「先生〜!」 男の隊員が駆け込んできた。 龍次はテレビのニュースを見ていた。 「何だね!?」 「高野山(こうやさん)が封鎖されました。」 「封鎖?」 「高野山に逃げ込んでくる連中に備えてのことらしいです。」 「そういうことか。」 「大阪では、ワーキングプアーの連中が暴れています。コンビニが暴徒によって襲われています。」 「えらいことになったもんだなあ。」 アキラは、不思議そうな顔をしていた。 「なんだいこの騒ぎは?」 龍次の表情は、いつものように冷静だった。 「いままでの不満が、一気に爆発したんですよ。」 テレビでは、コンビニが暴徒によって襲われ、物品を強奪している様子が映されていた。 「何やってるんだ?みんな、どうかしてるよ!」 「みんなでやれば怖くないってやつですよ。」 「犯罪だよ。」 「きっと、追い込まれているんですよ。」 「何に?」 「生活にです。この余裕のない時代にです。」 アキラはテレビの映像を睨んでいた。 「いったい誰が悪いのかなあ。世の中が悪いのかなあ。」 鶴丸隼人がアキラの隣に立っていた。 「その世の中を作ったのは人間ですよ。」 「…そうだなあ。じゃあ、人間が悪いんだあ。」 「自業自得ですよ。」 「自業自得?」 「人間の限りない欲望が、こういう世の中を作ったんですよ。」 「…そういうことか。」 テレビのなかで、新宿駅はメラメラと音を立て、周りの建物を赤く染めて燃えていた。 「まるで、人間の醜い欲望が叫びを上げて燃えているみたいだ。」 アキラは、なぜか冷静になっていた。 「やりすぎなんだよ。」 その言葉に対する返事はなかった。それぞれに黙ってテレビを見ていた。 「誰かが、ぎりぎりまで値下げするだろう。仕方なく、まわりも値下げする。誰かが無理して売る。まわりも無理して売る。結局、みんな損をする。で、こうなっちゃう。」 誰も答えなかった。 「誰かが止めなきゃ、みんな死んでしまうよ。」 誰も答えなかった。 「人間の欲望を放っておいたら駄目なんだよ。こうなるんだよ。」 誰も答えなかった。 「人間は神様じゃないんだよ。誰かが止めないとこうなっちゃうんだよ。」 誰も答えなかった。 ロボットの紋次郎だけが、テレビを見ながら、ときどきアキラを見ていた。
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