「ショーケンさんは、本物のショーケンさんでもないのに、どうしてそんなに彼のことを知っているのですか?まるで同じ環境で育ったみたいに?」 「クローンとして産まれたときから、生活をプログラムされて、ほぼ本物と同じ環境で育てられたんです。」 「完全にですか?」 「それは無理です。半分程度です。」 「自由とかはなかったんですか?」 「それなりの自由はありました。束縛があるから自由があるんですよ。」 「束縛があるから自由がある…」 「自由ばかりだと、自由に束縛されて退屈地獄になります。」 「自由に束縛…、面白いわ〜、それ!」 「束縛から開放されて、そこで自由は生まれるんです。」 「なるほど〜!」 「人は皆、自由の刑に処せられている。サルトルの実存主義ってやつですよ。」 「サルトル…」 「あなたが知らないんですか?」 「知ってますけど、どういう思想かは知らなかったです。教養程度です。」 「十六歳くらいのときに、哲学の先生がいましてね、その方に教わったんですよ。」 「あなたの哲学は、その方にあるんですね。」 「半分くらいは。」 「その方の名前は?」 「極秘の施設なので本名は分かりません。みんなは、毬藻先生と呼んでいました。」 「まりも先生…、まりもって、あの阿寒湖の毬藻ですか?」 「はい。」 「う〜〜ん、そういう考え方は初めて聞いたわ。」 「先生は、人は歳に応じてやらなければならないことがある、とも言ってました。」 「歳に応じて?」 「命をかけて。」 「命をかけて?」 「その年齢でしかできない大切なことがあると。それを怠ると、年取ってから大きな苦しみがやってくると。」 「絶望とかですか?」 「そういう意味です。」 「でもどうやって、それが分かるんですか?誰も教えてくれる人はいないのに。」 「人生を懸命に生きている人には、直感で分かるんだそうです。」 「う〜〜ん。そうかも知れないわ。」 「どうしてですか?」 「わたしが、今までそうだったから。」 「じゃあ、ここに来たのは、その直感的にですか?」 「そうなんです。私の中の何かがそうさせたんです。」 「全ての地位を捨てて?」 「そうです。ほんとうの自由になりたくて。命をかけて。」
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