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作品名:方向オンチにしか見えない世界 作者:錦小路真理

第15回   世界って案外せまいのかもしれない
 別にローマが悪いんじゃない。
 ここにも素晴らしい絵画も彫刻もあるし、建物見てるだけでも素敵じゃないか。刷り込まれた先入観と、第一印象と、運の悪さが重なっただけだ。
 さあ、気を取り直して……あ、キャッシュコーナーまだ故障中。
 そんな訳でバスでかなり遠くの銀行へ。
 ギリシャでは男性が声を掛けて来るのは間接的に投げキッスや「お茶しよう」みたいなちょっとシャイな感じだったが、イタリアはストレートだ。いきなり肩や腰を抱かれ、耳元で「子猫ちゃん、あ・そ・ぼ」「見つけたよ、僕の花」みたいに囁かれたりする。うひぃ〜〜背筋寒くなるねっ。痒くなるね。で、一概には言えないんだが、思ったよりイタリア男性、背の低い人多い。足もそんなに長くないっ〜か(イタリア男性ゴメン)そんな人にキザなセリフ吐かれても……。
「イタリアで声を掛けられないなんて異性と思われてないよ」
 昔そんな事をTVで言ってたので、バスに乗って早々にがっしり抱きしめられて声を掛けられた時は思わず「よっしゃ!」と心でガッツポーズした……バカだな、私は。
 お金もなんとかなってちょっと一安心。
 で、久しぶりに盛大に二人で迷う。
 トレヴィの泉を通り過ぎ、ヴェネツィア宮殿博物館を目指すがどこを探しても入り口が無い。
 結構な時間うろうろしていると、途中、
「何も無いけどよかったら中見ていくかい?内緒だよ」
 教会の人に声を掛けられ、観光客には未公開らしい教会に特別に入れてもらう。
 おおう、まさに「……しか見えない世界」だね。迷ってみるもんだ。
 そこの人に訊いてやっと博物館の入り口がわかった。ってか、さっき通ったな。ここ。
 ちょっとローマの好感度が↑。
 博物館……広っ。ってか長っ。進んでも進んでも次の部屋が。でも良かったです。
 そして長い長い階段をのぼると、サンタマリア・タラゴエリ教会は閉まっていた……
 で、午後はのんびりフォロ・ロマーノ。
 ひっろ〜〜〜い。大都会のど真ん中とは思えません。
 ああ、なんか遺跡久しぶり〜。心が落ち着くわ〜。
 ぽかぽかいい天気だし、パラテーノの丘はみどりにお花も咲いてていい気持ちだし、オレンジもなってるし、思う存分スケッチしたし、のんびりしたし、思う存分迷ったし……
 はい、危うく行方不明でした。
 迷路みたいな地下通路はどこに出るかわからない。のんびり気分から、無謀にもおのおので探検に出てあえなく迷子。
 何とか遥か彼方の上の方にいたYをみつけて合流できた。ってか
「今、そこまで行くから動くな!」
 迎えに来てもらったんだけど。いかんいかん、しばらくいい調子だったんで気が緩んでたね。
 フォロ・ロマーノの閉場時間は『日没一時間前』。随分アバウト。
 まだ日が高かったので安心していたら、
 ぴっ〜〜〜!! ぴっぴっぴ〜〜! とホイッスルの音。係員に問答無用で追い出された。
 またも長〜〜い道のりを歩いて帰るのだった。確かにその後一時間で日が暮れた……

 で、またも情熱的なイタリア男に声を掛けられつつ、お出かけ。
 何度もになると流石にウザイが、悪い気はしない……そんな穢れた気持ちでヴァチカンに向かう。ちゃんとナンパ野郎は振り切ってきました。神よ、お許しください。
 徒歩で国境を越えるってなんか面白い。
 市の警護団の服もかわいいね。かぼちゃみたいで。
 ヴァチカン。やっと来た。いや、歩いてきたけど……。
 サン・ピエトロ大聖堂でピエタを見ないと。システィーナ礼拝堂でミケランジェロのフレスコ画見ないと。美術館でラファエロの絵見ないとっ。そうでないとこの旅は完結しないのだよ!
 ……感動でした。素晴らしかったです。この感動は言葉では……以下略。
 でも、ちょっと悲しい事があった。
 システィーナ礼拝堂に入る時の事。
「ここでは静寂令というものがあり、中では私語禁止です。以前日本のツアー客が中で騒いだため、このような決まりが……」
 英語は聞くだけならわかるんで、何気に他の国の団体客に説明するガイドさんの言葉を聞いててドッキリした。同じ国の人間として、非常に悲しかった。
 皆さん、マナーを守ってください。迷惑です。
 またクーポラに上るよ! エレベーターもあるけど階段でねっ!
「あれ?」
 上がりきった瞬間、見覚えのある人が。
「おおっ、またあったね〜」
 Yの大学の友達だった。実はアテネ最後くらいで一回あった。
 日程も道程も違うのに、こうも見事にあえるとは。しかもヴァチカンで。
 そして、もう一つ。
 記念に絵葉書を出そうということで、お土産屋さんに行ってみる。店もすべて信徒や修道士、シスター達によって運営されているため、「レジを打ってるシスター」なんていう珍しいものも普通に見られる。
 切手を買うため、声を掛けたら日本人のシスターだった。
「遠い国までよく来ましたね。先程懐かしい響きが聞こえたので気にしていたのです。関西から来られたのですか?」
 ちょっと年配のシスターは上品に微笑まれた。関西弁で会話してる私たちの声が聞こえてたらしい。
「京都と大阪から」
「懐かしいですね。私は宝塚からこちらに参りました」
 宝塚(兵庫県)。よく行くよ。親戚もいっぱいいる。
「よい旅を。神のご加護がありますように」
 入り口まで見送ってくださったシスターに手を振り、ヴァチカンから葉書を投函して帰路についた。

 帰り道、「魔女のりんご」というアイスを食べた。
 何層にもなったチョココーティングされてりんごの形をしたアイス。
 Yと二人で食べながら
「世間ってか、世界って結構狭いかもね」
 そう言って笑った。
 そんなせまい世界でも迷うんだけどね。私は。

 ……旅ももうすぐ終わりだ。


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