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作品名:ニート革命軍 作者:毬藻

第104回   語るショーケン
クリスタル・ヨコタンが出てきた。ショーケンの肩を、ポンと叩いた。
「終わったわ。」
「もう、終わったの。さすが。」
「さあ、帰りましょう。」
「あっ、そう。」
真由美は二人を注意深く見ていた。
「も〜う、帰っちゃうの〜?」
ヨコタンは、少女の頭を撫でた。
「また来るからね。」
「かっこいい歌手の人も帰っちゃうの?」
ヨコタンは指をさした。
「この人?ショーケンのこと?」
「うん、ショーケン!」
「そう、一緒に帰るわよ。」
「お茶でも飲んでいけば〜。」
母親が声を掛けた。
「そう〜うですよ〜。お茶でも飲んでいってくださいよ〜。」
真由美が台所に駆けて行った。
「わたしが、お茶を出すわ〜〜!待っててね〜!」
ショーケンが微笑みながらヨコタンに言った。
「まあ、ゆっくり帰りましょう。」
「そうね、せっかくだからね。」
お兄ちゃんが台所に向かった。
「お兄ちゃん、わたしが持っていくからいいわ。」
「お盆にのせてけ。」
「うん。」
少女は、お盆に載せてやってきた。それから、四角い座卓の上に置いた。
「座ってくださいよ。」
ヨコタンは正座して座った。ショーケンも正座して座った。
少女は、小さな手で湯呑みを二人の前に置いた。
「はい、どうぞ。」
ヨコタンの前には、母親が座っていた。
「どうもありがとう。」
隣には、ショーケンがいた。
「さんきゅ〜〜!」
ヨコタンはショーケンを見た。
「あら、いつも正座ですか?」
「はい。このほうが楽なんです。」
「お行儀がいいんですねえ。」
「このほうが楽なんですよ。」
真由美は母親の隣に座っていて、きょろきょろと二人を見ていた。
「お似合いだわ〜〜。」
ショーケンとヨコタンは、顔を見合わせて笑った。
お兄ちゃんが台所のほうから声を出した。
「真由美、そんなこと言っちゃあ駄目だよ。」
「なんでえ?」
「とにかく駄目なの。失礼なの。」
「は〜〜〜い。」
母親が、誤るような感じで、ゆっくりと頭を下げた。
「すみませんねえ。この子、寂しがりやなんですよ。人が来ると嬉しいですよ。」
ヨコタンは、笑みを浮かべて少女を見ていた。
「そうなんですかぁ。」
「寂しがりやか、じゃあ僕と同じだあ。」
「あら、ショーケンさんも?」
「ええ、ほんとうは寂しがりやなんです。」
「ほんと?」
「はい。」
少女は、相変わらずに、ふたりをきょろきょろと見ていた。
ヨコタンは、壁にかかっている表彰状に目が行った。
「わ〜〜〜、たくさんの表彰状!」
少女が答えた。
「これ、み〜〜んな、お兄ちゃんのよ。」
「何の表彰状?」
「マラソン大会のよ。」
一番左側に写真があった。
「あれは、お父さんですか?」
「お父さん。タクシーの運転手をしてたの。」
母親が語り始めた。
「若者の暴走運転を避けようとして、事故を起こしたんです。」
「そうなんですか。」
ショーケンも語りだした。
「だいたい、交通事故を起こすのは、営業車じゃなくって、たまに乗る自家用車なんだよなあ。」
ヨコタンも発言に加わった。
「日本は狭いのに、クルマが多すぎるのよ。アメリカと違うのに、マイカー・マイハウスでアメリカの真似をして、どだい無理なのよ。住んでる大地の広さが違うんだから。」
「そうだよ。だから、走れるのは営業車だけにすればいいんだよ。遊びは、電車かバイクか自転車。ヨーロッパみたいにね。」
「うん、そうだね。」
「大半の日本人は、そう思ってるよ。」
「そうだね。」
「思ってないのは、上の連中だけだよ。低脳の猿だから、クルマを与えて遊ばせれば、黙って奴隷みたいに働くと思ってる。」
「そうだね。」
「悲しいことに、その程度の人もいるけどさ。」
「ガソリン猿人みたいに?」
「そういうこと。」
「クルマでドライブすることが、裕福な文化生活だと勘違いしている。」
「文化的じゃあないわよね。野蛮人の行為だわ。」
「まるで、猿の遊園地だよ。」
「騙されない利口な人もいるけどね。」
「アメリカにはアメリカの、日本には日本のやり方があるんだよ。」
「そうですね。」
「結局、クルマが売れなくなると、困る連中がいるから売るわけだよ。」
「だれ?」
「いろいろいるでしょう。そういう人たちは。」
「儲けるためだったら、交通事故が増えようと病気が増えようと関係ないわけだ。」
「そういうことだね。」
「事故で人が死んでも、自由主義の自己責任ってことにするわけね。」
「そういうこと。」
「最初っから、方向が間違ってるわけね。」
「そういうこと。人間の競争本能を逆利用して儲けてるわけ。」
「なるほど。」
「一人一人が、もっと自覚しなくちゃいけないんだよ。」
「どういうふうに?」
「騙されてるって。」
「そうしないと、病気になって死んじゃうよ。」
「うつ病とか?」
「そういうこと、人間は結局は弱いんだよ。欲望を自分でもコントロールできなくなるんだよ。」
「だから、もっと自覚しろと?」
「そういうこと。」
「ショーケンさんって、ひょっとして共産主義者?」
「えっ、違うよ〜。自由主義者だよ〜!」
気が付いたら、二人は大学生のように熱心に語っていた。
ヨコタンの携帯電話が鳴った。
「はい。ヨコタンです。」
龍次からの電話だった。
「はい、直ぐに戻ります。」
ヨコタンはお茶を飲み干した。
「ごめんなさい。保土ヶ谷さんが呼んでるので行きます。」
母親が丁寧に頭を下げた。
「ありがとうございました。また遊びに来てください。」
「はい。」
ショーケンは少女に手を振った。
「まったね〜!」
お兄ちゃんも出てきて二人に礼を言った。
「どうもありがとうございました。」
二人は家を出た。
まさとと真由美は、家の前で見送っていた。
真由美は、二人が見えなくなるまで手を振っていた。
「また来てね〜〜!」



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