「また、変なことを知らない人に質問するんじゃないよ。」 「変なことって?」 「人間は何のために生きてるか、っとかさ。」 「分かりました。」 「人間はね、死んだらおしまいだから生きるの。分かった?」 「分かりました。なあんだそんなことか!」 「なあんだとは、何だよ?」 「もっと難しいことかと思ってました。なあんだがっかり!」 「がっかりとは、何だよ。」 「ただ生きているだけなんだ。」 「…そうだよ。」 「そして、ただ死んで行くだけんだ。」 「…そうだよ。」 「人間って、思ってったよりも単純なんですね〜。」 「単純で悪かったね。」 「あ〜〜あ、つまんないの。」 「つまんない?」 「ロボットに、つまんないなんて言われたくないよ。」 「どうせわたしは。ポンコツロボットですから。」 「おまえ、ここに来てから、変だよ。僻みロボットになってるよ。」 寝ていたアニーが上体を起こした。そして、右手で福之助を指差した。 「僻みロボット、ここにあり〜!」 姉さんは、びっくりした。 「どうしたんですか、アニーさん?」 「あらっ、わたし、いったいどうしたんでしょう?」 「まだ、熱があるんじゃないんですか?」 「そうみたいね。」 「ほんとうに、大丈夫ですか?」 「きっと、わたしの寂しがりやの潜在意識が、そうさせたんだわ。」 「アニーさんは、寂しがりやなんですか?」 「きっと、あなたたちの愉快な会話に加わりたかったんだわ。」 突然、外からガタンと大きな物音がした。窓の方からだった。 姉さんは窓を見た。 「何、今の!?」 福之助が、窓際に行って、窓の外を見廻した。 「何もいませんよ。」 姉さんも窓際に来た。そして、同じように見廻した。 「ほんとだねえ…」 福之助は、暗視眼に切り替えた。 「やっぱり、何もいませんねえ。」 「何かが落ちたような、ぶつかったような音だったねえ。」 「そうですねえ。」 「高野山の幽霊かなあ?」 「幽霊は物音なんか立てませんよ。」 「そうだねえ…」 「あっ、聞こえます!」 「何が?」 「幽霊音です!」 「幽霊音?」 「人間の耳には聞こえない音が聞こえます。」 「それが、幽霊音?」 「はい、人間の耳には聞こえない音を、幽霊音と言います。」 「どんな音なんだい?」 「だから、人間の耳には聞こえない音なんです。」 「うん?どういうことだい?」 「つまり、超音波です。人間の耳に聴こえるのは、二十から二万ヘルツの音です。それ以上、それ以下の音を超音波と言います。または幽霊音と言います。」 「ああ、そうなの。じゃあ、おまえは凄いねえ。その幽霊音が聞こえるんだあ。」 「はい。」 「おまえは、ポンコツなんかじゃないよ。」 「ありがとうございます。」 「で、どんな音なの?」 「だっかさあ、人間には聞こえない音なんですよ。分っからない人だなあ〜!」 「無理に言ってごらんよ。」 「そんなことできませんよ。」 「色で言うと?」 「色で?音をですか?色で?」 「どんな色だい?」 「無理です。音を色に変換することはできません。わたしの能力では。」 「奥の手で!」 「奥の手?そんな手はありませんよ。わたしは化け物じゃありませんから。」 「化け物?何のことだい?」 「右手と左手以外にはありません。」 「どういう意味?あんた、ときどき変なこと言うね。」 「姉さんこそ。」 姉さんは、福之助に向かって手を合わせた。 「そこんとこをなんとか!」 福之助は、姉さんの不意の行為に一歩下がった。 「なっ、何ですか!?」 姉さんは、手を合わせて再度お願いした。 「おねがい!」 「わたしは、お地蔵さんじゃないんですよ。」 「おねがい!」 「いったい何の真似ですか?駄目なものは駄目です。」 「まあったく、ポンコツだなあ。」 「どうせ、わたしはポンコツですよ!」 「あ〜〜〜あ。」 「あ〜〜あ、とは何ですか?失礼じゃないですか。」 「不可能ってことかあ。」 「分かりました。」 「何が?」 「だったら、無理に答えましょう。」 「ほ〜〜?」 「色に例えると…」 「例えると…、楽しみだなあ、どんな答えが出るのかなあ?」 「人間には見えない色です。」 「な〜〜〜んだよ!」 「聞こえない音は、見えない色になります。」 「た〜〜〜、まいった!」 「どうやら、わたしの勝ちですね?」 「何だい、勝ちとは?」 話をしながら、福之助は窓の外を暗視眼で見ていた。
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