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作品名:方向オンチにしか見えない世界 作者:錦小路真理

第13回   夕日のミケランジェロ広場
 昨日は贅沢しすぎた。
 ちょっと反省?した二人は、またもミルクとクッキーで朝食を済ませ、早々にお出かけ。まだ少し胃が重かったが、食べておかないともたない。
 もう一つ残ってたメディチ家の礼拝堂のある、サン・ロレンツォ教会へ。
 ここにはミケランジェロの「曙」「昼」「黄昏」「夜」の四連作がある。
 誰にでも、死ぬまでに一度は……そう思うものがあると思う。
 人によっては、それは何かを食べる事かもしれないし、どこかへ行く事、目的の行動に出る事、特定の人物に会う事かもしれない。私の場合は、遺跡や建築物、絵画、彫刻を生で見る事だ。
 パルテノン神殿(済)クノッソスの宮殿遺跡(済)サグラダ・ファミリア(後に済)ダビンチの受胎告知とリッピの聖母子と二天使、カラヴァジオの絵(ウフィッツィ美術館他で済)エル・グレコの絵(後にプラド美術館・倉敷で済)ミケランジェロのピエタ(この後ヴァチカンで済)……
 それらと並んで、見たかった彫刻がこの四連作だった。
 ええ、もう何も言うまい。石なのにオーラ出てましたさ。
 しまった。ここまで書くと、私はいつ死んでもいい事になる。いやいや、まだマチュピチュと敦煌とアンコールワット見てないし。まだ死ねないな。うん。
 その後、狭い町なのに結構迷いつつ、サンタマリア・カルミネ教会へ。ここはルネッサンス発祥の地。「失楽園」がある……筈なのに柵があって奥に入れず見られなかった。悲しい足取りで次のパラティーナ美術館へ。
 ……なんだ、このなっが〜〜〜〜い行列は? ものすごい人っ!
「カラヴァッジオ展やってるんだって。常設展示だけなら早そうだけど……」
「見る! 並ぶっ!」
 ゴメン、Y。カラヴァッジオ様は私の神なのだよ。道理でウフィッツィになかったワケね。
 ……三時間並んだ。
 隣にいたやっぱりおしゃべりなおばちゃんにお菓子をもらったりしつつ、やっと入れる。
 ……並んでよかった。思わず帰りにカレンダー買っちゃったよ。
 この辺でなんか足に異変。左足の裏、痛い。靴下にちょっと血がついてた。切れてる。
「なんか靴の中に入ったの踏んだかなぁ……?」
 その時は絆創膏はってそれで済ませた。
 微妙に痛い足で渋りつつ、Yの行きたかったダビデ像の立ってるミケランジェロ広場へ。ミケランジェロ広場はフィレンツェを一望出来る丘の上。
 景観を守るため屋根は赤茶色、壁は白かベージュに決められているフィレンツェ。その上に夕日がオレンジに染めあげるこの時間はまさに町自体が芸術品のよう。美しい裸体のダビデ像は、きっとこの風景を見下ろしてるんだ……とか、詩人になってるけど、カフェで頼んだコーヒーは来ないわ、足は痛いわで大変不機嫌になっていた私であった。
 前日の反省を踏まえ、スタンドでカルツォーネとカプチーノで夕食を済ませて宿に帰った。
 いや、誘惑に負けてまたジェラートも食べたけど。

 ……帰国してから1年程してから、私は足の裏を切開手術する羽目になった。
 何か小さな瘤が出来、痛かったので病院に行ったら「悪性腫瘍かも!」と切られ、真珠大の玉が出てきた。病理に回され、解析の結果、ガラスの破片に肉が巻いていた事が判明。
「よく化膿もせずに……」
 おもいっきり呆れられた。
 そう、足が痛かったのはこのせいだったのだ。見えないほど深く刺さってたらしい。
 変なイタリアみやげを持って帰った私だった。


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