?」 「何を騒いでたんですか?」 「遠くから見たもので、よく分からない。呼び止める様子もなかったから大したことじゃないと思うけど。」 「きっと、他に何かあったんだわ。」 ショーケンが促(うなが)した。 「変な予感がする。急いで帰ろう。」 「そうね。」 二人は、急いで龍次たちのいるところに向かった。 取り残された忍は、急ぎ足で案山子を立てに行った。 高野山には、いつもと変わりない初秋の爽やかな夜の風が吹いて、月明かりに映る白い雲を流していた。風と友達のいろんな虫たちが命の限りに鳴いて競いあっていた。ここにはいつものように、浅瀬を流れる水の音楽が流れていた。 ショーケンは急ぎ足になりながらも、水の音楽を聴いていた。 「いい音楽だなあ…」 ヨコタンは、ひたすらに早足で歩いていた。末広のワンピースが風に揺れて、ときどきめくれていた。だけど、ショーケンの後ろだったので、ショーケンには見えなかった。 思わずヨコタンは、「待って!」と叫んだ。それは取り残された少女の叫びだった。 ショーケンは優しく手を差し伸べた。ヨコタンが右手を出すと、左手でしっかりと握った。 ショーケンは、今まで感じたことのない手の温もりを感じた。 「人間の手って温かいんだなあ…」 「えっ?」 クローンのショーケンは、初めて人間の温かさを感じていた。 「人間の血って、温かいんだなあ…」 「えっ?」 ショーケンの目は、なぜか涙で潤んでいた。思わず右手で拭った。 ヨコタンは彼の涙を見逃さなかった。 「どうしたの?」 「うん、何だろう?この涙は?」 ショーケン自身にも、涙の理由が分からなかった。 「変だなあ〜。」 「どうしたのかな?」 「おかしいなあ〜、勝手に涙が出てきちゃったんだよ。」
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