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作品名:ニート革命軍 作者:毬藻

第109回   誰も答えなかった
「先生〜!」
男の隊員が駆け込んできた。
龍次はテレビのニュースを見ていた。
「何だね!?」
「高野山(こうやさん)が封鎖されました。」
「封鎖?」
「高野山に逃げ込んでくる連中に備えてのことらしいです。」
「そういうことか。」
「大阪では、ワーキングプアーの連中が暴れています。コンビニが暴徒によって襲われています。」
「えらいことになったもんだなあ。」
アキラは、不思議そうな顔をしていた。
「なんだいこの騒ぎは?」
龍次の表情は、いつものように冷静だった。
「いままでの不満が、一気に爆発したんですよ。」
テレビでは、コンビニが暴徒によって襲われ、物品を強奪している様子が映されていた。
「何やってるんだ?みんな、どうかしてるよ!」
「みんなでやれば怖くないってやつですよ。」
「犯罪だよ。」
「きっと、追い込まれているんですよ。」
「何に?」
「生活にです。この余裕のない時代にです。」
アキラはテレビの映像を睨んでいた。
「いったい誰が悪いのかなあ。世の中が悪いのかなあ。」
鶴丸隼人がアキラの隣に立っていた。
「その世の中を作ったのは人間ですよ。」
「…そうだなあ。じゃあ、人間が悪いんだあ。」
「自業自得ですよ。」
「自業自得?」
「人間の限りない欲望が、こういう世の中を作ったんですよ。」
「…そういうことか。」
テレビのなかで、新宿駅はメラメラと音を立て、周りの建物を赤く染めて燃えていた。
「まるで、人間の醜い欲望が叫びを上げて燃えているみたいだ。」
アキラは、なぜか冷静になっていた。
「やりすぎなんだよ。」
その言葉に対する返事はなかった。それぞれに黙ってテレビを見ていた。
「誰かが、ぎりぎりまで値下げするだろう。仕方なく、まわりも値下げする。誰かが無理して売る。まわりも無理して売る。結局、みんな損をする。で、こうなっちゃう。」
誰も答えなかった。
「誰かが止めなきゃ、みんな死んでしまうよ。」
誰も答えなかった。
「人間の欲望を放っておいたら駄目なんだよ。こうなるんだよ。」
誰も答えなかった。
「人間は神様じゃないんだよ。誰かが止めないとこうなっちゃうんだよ。」
誰も答えなかった。
ロボットの紋次郎だけが、テレビを見ながら、ときどきアキラを見ていた。



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