「でも、おかしいなあ。」 真由美ちゃんの母親は、いたって冷静になっていた。 「若いわ、あなた。」 ショーケンは、不気味に微笑んでいた。 「ありがとうございます。」 「そういう意味じゃなくって、若すぎるってことなの。つまり、本物のショーケンじゃない。」 「…実はそうなんです。そっくりさんなんです。」 「それにしても、良く似てるわねえ〜。」 真由美がショーケンのそばに寄ってきた。 「どうしたら、そんなにかっこよくなれるの〜?」 「そんなには、かっこよくないよ〜。」 「かっこいいわ〜。」 「なんか教えてよ。」 「何を?」 「歌。」 「僕の歌?」 「そう。」 「そうだなあ…、どんなのがいいの?」 「そうねえ、楽しい歌。」 「楽しい…」 「わたしでも歌える歌。」 「真由美ちゃんって言ったよね。」 「そうよ。」 「真由美ちゃんは、どんな歌が好きなの?」 「楽しい歌。」 「なんだよ。さっきと同じこと言ってるよ。」 「そうよ〜。」 ショーケンは笑った。真由美は手を叩いて喜んだ。 「わ〜〜、かっこいい〜!」 「笑っただけだよ。」 「笑い方が、かっこいい〜。」 「しょーがないなあ。そうだなあ…」 ショーケンは腕を組んだ。 「うわ〜、悩むところがかっこいい〜!」 「いちいちいちいち、何もできなじゃないかよ。」 「若いときの歌がいいわ。」 「若いときのね…、楽しいやつか…、そうだなあ、秘密の合言葉かな?」 「それ楽しいの?」 「まあ、楽しいのかなあ?」 「ちょっとだけ、歌ってみてよ。」 「ちょっとだけじゃなくって、ちゃんと歌うよ。」 ショーケンは歌いだした。
3(すりー) 2(つー) 1(わん) お〜イェ〜 ♪ 二人がいつも〜 逢うときは〜 これが秘密の合言葉〜 ♪
真由美が叫んだ。 「それ、教えて〜ぇ!」 「じょあ、ここまでね。」 「おねがいしま〜す!」 「はい。」
3(すりー) 2(つー) 1(わん) お〜イェ〜 ♪ 二人がいつも〜 逢うときは〜 これが秘密の合言葉〜 ♪
「はい、歌って。」 真由美とショーケンは、一緒に歌いだした。真由美は勝手に歌いながら踊りだした。歌い終わると、踊りも止まった。 「はい、この次!」 「真由美ちゃんは、踊りが上手だねえ。」 「そうかしら?」 「誰に習ったの?」 「お父さん。」 「お父さんは、まだ帰って来ないの?」 「お父さんは、もう帰って来ないの。」 少女は急に悲しい顔になった。 「うん、どうして?」 「天国に行っちゃったの。」 少女は泣きそうになったが、ショーケンの顔を見ながら必死に我慢していた。 「…真由美ちゃんは、お父さんっ子だったんだな。楽しいお父さんだったんだ。」 「うん!酔っ払って、いつも踊りながら歌うの。」 「どんな歌?」 真由美ちゃんは歌いだした。それから踊りだした。
通りゃんせ〜 通りゃんせ〜 ♪ 行きは良い良い 帰りは酔っぱらい 酔っぱらい ♪
「昨日、お父さんの夢を見たの。」 「どんな夢?」 「夕焼けに向かっていなくなっちゃうの。追いかけても追いかけても、いなくなっちゃうの…」 ショーケンの目は、少し涙で潤んでいた。 「だからね、夕焼けこやけの歌を歌うと、悲しくなっちゃうの。」 「そうか…」
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