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作品名:方向オンチにしか見えない世界 作者:錦小路真理

第4回   窓枠はガラスを固定するためにあると思う
 突然ですが、問題です。
『異国の夜、二人でゼーゼーはぁはぁ言いながらバスルームでする事は?」

 …………。

 答えは『洗濯』だよ。
 貧乏旅行では、これも数日にいっぺんの日課の一つだ。酷いときには脱いだ服と自分の体を一緒に洗ったりもしたさ。日本と違い、結構異国では水も貴重なのだよ。パンツとハンカチは毎日洗面所で洗ったけどね。そしてゼーゼーいいながら絞る。ジーンズなんかは二人掛りだ。この旅ではコートの下にスパッツ系の薄手で温かいものを愛用していたが、これは荷物を減らしたり洗濯を楽にするのにも役立った。
 でも、教会とか聖地は、マナー上肌を露出するのはいけないので、長ズボンかロングスカートを持参するのをお忘れなく。夏場とかは限りなく肌を出してる日本人を見かけると同じ人種として恥ずかしくなっちゃったよ。
 そして寝る時は頭の上は洗濯物の万国旗さ。オイルヒーターにパンツのせるとか。
 ……色気もなんもあったもんじゃない。

 さて、そんなどうでもいい事は置いておく。(いや、この後もどうでも良いが)

 早くアクロポリスを見学したい……
 アテネに来たのにまだパルテノン神殿を見てない。
 だが、まずはやる事がある。チェックアウト。そして次のホテルにチェックイン。
 バルコニーが気に入って、前日に予約しておいた宿だ。
 うむ。やはりこの眺めは最高だ。ここは「地○の歩き○」でも押されてたしな。
 宿屋のオヤジもとても愛想がいいので、安心しきって夕方まで私らは外出した。
 実は、この旅はギリシャだけでは無い。次にイタリアに渡る事になっている。そんなわけで地元旅行代理店にローマ行きチケットを頼む。コミュニケーションが不安なら前もって紙に書いとく。これも用意周到なYのおかげである。私は行き当たりばったりな人間だから。ヨーロッパ圏内だと学生は飛行機などが割引になる制度もあるので、それを利用すると安くで回れる。実は同い年とはいえ、Yは学生だったが私は既に仕事してたんだけどね……まあいいや。皆パスポート見せるまで中学生か高校生扱いだったからな。アジア系民族は若く見られてお得だね。
 そして、来ましたよ! アクロポリス!
「うわ〜! うわ〜!」
 ほぼ、この声だけで終わったと思う。
 当時修復中で、足場が組んであったのが多少残念ではあったのだが、やっぱりパルテノン神殿は荘厳だった。エレクティオンもアテナ・ニケ神殿も素晴らしかった。博物館のアテナ像の後姿は「おしり丸出し」だった事もわかったし……
 地元のタベルナでとった食事も美味しかったし(私はしばらく店内で迷子になったが)とっても充実した一日だったよっ!
 ……そこまでは。
 この旅屈指の悲劇は、この夜訪れた。
「寒いから窓閉めよう」(なぜか雨戸だけ閉まってるし)
「あの……窓ガラス、無いんだけど……」
「……ヒーターもつかないんだけど……」
「照明も豆球一つしか点かないんだけど……」
「お湯も出ないんだけど……」
 ……。
 が〜〜〜ん!!
「おやじっ! 部屋かえてっ!」
 ……で、結局窓ガラスのある部屋に替えてもらったのはいいが、ヒーターがきかない、電気つかないシャワーから湯が出ないはかわらない。おまけに部屋の鍵は掛けたが最後開かなくなった。
「くらいよ〜ぉ」
「さぶいよ〜〜ぅ」
 時、寒波襲来中の二月。北部は雪降ってる、そんなギリシャ。
 コートを着たまま毛布に包まって半泣きで眠った二人だった。

 教訓。「○球の○き方」を鵜呑みにしてはいけない。

 まあいい、明日はペロポネソス半島に移動だ。ミケーネに行くんだ!
 泊まる予定のコリントスではこんなヘマはしないだろう……きっと。

 またまたちなみに、数年後アテネを訪れた際も再びこのホテルに宿泊した。
 私は全く学習能力がないらしい。
 その時は窓ガラスはあった。湯も出た。電気も点いた。前回の失敗を踏まえ、チェックインする前にちゃんと確認したからな。
 ……だがトイレが噴水の様に爆発し、友人Kは同じくトイレに閉じ込められて隣でシャワーを浴びていた裸のお兄さんに助けられた……。
 スバラシ過ぎるよこのホテル。眺めもオヤジの笑顔も最高なんだけどね。
 名前は秘密にしとこう。昔の事だし今もあるとは限らないしな。
 頭文字は「R」最後は「L」だとだけ言っておこう。


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