二人が歩いている前から、背番号13の男がやって来た。首にmp3プレーヤを下げていた。 クリスタル・ヨコタンは軽く会釈した。 「こんばんわ。」 男は軽く手を上げて、 「ポ〜〜ン!こんばんわ〜!」 と言って、去っていった。 ショーケンは、彼の後姿を追いながら、呟いた。 「ポ〜〜ンって何ですか?」 「さ〜〜ぁ?、あの人いつも、ぽ〜〜んなんですよ。」 「何なんでしょうね?」 「龍次さんも、何だろうねって言ってました。ポーンは、チェスの歩兵のことだけどねって言ってましたけど。」 「不思議だなあ。」 「高野山(こうやさん)って、不思議なことが多いんですよ。」 「あの人、どこから来たの?」 「いつも、団地の方から来るんですけど。分かりません。」 「高野山(こうやさん)に団地ってあるんですか?」 「町営の団地がありますよ。」 「ふ〜〜ん、けっこう高野山って、人がいるんですね。」 「約五千人、住んでいます。」 「そんなにいるの?」 「はい。」 「あの人、首にかけてたやつ。あれ、何とかプレーヤと言いましたよね。」 「mp3プレーヤです。」 「あれ、流行ってるんですか?」 「そうですね。あれ、いいんですよ。軽くて、ジョギングとかに。」 「なあるほど。」 「音もぶれないし。」 「なあるほど。」 「欲しいんですか?」 「なんとなくね。どこで売ってるの?」 「インターネットです。店では、あまり売っていません。」 「どうして?」 「安い品物は、利益が少ないから、あまり売りたがらないですよ。」 「なあるほど。あんなに小さいと、万引きされるしね。」 「そうですね。そういう理由もあるのかも知れませんね。」 二人の歩いている前方から、案山子(かかし)を担いでやってくる人間がいた。甲賀忍だった。 ヨコタンが声を掛けた。 「忍さん、なにやってるの?」 「案山子(かかし)を立てに行くんですよ。」 「こんな時間にですか?」 「せっかちなもので。」 甲賀忍は懐中電灯を持っていた。 「気をつけてね。」 「近くですから、大丈夫です。」 突然、ヘリのローター音が聞こえた。三人は上空を見上げた。 遠くの山から、ヘリが飛んでくるのが見えた。両脇にミサイルを抱えていた。ショーケンが声を発した。 「頭脳警察の治安用攻撃ヘリ・猿狩り小次郎だ!」 「何かあったのかしら?」 突然、高野山の防空サイレンが、けたたましく鳴り出した。転軸山のミサイルハッチが開き、ミサイルが頭を出した。 甲賀忍が転軸山の方向を指差した。 「地対空ミサイル・アイアンメイデンだ!」 ミサイルは回転して、猿狩り小次郎に照準を合わせた。上空に向かってアナウンスが流れた。
< 高野山上空内に許可なく入れば 直ちにミサイルで撃ち落とす! >
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