「ちょっと待ってよ」 すると、前野は手をあげ、笹川に発言を求めた。 「何ですか前野さん」 「何で。まいなんですか?」 「それは一番最近、はいったので記憶が鮮明だからです。この事は刑務官の二人に同意を得てあるので」 自殺を繰り返すものにとって自殺に至る経緯の記憶は色あせるものではない。 「それはこの前の腹癒せではないのですか?」 この前のことを知らない数名の受刑者は首を傾げた。 「前野さん。関係ないことを言うと退場させますよ」 水本が前野に警告を与えた。 「もう いいよ。しずく。私話すから」 彼女がそれを話すことを決めた。 心の傷が癒えてない彼女には自殺の詳しい理由を話すのはつらいこと だが今の彼女は「売られたけんかは買ってやろう ではないか」という 心境で興奮していたので話す事は苦ではなかった。 「では。北原さん。お願いします」 「私の自傷の原因は結婚する予定だった彼氏の裏切りです。私の彼だった人はプロの総合格闘技の選手です。その人との出会いは彼の所属するジムに私が通ったところから始まりました。 最初、私はそのジムに仕事の同僚の強引な誘いで行きました。仕事はみなさんご存知の公立小学校の教諭です」 彼女は「仕事は〜です」のところを水本を睨みながら言った。 「私は格闘技が嫌いでそのジムに行く 事は一回きりと決めていました。しかし、インストラクターでもある彼の指導を受け、彼の優しさを感じて外見も好みだったので一目惚れしました。それから、彼がインストラクターをやる週三回の曜日は欠かさず行きました。通い始めて一ヶ月ぐらいで私から食事に誘いました」
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