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作品名:方向オンチにしか見えない世界 作者:錦小路真理

第12回   心の洗濯をしたらどこで干しましょう?
 イタリアはあったかい。
 フィレンツェに着いて早々、結構な強行軍で見学開始。
 ……って、もう目の前にギベルティの「天国の扉」あるし。迷う暇さえ無かった。
 うわおぅ〜金ぴか。
 ドゥオーモとメディチ家礼拝堂は後日中を見よう。フィレンツェには結構いるので、お楽しみもおいとかなきゃ。どうも思ったより狭い街みたいだ。
 野良犬とかいないな。ネコも少ない。イタリアでは、ほとんど動物にご縁が無かった。
 まずはダビンチ様の壁画のあるヴェッキオ宮(政庁舎)を見る。
 首が痛くなった……以上。
 いえ、スバラシイのだよ。スケールでかいし。でもここも言葉では言い表せない。上ばかり見てたので首が固まってしまったんだ。マジで。
 さあ、ウフィッツィ美術館。
 ……でけぇ。
 美術館や博物館の展示室は、基本順路が決まってて矢印通りに進むので、方向オンチさんも迷子にならない。だが、ショップや休憩所、トイレなどのある入り口周辺はデンジャラスゾーン。ちょっと目を放した隙にYの姿が無い! いや〜ん、いきなりどっちいけばいいかわからない〜。
「順路、ここからだって」
 あ、いた。気合を入れないとおいてけぼりになる……こういうのが胃痛の原因かも。
 そして、ボクは見たんだよ!
 ああ……もう「心の洗濯」ってのはこういうのを言うんだろうね。
 素晴らしい絵画はやはり本物を見ないといけない。
 競争社会の中で染みついた、小ズルさや欲望みたいな穢れも、すっきり洗い流された気がする。
 私は、ギリシャで見てきた様な遺跡や古代文化と並んで、宗教絵画や教会美術にとても興味がある。中でもルネッサンス期とその前後のキリスト教絵画が大好きだ。19世紀以降の現代美術は今ひとつ馴染まない。別にキリスト教徒でもなく仏教徒ですらない、なぜか神道のおウチで神棚に祝詞あげてた人なんで、聖書に詳しいわけでも無いのだが。そんなわけでルネッサンス期の美術が堪能できる、ウフィッツィ美術館やメディチ家礼拝堂などのあるここ、フィレンツェは夢のような場所なのだ。
 ……いかん、語り出すと本一冊分くらい長くなる。
 とにかくあまりの感動に泣きそうになっていたのだが、泣かなかったのは廊下があまりに長くて気が遠くなったからだ。未公開の部屋が多かったにも関わらず、見終わった頃には足はヘロヘロで、外は日もとっぷり暮れていた。
 そして、宿に帰って
「子供がこんな遅くまで外にいちゃ駄目でしょ!」
 とおばちゃんに叱られる。子供じゃねぇよ……パスポート見るか?
 おしゃべりでおせっかいなのはこのおばちゃんだけじゃなかった。ローマでもこの後、
「子供だけでこんな遠い国まで来て。親御さん心配してないかい?」
 おもいっきり通行人のおばちゃんに言われた。どうも私は中学生くらいにしか見られてないようだ。確かに顔は子供っぽいかもしれないが、こんなにデカイのに……。

 心の洗濯は続く。
 連日の疲れからかしばしベッドにカマボコになった二人は、ちょっと遅めに動き出す。
 朝食は前日買っておいたクッキーとミルク。貧乏旅はこんなもんだ。
 丁度、フィレンツェの町は市(いち)がたっててお祭りみたいだった。ここで後でおみやげ買おうと決めて、バルジェッロ美術館の後にドゥオーモ(サンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂)見学。
 どっちも素晴らしいです。以上。(だから言葉では……以下略)
 で、クーポラまでひたすら階段を上る。うう、何段あるんだろう(460段以上あるそうです)……ぐるぐるぐるぐる……狭いわ回ってるわ、天井低いわでもう疲れた〜〜。上りも辛いが下りもな。膝に来るよ〜。
 でも街を一望出来るクーポラは上がってよかった。行ったらぜひぐるぐるしてきてね。
「降りたら絶対ジェラート食ってやるっ!」
 そう思った二人だった。
 で、食べました。ジェラート。つーかパフェ。美しいものを見て、心の洗濯をした二人は、ケチケチも一緒に洗い流されて開き直った模様。考えたらこの一杯でクレタの安宿代だぞ……。
 その後もオルサン・ミケーレ教会や洗礼堂を見て、当初の予定通り市でお土産を買う。
 ジェラートで開き直った二人は、夕食にトラッツェリアでコースメニューを頼んだ。
 ワインとパスタに始まりサラダ、肉料理、デザートまで……って、「ツーリストコース」っつう安いセットなのだが、ギリシャで寒さに震えていた二人とは思えぬ贅沢だよな。

 ……宿に帰って二人で胃薬のんだ。
 慣れぬ事はしてはいけない。


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