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作品名:自殺が罪になった日 作者:札中A斬

第2回   2
「作業きついでしょ?」
「そう ですね。あのう。名前忘れちゃったんですけど」
 彼女は受刑者の自己紹介のとき鋭い眼光で彼女を見てくる 受刑者が依然多かったので目線を下に落として他の事を考えていた。よって受刑者の話を聞いていなかった。
「高山です」
「あっ。よろしくお願いします」
 彼女は刑務官の会話を盗み聞きした時に出てきたあの高山だと 思って動揺した。
「こちらこそよろしくお願いします」
「ところで高山さんはいくつですか?」
 彼女は会話が終わってしまいそう だったのでとりあえず年齢を聞く ことで会話をついないだ。
「三五です。北原さんは?」
彼女は同じぐらいかそれより下だと勝手に予想していたがロングヘアで落ち着いた雰囲気の童顔、高山は結構、年を食っていた。
「私、三〇です」
「そうなの? ごめん同じぐらいだと思っていた」
「そんなにふけています?」
「そうじゃなくて。見た目では二十後半ぐらいだと思ったんだけど。食事のとき、あのメンバーと座ってるのに普通にしてるからすごいなと思って、勝手に同い年だと思ったんだ」
「そう ですか。洗濯見に来たんですか?」
「それもあるけど私、友達いないから作業終わったら、すごく暇なんだよね。お願い。友達になって」
 高山は深く 頭を下げた。
「なりますから。頭上げてく ださいよ。」
「ありがとう」
「みんなにこんな頼み方してるんですか?」
「いや。北原さん。優しい目してたから」
「そんな。優しいだなんて。私優しく なんかありませんよ」
「絶対優しいよ」
「おーい。何やってんの? さとみちゃん」
 食堂の扉から顔を出して彼女達の方を見る奴がいた。
 笹川だ。
「話してるだけです」
「そうなの。さとみちゃん。あなたはジャージかスウェット しか着たら駄目だって言ったでしょ」
 そういえば、高山は食事のときジャージを着用してた。
「すみませんでした」
「うん。わかってるならいいよ。今度そんな可愛い服きてたら、またストリップさせちゃうぞ」
笹川が高山を脅した。
「はい。気をつけます」
「宇美子さん。CM終わりましたよ」
食堂の中から手下の声が聞こえた。その声で笹川は頭を引っ込め、扉を閉めた。
「えっ。何。スト リップって?」
 彼女は扉が閉まり、すぐ 高山を問い詰めた 。
「スト リップはスト リップだよ」
「それ。いじめじゃん。刑務官にいったの?」
「言ったけど。あの人たちが口あわせしたから、私が嘘ついたことになったんだよね」
「あのバカ刑務官なら そうなっちゃうよね。でも騒ぎになったんじゃないの?」
「何で知っるの?」
「ちょっとね」
「それはストリップじゃなく て厩舎の時のやつ。私が搾乳おそいから糞落とすみぞに落とされたんだ。あの下ベルトコンベアになってるの知ってる?」
「そうなんだ。知らなかった」
「行き先は肥料にするため糞の堆積場。そこ に乗せられて笹川さんがそのスイッチ押して私が運ばれてるのを突然入って来た大和さんが助けてくれたの」
「あいつ最低」
「でも笹川さんも堆積場には入れる気はなかったと思うんだ」
「そういう問題じゃないの」
「刑務官は見てみぬふりしたんでしょ?」
「あのときは別のところにいたって言ってたんだよね」
「それを見てみぬふりっていうの」
「そうなんだ」
 高山は落胆した。
「そうなんだじゃなくて。このままじゃだめだよ。よし。作戦立てよ。私の部屋に来て。作戦会議だ」
彼女は笹川をこらしめ作戦を考えるべく、自室へと戻った。
 彼女らがその途中に食堂の前を通ると。
「お二人さん」
 奴がまたそこから顔を出した。
「はい」
 気詰まりした表情の高山が答えた。
「おやすみ」
「おやすみなさい」
 彼女は首を下に動かしただけだった。
「北原先生。朝六時だから遅れないでね」
 あの刑務官達が洩らしたのであろう。
「はい」
「宇美子さん」
「はーい」
 笹川は地声のハスキーボイスよりも低くした声で返事をして、顔を引っ込めた。
「いこ」
 彼女は笹川の顔がその中に入った後も そこから動かない高山に声を掛けた。
「着替えてく るね」
「うん」
 彼女の自室の前に着く と高山がそう言って、その場から離れた。
「まい。何してた? 遅いじゃん」 
 彼女が部屋に入ると前野がベットの上から話しかけた。
「高山さんと話してた」
「えっ。あいつ。舞に話しかけてきたの!  止めな。あいつと付き合うのは」
「なんで? いじめられてるから」
「そうに決まってんじゃん。まいはここじゃ先生じゃないんだから。変に正義感見せるとまいもいじめられるよ」
「みんな知ってんだね。言ってないのに」
「水本が秘密ねっと か いいながら笹川に言ってんの聞いちゃった」
「そうなの。でも正義感とかじゃなく てだめなことはだめじゃん」
「それが正義感っていうの。こういうとこは正義なんてないの。ルールに従わないと地獄みるだけ。優等生のまいには理解できないかもしれないけど これが現実なの」
「じゃあ。私がルール作る」
「もう いい」
 前野は枕元にあったマンガを手に取り顔を隠した。
 それから数分が経過し、彼女は机に向かい日記をつけていた。
「コン、コン」
「はい」
 彼女がノックに声を返した。
「高山です」
「入って」
 高山がおもむろに入って来た。
「早く 閉めて」
 彼女は笹川を警戒してドアを直ぐに閉めさせた。
「上がろうか」
 彼女は自分のベットの上で作戦会議すること に決めた。  
 ベットの上で会議を始めた二人は中々いい案を出せなかった。
「ねえ。つなぎのポケットにレコーダー仕込んでいじめの現場押さえたら」
 彼女を見捨てたはずの前野が隣のベットから助言をした。
「ナイスしずく。でもレコーダーないよ」
「私の貸してあげるわよ」
 この刑務所の入所時に持ち物検査はあるが、持ち込みが禁止 されてるのは刃物類と携帯電話だけだ。
 それと無駄毛処理用剃刀のI 字型は禁止されている。
「何で持ってんの?」
「弁護士に禁止されて無いなら身を守るために持っていった方がいいよ。っていわれた」
「確かに。何されるかわかんないからね」
「そっち行っていい?」
「寂しかったんだろ。いいよ」
「うん」
 前野は二人のいるベットにあがり二人の間に割って入ってそこに座った。
「狭いね」
「好きであがったきたんだからそういう事いわない」
「すいません。先生」
「ばかにしてんな」
「やめなって」
二人のいざこざを高山がとめた。
「それでどうする?」
 彼女のことばで本題に入った。
「笹川さんは朝はいそがしいからそういう事しないけど。午後の厩舎そうじのときにやるんだよね」
「そう。そう」
「しずくもやられたの?」
「ちょっとね。でも、手下になるふりをしたらやらなくなった」
「私も手下になったんだけど酷くなる一方だった」
「高山さんはト ロいから」
「コラッ」
「先生。ごめん」
「じゃあ。明日の午後のそうじで決行するわ」
「どうやって?」
「わざと遅くやって。笹川を怒らせて高山さんのストリップの事を自白させる。どう? 完璧でしょ?」
「うん。完璧だけど気をつけなよ。味方はいないんだから」
「頑張りますよ。先生は」
「じゃあ。レコーダー渡しとくね」
 作戦会議ぎが終った。
 この後、彼女はI Cレコーダーのレクチャーを前野から受けた。
「これでバッチリだな」
「まい。乾燥にいれてきてないでしょ。早く 入れないと十時になるよ」
 前野に言われ、急いで洗濯場に向かった。
 これを見た高山も部屋に戻った。
 洗濯場から戻り、さっきから二度の中断をしている日記に取り掛かった。
「これが成功したら住み心地が良くなるね」
 彼女のイスの後ろに自分のイスを持ってきてマンガを読んでいる前野が話かけてきた。
 すると。
「コン。コン」
「さとみちゃん?」
 彼女がそのノックの主に質問した。
「違う。大島だ。開けろ」
「はい」
 彼女がそこに駆け寄りドアを開けた。
「これ」
 大島は彼女のつなぎを差し出してきた。
「はい」
 彼女はそれを受け取った。
「明日からあんたが乾燥やりなよ」
 大島は無愛想な話し方をしてその場から去っていった。
「何。あいつ。パシリのく せに人に命令して」
「うん。でも、大島だってかわいそうだよね。好きであんな奴の手下になってるわけじゃないんだから」
  彼女は前野のと会話しながらも奴がいるのではないかと思い、廊下のようすをうかがい異常がなかったのでドアを閉めた。
「先生は優しすぎるの。いじめは周りにいるやつらも同罪んだから。あいつらも潰すつもりでやらなきゃ。先生がやられるよ」
「だから先生はやめろって」
「はい。先生」
「あんたいいかげんにしないとおこるよ」
 じゃれあい後、彼女はやっと日記を書き上げ、乾燥後の洗濯物を畳み、明日の支度をして消灯し就寝した。
 時刻は九時五〇分だった。
 この刑務所は通常、朝九時から夜六時までしか刑務官がいない。
 その他の時間は警備員一名が巡視をおこなう。
 職員がいなくなることは責任問題の面ではあってはならないが、国家公務員の刑務官が国家公務員の大幅削減により減少し、刑務所の維持費の予算も減らされるている状態なので。近隣住民に害を及ぼすことがないであろうこの刑務所の人間配置はこんなに手薄なのである。

翌朝。
彼女が目を覚ました。
ドアの上の壁に掛けられている刑務所備品の時計はまだ、五時半だった。
「ああ。痛い」
 もう少し寝たいと こ ろだが、前日の筋肉疲労で腰から背中にかけての筋肉、両腕の筋肉が悲鳴をあげ、彼女の睡眠を妨げる。
「起きるか」
彼女はしばらく、ボーっとしたあと動き出した。  
 ベットから降り、身支度を整え、トイレで洗顔してから厩舎に向かった。
「おはようございます」
時刻は五時五〇分ぐらいだが、そこにはもう奴らがいた。
「えさやり始めて」
 大島が前日と同じ態度で彼女に接した。
「はい」
 彼女はえさやりを始めた。
 一人六頭の牛を担当する。
 しかも毎日同じ牛を。こうしたほうがいいらしい。
「搾乳機つけようか」
 一番作業の遅い彼女に気をつかうようなタイミングで笹川がみなに声を掛けた。
 意地悪い奴だが仕事との線引きはできている。
 その後、搾乳が終わり。朝の仕事が終わった。
 彼女は刑務所に帰り、つなぎを脱ぎ、手洗いを済ますと、食堂に急いだ。それは奴の餌食にならないことだけではなく 空腹を抑えきれなかったから でもある。
「いただきます」
 直後に彼女はごはんをかきこんで食べた。
 こんなのは大学のテニスサークルの合宿以来であった。
「ごちそうさまでした」
 後方付けはまた厩舎組みだった。
 この日は笹川の監視も無く、伸び伸びとテーブルを拭いた。
 笹川はせっせとテーブルの下をほうきで掃いていた。
 方付けが終了すると一時間の休憩だ。  
 この休憩は定時に来る集乳車の時間まで搾乳を終わらせないといけないため搾乳組は六時の起床を義務付けられている。それに対して加工組は七時起床で朝食作りをするのでその差を埋める為の時間である。
 彼女は部屋に戻った。話し相手は仕事にいって、する事がないので寝る事にした。                     
 そして。
「北原さん。もうみんな行ってるわよ」
 彼女は水本の声で目を覚ました。
 そして、彼女は水本と共に厩舎に駆け寄った。
 厩舎に入り、彼女は笹川に罵声を浴びせられるのではないかと思ったが笹川は何も言わなかった。  
 この時間は牛の体調を調べる時間だ。
彼女は水本にチェックする点を教えてもらいながら自分の班の牛達を見て回った。
チェックは一〇分ほどで終わり、異常が無かったので刑務所に戻った。
刑務所に戻り。お次は昼食作りだ。
昼食作りのまえに牛臭く なった手を入念に洗うよう水本に言われた。
彼女はその際に食堂の掛け時計が目についた。
一〇時半だった。
次に彼女はエプロンをし、まず、炊飯を任された。
 彼女はここに入る前、同棲をしていたので米を研ぐことなどお安い御用だと思っていたが、さすがに一升の米を研ぐのは容易いものではない。中々水が透明にならない。
研ぐ事十分水が透明になってきた。
 その後は釜に水をいれ、炊飯なのだが、家庭用と違ってI H炊飯器ではなく ガス釜なので勝手が分からない。   
 炊飯を任されたときあんなに自信満々な顔で取り掛かったのに彼女は申し訳なさそうに水本にそのやり方を聞いた。
水本の指示で彼女は釜をガス部分に設置し、蓋をして、ガスのスイッチを押した。
 それを押し続けるとチッチッチッチッという音が鳴り次にボッというガスの大きい音が聞こえ、ガス部分の隙間から青い炎が見えた。
彼女はそれらが怖かったので後ろに仰け反った。
 その後彼女は炊飯で戦力外だと判断されたので調理はさせてもらえず、野菜を切ったり。食器を出すなどの簡単な事しかやらせてもらえなかった。
 一方笹川はこの日のメニュー親子丼の親子の部分を慣れた手つきで調理をした。
 彼女はそれに嫉妬した。
「北原。チーズ班呼んできて」
 彼女はちょっと前に帰ってきた加工組の班員を各部屋から呼んでくるように笹川に言われた。
  前まで彼女は生徒達に指示を出す立場の人間だった。しかし、ここに来て人に指示を受けてばかりなのでどこか腑に落ちなかった。
 彼女は食堂を出たあとに不満な表情を浮かべ、その指示通り加工組を呼びに行った。
 その後、彼女は笑顔を装い各々に声を掛けた。
 そして、食堂に戻り、エプロンを外してその席に座った。
「いただきます」
 彼女は「笹川が作ったものがどんなもんじゃい」と 思いそれを睨みながら食べた。
 それはおいしかった。
 それを空腹のせいにしようとしたが肉体労働をしたわけではないので残念ながらそのせいにはならなかった。
 厳しいジャッジをしてみたがおいしいという評価になってしまった。
 彼女は「くやしいです」という心境であった。
「ごちそうさまでした」
 彼女は食器をキッチンに運んだ後、後肩付けは加工組がやる番なので部屋に戻った。
  その後、彼女は食後の歯磨きをし、再び部屋に戻りイスに腰掛けた。
「おっつー」
 前野が帰ってきた。
「なに?」
「疲れてますね」
 前野はドアを閉めた。
「ちょっと静かにしてよね。イメトレ中なんだから」
「イメトレって例のやつのイメトレ」
「そうに決まってるでしょ」
「がんばってね。先生。私達弱者のために」
「任しとけ」
 前野はいつの間にかはしごを上ってベットの上にいた。 その後、彼女は目をつぶりイメトレをしたが、眠気に負けてその体勢で寝てしまった。  
「先生。先生」
「うっ」
 彼女は前野に肩を三回叩かれ、目を覚ました。
「何寝ぼけてんの。かわいいけど」
「ごめん」
「ごめんじゃなく てさ。これ。ちゃんと持ってきなよ」
 前野は彼女の机に置いてあったI Cレコーダーを手に取り、彼女に渡した。
「私もう 行くから。健闘祈ります」
「はい」
 彼女は前野に向けて右手で敬礼をした。
「カレンダーめく っておいて」
 前野は部屋を飛び出した。
  彼女は岐路灯のカレンダーに近づきそれをめくった。
 この日の岐路灯の言葉は。
〈長いものにぐるぐる巻き。っていう生き方は今の時代、欠かす事ができなくなったけど。自分が必死で守ってる気持ちだけは窒息死させんじゃねえぞ〉
 果たして、笹川にぐるぐる巻きの大島らはそれを守りきれているのか?
 彼女はカレンダーを前野のベットの枕元に置き、決闘場へと向かった。
 そして、厩舎に着くと、開き扉を開けようとしたが重く て開かない。
 その扉はトラックも入れるようにと高さは三メートルぐらいあった。
 彼女は自身の腕力では両扉はいっぺんには開かないと確信したので。彼女はターゲットを右の扉に絞りその扉の取っ手を両手でつかみ全体重をうしろにかけた。
 すると、扉は開いた。
 彼女は扉のスライドのスピードについていけず、尻餅をついた。
 そして、彼女は立ち上がってその中に目を向けた。
 当然、奴らはいななかった。
 彼女は扉を閉めると奴らが来たらまた重い扉を開けないといけないと思ったので扉を閉めずに寒気の当たらない厩舎の奥に入っていった。
「寒い。寒い」
 といいながら。しばらくして、奴らがやってきた。
 笹川は開いてる扉を見て彼女が厩舎内にいることに気付いた。
「あいつどこだよ?」
 厩舎内奥にいる彼女に笹川の声が届いた。  
「おーい。北原」
「はい」
 真っ暗な厩舎の奥から彼女が出てきた。
「お前。何してんだよ」
「ちょっと寒かったんで」
「ちょっと寒かったとかじゃなくて。電気ぐらいつけろよ」
「場所わかんないです」
 照明がついた。
 その天井に吊るされている照明はパッとつくのではなく除々 に明るくなった。
 彼女は笹川の鋭い視線を避けるため入り口の方に目に向けた。
 入り口付近には大島の姿があった。
 大島の直ぐ横には照明のスイッチが見えた。
「場所わかんないって。あそこにあるでしょ」
 笹川は彼女が見てる目線の先を指差した。
「はい。すいません」
 彼女は「もうわかったんだから指差さなく てもいいんだよ」と思いながら謝った。
「さあ。はじめましょうか」
 入って来たばかりの水本が作業をするように促す。
 彼女は作業が始まり。開始十分ぐらいは水本の監視があり、 真面目にやっていたが、水本の監視が外れるとわざとダラダラと作業していた。
 その後、奴らが次々作業を終える中、彼女はまだ終わっていなかった。
「おい。北原。手が痛いのか?」
 笹川近づいてきた。
 彼女はその問いかけを無視した。
 その時、彼女は心の中で「よしっ」と呟いてから笹川に背を向けて。つなぎのポケットの中にはいっているI Cレコーダーをその中で指の感覚を頼りにレコーダーの録音ボタン押した。
「何で後ろ向いたの?」
「とく に意味はないですけど」
「あんた。どこか悪いんでしょ? 朝と動きが全然違うじゃない?」
「別に」
「あっ。生理痛?」
「違います。笹川さん達と作業したくないだけです」
彼女は強引なケンカの売り方をした。
「なにそれ。けんか売ってんの?」
「売ってますね」
「なにしんてんの?」
 どこかに行って戻ってきた水本が駆け寄ってきた。
「笹川さん。高山さんにストリップさせたでしょ。その事ちゃんと高山さんに謝ってくださいよ」
「そんなことしてないわよ」
「そうですか。でも、証拠残ってるんですよね」
「証拠ってなに?」
 この言い争いを止めないといけない立場の水本は完全に聴衆となってしまった。
「あの時、高山さんはトレーナーのポケットにレコーダー仕込んでいたんです。それにバッチリ笹川さんの声入っていましたよ」
「まじで! でもあいつがへまばっかするから」
「そんな言い訳。警察に通用しないですよ」


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