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作品名:方向オンチにしか見えない世界 作者:錦小路真理

第9回   人間、ひらきなおりも必要だよ
 拝啓、母上様。
 ギリシャは大雪です。寒いです。懐も寒いです……
 ……そんな気分。
 クレタも翌日は雪。ちょっと積もってるし。吹雪いてるし。ここ結構南だよな〜?
 豪華(?)ホテルのロビーで、時間ぎりぎりまでTVの前で粘る……でも出なければ。
 一応空港に行ってみた。案の定、アテネに着陸できないので飛行機は飛ばない。
 アテネのツアー会社に電話しないと。電話は超苦手……電話は身振りもメモも使えないので二人掛り。聞く→喋る→また聞く→喋る……受話器のリレー。急がしいったらありゃしない。
 しかも公衆電話の代金すら気にしながらの通話だ。
「ホテル紹介しようかって言ってるけど……なんか高いよ」(交代)
「いえ、自分たちで見つけます!」(交代)
「あ〜もう小銭がない〜!」
 残る手持ちは食事代くらい。よりによって日曜なのが恨めしい。
 なんとか宿は確保したものの、豪華ホテルの後の安宿は小奇麗ではあったが、シャワー争奪戦に破れボイラーの湯が尽きて風呂には入れず、ヒーターもきかず極寒。外が寒い分、ガラスの無いホテルより寒いかも。陳情して毛布はもう一枚づつ頂いたが部屋でもコートを脱げない。
 なんか勝手に部屋にネコ入ってきてるし……まあいい、生きた湯たんぽを抱いて寝れば温かいかな〜とちょっと思ったが、動物が苦手なYに放り出された。ああ、湯たんぽが……
 貧乏は心も寒くするよ〜。
 とりあえず寒い町を彷徨ってみる。
 イラクリオンではあちこちで殿方に声を掛けられたが、
「ね〜、お茶のみにいこ〜♪」
「私、英語わかりません〜」(←英語)
「君たち日本人〜? 一緒に遊びに行く〜?」
「あ〜? 日本? 違う。私たち中国の田舎から来たヨ〜」(←英語。ニュアンス)
 ……みたいな大嘘まで繰り出し(中国の方、本当にスミマセン)かわす。
 こういう時に来いよ、手下の犬の群れ。イラクリオンはアテネより無法地帯だとガイドブックにもあったが、ちょっとホントっぽい。今はどうか知らないけど。
「明日も飛ばなかったらどうしよう……ローマ行く飛行機に乗れなかったら……」
 いかんいかん、心が荒んでいく。こうなったら開き直りしかないぞ!
 開き直り。それは私の十八番だ。超方向オンチやその他イロイロと問題のある私が、ここまでなんとか生きて来てるのはこれのおかげであろう。さあYよ、真面目な君もご一緒に〜(←催眠術)
 ……で、開き直った私達は、ありったけのお金で豪華な夕食を食べる事にした。昼間店の前を通りかかった時、とてもおいしそうな匂いをたてていた丸鳥のロースト。あれをぜひ食べようではないか! きっと心が温かくなるはずだ。
 ……ってどこだったっけ?店。開き直りと一緒にYに「何か」もうつったのか、しばし二人で町中で迷う。迷いつつ男共と野良犬の誘いを退け、おいしい匂いの店に辿りついた。
 ……美味しかった。とても。匂いだけじゃなく味も。
 そのせいで宿代は無くなり、急遽出費のあるような事がおきませんようにと祈りつつ、極寒のホテルで一夜を過ごした。二人して迷った甲斐あってか、嘘のような晴天の翌日、銀行が開くのを待って両替してからお金を払ったのだった。ごめんね宿の人、チップもなくて……。
 気温も懐も少し暖かくなり、半日イラクリオン市内をぶらついて早めに空港へ。途中いきなり停電騒ぎもあったが、私たちが乗る予定の飛行機がその日最初のフライトということで一安心。20分「しか」遅れず無事アテネに帰還。嗅覚過敏の私は周りの人の香水のニオイで酔ってヘロヘロだったがな……。

 一日スケジュールがずれたので、行く予定だった「世界のヘソ」デルフィは諦めた。第一スキー場あるくらいの所だから雪に埋もれてる……デルフィは数年後にリベンジで行った。いい所だったよ、君にも見せてあげたかったよY。で、あと二日ほどアテネでマッタリとする事に決定。

 この頃になってくると、最初の方に書いてたように私の髪はすっかり黄色くなっていた。しかも初の海外にも関わらず、開き直る性格からか貧乏に慣れたからか、妙にこなれてしまい、バッグも持たずに(腹巻にお金もパスポートも入ってるから)先にお土産用に買ったブズーキ(楽器)を小脇に抱え、お土産屋に入ったYを表で待ってると、
「え……えくすきゅーずみー? きゃんゆーすぴーくいんぐりしゅ?」
 ものすごい緊張した面持ちの日本人の女の子達に声を掛けられた。手には「地○の○き方」。
 いや、英語喋れるかと言われると答えはノーなんだが……なんか面白いので頷く。
「あいうぉんと、ごーとぅあくろぽりす」
 ああ、アクロポリスに行きたいのか。さっき階段の前通ったから流石の私でもわかるぞ。
「あ、このまままっすぐ行ったら階段あるから。看板出てる。でも迷うよ、上で」
 思いっきり関西なまりの日本語で答える。相手はびっくり。わぁ、リアクションが面白い。
「……住んでるんですか?」
「ううん、旅行者。アクロポリス、この時間だともうすぐ閉まるよ」
「……ありがとうございました」
 この後、二回目も、他の国でもこのような事がしばしば。ってか、私は何人に見えたんだろう。地元の人には日本人って言われるのに。
 よい旅を。がんばれ日本人。
 そして私達もな……。
 さあ、もうすぐイタリアだ。ギリシャともそろそろお別れだ。
 お土産買って、美味しいもの食べて過ごそうよ!



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