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作品名:ニート革命軍 作者:毬藻

第108回   月見だんご
初秋の風に、小さな野菊と風の音に語らいながら、ノッポのススキの穂が揺れていた。バックで秋の虫が短い命を惜しむように、それぞれにそれぞれの声で、懸命に声の限りにコーラスを奏でていた。土の下では、蟻たちが黙々と無言で働いていた。
「ススキと来れば、月見にだんごだなあ…」
きょん姉さんは、窓の外のススキを眺めていた。
福之助は、対面側にお地蔵さんのように身動きもせずに突っ立っていた。
化け物のように、首だけが回った。
「姉さん。何をぶつぶつ言っているんですか?」
「おまえさあ、首だけ動かさないでよ。気持ち悪いよ。」
「どうもすみません。電池が減ってきたので、省エネモードになっているんです。」
「だったら、もう休んでいいよ。」
「まだ大丈夫です。十時になったら充電します。何を見てたんですか?」
「ススキだよ。」
「珍しく、風流ですねえ。」
「なんだよ、珍しいとは?」
「わたしは、てっきり、ススキ、月見、そして、だんごかと思ってました。」
「その通りだよ。」
「なあんだ。やっぱりね。」
「高野山で、お月様の下で、ススキを見ながら、おだんごを食べる。いいねえ〜!」
「ススキを見ながらじゃなくって、お月様を見ながらじゃないんですか?」
「そんなこたあ、どっちでもいいだろう。」
「それじゃあ、月見だんごじゃなくって、ススキ見だんごですよ。」
「いちいちいちいち、うるさいなあ〜。」
「なるほどね。だんごを食べるのが目的ですからね。」
「そうだよ、悪い?」
「やっぱり、風流なんかじゃなかったんだ〜。」
「コンビニで売ってないかなあ…」
「あっ、猫だ!」
黒い猫だった。屋外テーブルの上に乗り、眼だけが光っていた。
「さっきの物音、あの猫じゃないんですか?」
「そうかもしれないね。」
大きな望遠鏡を持った三人が転軸山(てんじくさん)の方向に歩いていた。
「あれ〜〜ぇ、さっきも望遠鏡を持った人が歩いていたけど、何なんだろう?」
アニーがベッドの上から答えた。
「この上に、天体観測広場があるんです。」
「あ〜〜ぁ、なるほど。」
「明日は日曜日ですから、きっと泊り込みなんですよ。」
「あっ、そうか。明日は日曜日か。」
「忘れてたんですか?」
「明日から仕事って言うから、平日だと錯覚してました。」
「わたしたちの仕事は、日曜からなんですよ。」
「そうですねえ。」
隣の老人が、表に出て月を眺めながら、大きな声で歌いだした。

  君には君の〜〜ぉ 夢があ〜る〜〜 ♪
   人には人の〜〜〜ぉ 夢があ〜る〜〜 ♪

「あのおじさん、絵は上手いけど、歌は音痴だねえ。」
「だいぶ、酔っていますねえ。」
「高野山で酔っ払うなんて、場所が違うんじゃないの。お坊さん達に失礼だよ。」
「遊びに来てるんでしょう。仕方ないですよ。」
「まあ、そうだけどさあ。」
「高野山では、飲んではいけないんですか?」
「そんなことはないけどさあ。」
「じゃあ、いいじゃないですか」。人間らしくて。」
「ま〜にゃ。」
「ま〜にゃ?」
「猫語だよ。」
「猫語?」
カランコロンとドアベルが鳴った。
「わたしが出ます。」
福之助が出ようとしたら、姉さんが止めた。
「わたしが出るよ。」
姉さんは、すたすたと歩いて、ドアの前で止まった。
「どなたですか?」
広角レンズの覗き穴から覗いた。制服を着た男が立っていた。
「ログハウス管理人です。」
「今開けま〜す。」
きょんん姉さんは、用心深く開けた。
中肉中背の真面目そうな中年の男が立っていた。
「ログハウスの管理人の鎌田です。はじめまして。」
男はペコリと頭を下げた。
「ガソリン猿人たちが暴れています。高野山も封鎖されました。気をつけてください。」
姉さんは驚いた。
「えっ、何のことですか?」
「テレビのニュースを見なかったんですか?」


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