初秋の風に、小さな野菊と風の音に語らいながら、ノッポのススキの穂が揺れていた。バックで秋の虫が短い命を惜しむように、それぞれにそれぞれの声で、懸命に声の限りにコーラスを奏でていた。土の下では、蟻たちが黙々と無言で働いていた。 「ススキと来れば、月見にだんごだなあ…」 きょん姉さんは、窓の外のススキを眺めていた。 福之助は、対面側にお地蔵さんのように身動きもせずに突っ立っていた。 化け物のように、首だけが回った。 「姉さん。何をぶつぶつ言っているんですか?」 「おまえさあ、首だけ動かさないでよ。気持ち悪いよ。」 「どうもすみません。電池が減ってきたので、省エネモードになっているんです。」 「だったら、もう休んでいいよ。」 「まだ大丈夫です。十時になったら充電します。何を見てたんですか?」 「ススキだよ。」 「珍しく、風流ですねえ。」 「なんだよ、珍しいとは?」 「わたしは、てっきり、ススキ、月見、そして、だんごかと思ってました。」 「その通りだよ。」 「なあんだ。やっぱりね。」 「高野山で、お月様の下で、ススキを見ながら、おだんごを食べる。いいねえ〜!」 「ススキを見ながらじゃなくって、お月様を見ながらじゃないんですか?」 「そんなこたあ、どっちでもいいだろう。」 「それじゃあ、月見だんごじゃなくって、ススキ見だんごですよ。」 「いちいちいちいち、うるさいなあ〜。」 「なるほどね。だんごを食べるのが目的ですからね。」 「そうだよ、悪い?」 「やっぱり、風流なんかじゃなかったんだ〜。」 「コンビニで売ってないかなあ…」 「あっ、猫だ!」 黒い猫だった。屋外テーブルの上に乗り、眼だけが光っていた。 「さっきの物音、あの猫じゃないんですか?」 「そうかもしれないね。」 大きな望遠鏡を持った三人が転軸山(てんじくさん)の方向に歩いていた。 「あれ〜〜ぇ、さっきも望遠鏡を持った人が歩いていたけど、何なんだろう?」 アニーがベッドの上から答えた。 「この上に、天体観測広場があるんです。」 「あ〜〜ぁ、なるほど。」 「明日は日曜日ですから、きっと泊り込みなんですよ。」 「あっ、そうか。明日は日曜日か。」 「忘れてたんですか?」 「明日から仕事って言うから、平日だと錯覚してました。」 「わたしたちの仕事は、日曜からなんですよ。」 「そうですねえ。」 隣の老人が、表に出て月を眺めながら、大きな声で歌いだした。
君には君の〜〜ぉ 夢があ〜る〜〜 ♪ 人には人の〜〜〜ぉ 夢があ〜る〜〜 ♪
「あのおじさん、絵は上手いけど、歌は音痴だねえ。」 「だいぶ、酔っていますねえ。」 「高野山で酔っ払うなんて、場所が違うんじゃないの。お坊さん達に失礼だよ。」 「遊びに来てるんでしょう。仕方ないですよ。」 「まあ、そうだけどさあ。」 「高野山では、飲んではいけないんですか?」 「そんなことはないけどさあ。」 「じゃあ、いいじゃないですか」。人間らしくて。」 「ま〜にゃ。」 「ま〜にゃ?」 「猫語だよ。」 「猫語?」 カランコロンとドアベルが鳴った。 「わたしが出ます。」 福之助が出ようとしたら、姉さんが止めた。 「わたしが出るよ。」 姉さんは、すたすたと歩いて、ドアの前で止まった。 「どなたですか?」 広角レンズの覗き穴から覗いた。制服を着た男が立っていた。 「ログハウス管理人です。」 「今開けま〜す。」 きょんん姉さんは、用心深く開けた。 中肉中背の真面目そうな中年の男が立っていた。 「ログハウスの管理人の鎌田です。はじめまして。」 男はペコリと頭を下げた。 「ガソリン猿人たちが暴れています。高野山も封鎖されました。気をつけてください。」 姉さんは驚いた。 「えっ、何のことですか?」 「テレビのニュースを見なかったんですか?」
|
|