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作品名:ニート革命軍 作者:毬藻

第106回   偽悪者
高野山の野山には、すっかりと夜の帳(とばり)が下りていた。道の脇には真っ赤な彼岸花が連なって咲き、秋の心地よい風に仲良く揺れていた。彼岸花の近くで、数本のノッポのススキが同じリズムで風に揺れていた。
悲しいくらいに、高野山の空は澄んでいた。ショーケンは、思わず両手を広げて深呼吸をした。
「あ〜〜〜、いい空気だなあ〜。」
ヨコタンはショーケンを見ていた。
「都会の空気とは違いますか?」
「違うねえ〜。身体が清められていくな〜。」
「本物のショーケンさんは、埼玉生まれですけど、あなたはどこで?」
「僕ですか?生まれと言うか、育ったところは大菩薩です。」
「大菩薩って言うと、あの大菩薩峠の?」
「そうです。何もないところです。」
「行ったことはないけど、なんとなくここと似てそうですね。」
「そうね、似てると言えば似てるかな…」
ショーケンは空を見上げた。
「やっぱり高野山の星は輝いているなあ。」
「大菩薩もこういう感じですか?」
「…そうですね。」
「さっき、あの子と話してたとき、涙を流していましたね。」
「えっ、そう?」
「気持ちが優しいんですね。」
「まいったなあ〜。俺は、そんな男じゃないよ。」
「なぜか、いつもそうやって悪ぶってる。」
「悪ぶってる?」
「ほんとうは、お人好しのいい人なのに、無理をしてわざと悪ぶってる。お人好しがばれないように。」
「そんなことないよ。」
「子供には分かるんですよ。目を見れば全てが。これって動物の本能なんです。大人には見えないものが、子供には見えるんですよ。あなたは、とっても心の優しい人だって分かるんですよ。」
「嘘をついてるってこと?」
「そうです。あなたは、悪を演じています。ほんとうの悪人は悪ぶったりはしません。」
「あたっているような、ないような…」
「またそうやって無邪気な嘘をつく。環境が、あなたをそうさせたんですね。」
「無邪気な嘘?」
「目が笑ってました。」
「まるで、心理学者だなあ。」
「ほんとうの悪人は、自分を良く見せようとするものです。」
「なあるほどね。」
「善を演じる偽善者です。あなたは反対です。」
「反対?」
「反対の人間です。」
「反対の人間?」
「あなたは、悪を演じる、偽悪者です。」
「偽悪者!?」



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