龍次は、目玉を上に向け考え込んでいた。 「ひょっとしたら、あの子かなあ…」 「龍次さんって、いろんなところに友達がいるんだねえ。つまり、人畜無害ってことかな?」 「なんだよ、それ?褒めてんのかよう?」 「褒めてるよ。」 「変な褒め方だなあ。」 「これ、返信しないでいいの?」 「後でするよ。帰ってから。」 彼女は、バッグの中からポリ袋を取り出した。 「食べる?田中製菓のクレソンせんべい?」 「クレソンせんべい?」 「龍次さん、クレソン好きでしょう。」 「良く知ってるねえ。」 「親戚の人が作ってるの。」 「その田中製菓?」 「はい。ピリっとして、六角形で、とってもおいしいんですよ。」 彼女はポリ袋を破って中を見せた。 「ほんとだ、六角形だ。」 「どうぞ。」 龍次は、一つ取った。そして、口の中に入れ噛み砕いた。 「うん。いい味してるねえ。」 「そうでしょう。」 「どこで作ってるの?」 「田中製菓って言ったじゃない。」 「あっ、そうか。」 「ハイテク案山子(かかし)、いい内職ねえ。」 「どうして?」 「龍次さんはドライブが好きでしょう。ドライブしながらできるじゃない。」 「ああ、そうだね。」 「わたし、転職を考えてるんだけど、楽な仕事ないかなあ?」 「どんなあ仕事がいいの?」 「頭を使わない楽な仕事。」 「じゃあ、主に身体を使う仕事?」 「そうね。それがいいわ。」 「そりゃあ無理だよ。」 「なんで?」 「どんな仕事でも、頭は使うよ。遊びじゃないんだから。」 「そうかしら?」 「そっうだよ。どんな単純な仕事でも頭は使うよ。」 「お掃除でも?」 「そうだよ〜。頭を大いに使わないと、効率的には掃除はできないよ。」 「…そうだね。」 「何だってそうだよ。頭を使わない仕事なんてないよ。」 「そうなんだよねえ〜。」 「そういうこと。」 「そう言えば、田中製菓の社長も、同じことを言っていたわ。」 「さすが社長!伊達に社長はやってないね。」 「肉体仕事は、手先を使うから、知識よりも知恵が必要なんだよ。」 「そういうことか。」 「焦らないで探したほうがいいよ。焦るとろくなことはないよ。」 「そうですね。」 彼女は軽く溜息をついた。 楽器を持った人たちが入ってきた。五人だった。メンバーたちのコスチュームの背中には、南無大師遍照金剛(なむだいしへんじょうこんごう)とプリントしてあった。 彼女は驚いた。 「根来衆(ねごろしゅう)バンドだわ!」 「えっ!?」 彼らは、二人の席に近い窓際の席に座った。茶髪の男が携帯電話を取り出した。 「連絡だけしとくか?」 隣の男が頷いた。 「そうだな。」 茶髪の男は携帯電話のボタンを押した。そして小さな声で話し出した。 「チェックメイトキングツー、チェックメイトキングツー、こちら卍根来(まんじねごろ)エイト…」
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