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作品名:方向オンチにしか見えない世界 作者:錦小路真理

第11回   どの国でもおばちゃんはおしゃべりです
 ローマ空白の一日。
 絵日記にはそう書かれているだけ。だが、最も記憶が鮮明なのはこの日だ。
 おなか痛い。幸い○痢は大した事はなかったが、胃痛と吐き気が。でもトイレにも迂闊に行けない。辿りつけないと困るから……こういうのは方向オンチにしかわかるまい。
 薬を飲んで半日一人でベッドにいた。
 いつもダブルのベッドでYと寝てるんで、だだっ広い。静かでちょっと寂しい。
 考えてみたら、こんなに長い時間一人っきりになったのは旅に出て初だ。
 相部屋の後の二人は観光に出かけ、Yも偵察がてら近場を一人でぶらついて、ちゃんとガス抜きの水を探して買ってきてくれた。薬を飲むにも水がいる。
 どうも強制的にガスを抜こうと蓋をあけて温かい部屋に放置していたのがいけなかったみたいだ。微妙に臭うかもと思いつつ水を飲んだらこの有様だ。でもほぼ同じものを食べ、同じ水を飲んだYは無事だった。飛行機で酔ったり、ストレスとか色々と溜まって胃が弱ってたのかも。
 夜になると復活。私は治りも早い。
 昨夜の缶詰以来ほぼ何も食べて無かった上(ホテルに朝食はついてたがダメだった)出してるんで空っぽのお腹はぐぅ〜と不平を漏らしていた。
「何食べたい?」
「ほら、あのTVとかでやってる手でくるくる生地を伸ばすピザ。ああいうのが食べたい」
 さっきまで腹痛で寝てた人にはへヴィじゃないの? と呆れられつつ、店を探す。せっかくイタリアに来たのに一度は食べたい。毎食缶詰では悲しい。
 本にも載ってたしYも下調べした店だが、なんか裏路地っぽい……こんな所に店あるの?
 あった。狭い路地の突き当たりに結構な人が。おお、日本人も大勢いる。
 とりあえずアーティチョーク(西洋あざみ)とちょびっとワインを頼む。ピザも。
 しっかし……周りの人豪華だな。テーブルにスパとかお肉とかいっぱいのってるよ。
 一方、私たちのテーブルにはアーティチョークとワインだけ。ピザは製作中。
「見て。あのコ達、若いのにきっと通だよね。しっぶ〜い。あれ、私たちも頼もうか?」
 隣からOL風のお姉さんのひそひそ声が聞こえる。
「なんか渋いとか言われてるけど……」
「……真実を知らないからな」
 そう、彼女達は知らないだけなんだ。
 腹痛あけなので、毒消しもかねて、酢漬けとアルコールを安いから注文しただけだと。
 本場のピザは美味しかった。あの味は忘れない。何より空腹だったのもあるけど。

 次の日は移動。正直、ローマはどうでもいい。私はフィレンツェに行きたかったんだ。
 そう、ウフィッツィ美術館に。
 ダビンチもボティチェリもフラ・アンジェリコもフィリッポ・リッピもカラヴァッジオもミケランジェロも……どの絵画、彫刻の前で「フランダースの犬」状態になってもいいくらいボクは見たいんだっ!(畳の上で死にたいんじゃなかったのか?)
 だが、列車に乗るにはテルミニ駅に行かねばならん。
 早朝、まだ寝ている後の二人に無言の別れを告げ、食堂へ。また胃が痛くなると困るので、得体のしれないコーヒー(何故ミルクを入れると灰色に……?)を遠慮し、パンと日本から持参していたティーバッグの緑茶で早い朝食をとって出発。
 チケットも案外あっさり買えた。駅も朝なので雰囲気が違った。良かった……
 列車、長っ! ごつっ!
 2等車なので6人で一部屋の個室。ご年配のご夫婦とおばちゃんと相席。
 鉄道ですら時間通りに着かないのが「普通」なんだね。日本以外。
 おばちゃんはずっとしゃべってるし〜列車大幅に遅れてるし〜。
 でもなんとかフィレンツェ着。
 ホテルはガイドブックにあった安宿。超おしゃべりで、にぎやかで世話焼きなおばちゃんは少女趣味らしく、何もかもが花柄でピンク。カーテンもクッションも壁紙もトイレットペーパーも。天井にはカワイイシャンデリアもあるよ。う〜ん、めるへ〜ん。
 しっかし、おばちゃん日本の母親に似てる……ってかそっくりだ。髪の色が違うだけで……。そうか、イタリア人だったのか私。
 おしゃべりなところもね。
 ギリシャでも思ったけど、この後、他のどの国に行っても思った事が一つある。
 どの国でも「おばちゃん」は総じておしゃべりだと。



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