暴徒らしい男が走っていた。人々は、その暴徒を避けていた。 「まだまだ終わりそうもないなあ。」 「そうみたいねえ…」 八歳くらいの男の子が走っていた。その後から六歳くらいの男の子が必死で、べそをかきながら走っていた。 「兄ちゃん〜〜〜!待ってよ〜!」 「早く走れよ〜〜!」 弟が転んだ。 「兄ちゃ〜〜ん!」 兄は振り返った。急いでやってきて、弟を起こした。 「だいじょうぶか!?」 「だいじょうぶ!」 兄は手を引いて走り出した。弟も必死で走っていた。 それを見ていた龍次は、思わず叫んだ。 「頑張れ〜!」 龍次の目は潤んでいた。 彼女は。、龍次の小さな涙を見逃さなかった 「どうしたの、龍次さん?」 「うん、昔のことを思い出しちゃった。兄貴を必死で追いかけていた頃をね。」 「龍次さんって、意外とセンチメンタルなんだね。」 「歳のせいかな。」 「龍次さんのホームページってあるの?」 「あるよ。」 「見せてよ。」 「ああいいよ。」 龍次は自分の前のパソコンを操作した。 「出たよ。」 「何ていうホームページなの?」 「ハイテク案山子(かかし)の吠太郎。」 「ハイテクかかしのほえたろう?」 彼女も自分の前のパソコンを操作した。 「ああ、これだ!」 「どう?」 「案山子(かかし)を売ってるの?」 「そうだよ。」 「内職で?」 「そうだよ。」 「凄いじゃん。」 「大したことないよ。」 「売れてるの?」 「まあね。今日も大菩薩まで、十本届けに行ったんだよ。」 「十本も、凄いじゃない!」 「まあね。」 「一本いくらなの?」 「五千円。」 「五千円もするの?」 「ハイテク案山子だからね。」 「じゃあ、十本で五万円!」 「そうだよ。」 「凄いじゃん!それで食べて行けるんじゃないの?」 「そうかも知れないね。でも、売れるのは時々だから。」 「ハイテクって、どういうの?」 「人間には聞こえない、動物の嫌いな音が出るんだよ。」 「なんだ、それだけ?」 「大切なのは、動物の種類を感知して、その動物が嫌いな音波を出すことなんだよ。」 「あ〜、そうなの。」 「そこが特許なんだよ。」 「特許なんだ。さすが龍次さん!」 「別に大したことないよ。」 「そういう理科系のことって、さっぱり分からないわ。龍次さんは、一流大学の理科系だもんね。」 「まあね。」 「でも、この案山子の顔、ちょっとセンス悪いんじゃない?」 「そこがいいんだよ。」 「なんで?」 「センスのいい顔だと、動物が恋をして寄ってくるだろう。」 「恋をして寄ってくる?そうなの?」 「そうだと思うんだけど。」 「だから、こいいう顔なんだ。」 「そういうこと。これだと逃げて行くだろう。」 「どうして逃げるの?」 「人間と同じで、ダサいやつには近づいては来ないんだよ。」 「どうして?」 「ダサいのが感染するだろう。」 「そうなの〜?」 「人間心理も動物心理も単純なんだよ。」 「動物にも心理があるの?」 「あるさ。動物心理学ってのもあるんだから。」 「なるほど〜。」 「この顔、ちゃんと著作権登録もしてあるんだよ。」 「著作権の登録ってあるの?」 「あるよ。著作権は自然に発生するものだけど、誰も証明してくれないだろう。」 「そう言えば、そうね。」 「こういうものはね、特許だけでは駄目なんだよ。」 「さすがだわ。やることがインテリだわ〜。」 「そうかなあ。」 「ブログとかはないの?」 「ありますよ。そこの、家のマークをクリックするの。」 「ああ、これか。」 「誰でも、自由に書き込めるよ。クレームが多いけどね。」 「クレーム。」 「値段が高いだの、ちゃっちいだの、センス悪いだの。」 「だったら最初から買わなきゃいいじゃんねえ。」 「そうだよなあ。」 「みんな、きっと不景気なのよ。あっ、書いてある書いてある。」 「何て書いてある?」 「読もうか?」 「読んでよ。」 「吠太郎使用者のものですが、説明書が分かりにくいし〜〜、センスがダサイです。なんとかしてください。自然薯(じねんじょ)を売ったほうがいいんじゃないかな〜〜。」 「自然薯のこと知ってるなんて、誰だあ?」 「きょん姉さんって書いてあるわ。」 「きょん姉さん?」 「知り合いなの?」 「知らないなあ、そんな人。」
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