高野山の野山には、すっかりと夜の帳(とばり)が下りていた。道の脇には真っ赤な彼岸花が連なって咲き、秋の心地よい風に仲良く揺れていた。彼岸花の近くで、数本のノッポのススキが同じリズムで風に揺れていた。 悲しいくらいに、高野山の空は澄んでいた。ショーケンは、思わず両手を広げて深呼吸をした。 「あ〜〜〜、いい空気だなあ〜。」 ヨコタンはショーケンを見ていた。 「都会の空気とは違いますか?」 「違うねえ〜。身体が清められていくな〜。」 「本物のショーケンさんは、埼玉生まれですけど、あなたはどこで?」 「僕ですか?生まれと言うか、育ったところは大菩薩です。」 「大菩薩って言うと、あの大菩薩峠の?」 「そうです。何もないところです。」 「行ったことはないけど、なんとなくここと似てそうですね。」 「そうね、似てると言えば似てるかな…」 ショーケンは空を見上げた。 「やっぱり高野山の星は輝いているなあ。」 「大菩薩もこういう感じですか?」 「…そうですね。」 「さっき、あの子と話してたとき、涙を流していましたね。」 「えっ、そう?」 「気持ちが優しいんですね。」 「まいったなあ〜。俺は、そんな男じゃないよ。」 「なぜか、いつもそうやって悪ぶってる。」 「悪ぶってる?」 「ほんとうは、お人好しのいい人なのに、無理をしてわざと悪ぶってる。お人好しがばれないように。」 「そんなことないよ。」 「子供には分かるんですよ。目を見れば全てが。これって動物の本能なんです。大人には見えないものが、子供には見えるんですよ。あなたは、とっても心の優しい人だって分かるんですよ。」 「嘘をついてるってこと?」 「そうです。あなたは、悪を演じています。ほんとうの悪人は悪ぶったりはしません。」 「あたっているような、ないような…」 「またそうやって無邪気な嘘をつく。環境が、あなたをそうさせたんですね。」 「無邪気な嘘?」 「目が笑ってました。」 「まるで、心理学者だなあ。」 「ほんとうの悪人は、自分を良く見せようとするものです。」 「なあるほどね。」 「善を演じる偽善者です。あなたは反対です。」 「反対?」 「反対の人間です。」 「反対の人間?」 「あなたは、悪を演じる、偽悪者です。」 「偽悪者!?」
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