高校生になった途端、それは始まった。
理由なんて知りやしない。ただ、逆らわず、従順で、あいつらにとって僕は都合のいい存在だったのだろう。 最初はなんてことない、スキンシップのようなもの。それがだんだんエスカレートしていった。 靴が隠され、椅子には画鋲。トイレでは殴る蹴る水をかけられる。 ある意味クラスの中心はいつも僕だった。
そんな僕にもセリヌンティウスがいたのさ。隣のクラスの岡崎。 いじめられてるって事実を知ってなお、僕と友達でいてくれる。 そうしていたらいつの間にか岡崎もまとめていじめの対象になっていたのさ。
ごめんよ岡崎。それに父さん、母さん、弟の裕太。 僕は今、精一杯の、搾りかすみたいな小さな勇気をとてもつまらない事に使おうとしているよ。 僕が今両の手で掴んでいる緑色のフェンスを離して、ほんの少し後ろの方へ体重をかければ支えのない僕の身体は宙へ浮かぶ。 僕が立っているこのビルは五十階建て。よほど幸運、いや、この場合は悪運が強くない限り、僕は死ぬ事が出来る。
高鳴る心臓はようやく死ねるという高揚感からか、それとも単に恐怖しているのか。 空を見上げれば月が僕を真上から見上げている。 僕はもう一度心の中で家族と唯一の竹馬の友に謝罪するとフェンスから手を離した。
「自殺か。」
手を離そうとしたその時、低めの声が僕の両手をまた緑を握らせた。 声の主はいつの間にか僕の近くのフェンスを挟んだ先に立っていた。
「つまらない事をする奴もいるものだな。」 「止めないでください。」 「別に止める気は毛頭ない。本気で死にたいならさっさと飛びたまえ。」
男は僕を見つめたまま煙草を取り出し、火をつける。
「どうした。飛ばないのか。」 「……」 「タイミングが必要か? では私が3つ数えてやろう。」 「あなたはここで何をしているんですか? こんな廃ビルで。」
男は煙草を含み、煙を吐き、間を置いてから答えた。
「君の命を頂きに来た。」
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