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作品名:ふつうの人 作者:ミント

第5回   モモの日常
ああ、今日もいい天気。
モモは、3回目の洗濯物を干し終え、思いっきり深呼吸をした。
まだ、5月というのに、日中は、真夏並みの気温が続いている。
でも、今日は風があるから気持ちがいい。

今朝、母をショートに送り出した。
一か月預かってもらう。
別に、これといって用事はないのだが、
母をずっと好きでいるための、モモが考え出した方法である。

介護は、ちょっと離れた方がいい。
手抜きの方が長続きする。
やってあげるとか、やらなくては、だと、気持ちよく続けることができない。
頑張らない介護が、一番お互いにいい信頼関係を築けると思っている。

母は、いつも、ショートから帰ってくると、目に涙を浮かべる。
ああ、わかるんだね、家が一番いいんだねって、モモもグッとくる。
さあ、また仲良くしようって思えるのである。

傍から見たら、どう思われるかわからないけれど、
この解放感を手に入れるための我儘は、許される範囲だと思っている。
いつも手伝ってくれる娘のためにも、介護休暇を与えなければ。


今朝は、本当に爽やかな気持ちになれた。
近所の桜の木がある家の奥さんが、サクランボをたくさん持ってきてくれた。
毎年くださり、家族みんなで、美味しく頂いている。
普段は、どこの家も挨拶程度の近所付き合いしかしない土地柄で、
これが便利で楽だと思ってはいるものの、
この時ばかりは、子供時代の昭和のよさを思い出してしまう。

子供の頃は、母の近所付き合い方が、良かったのかもしれないけれど、
付かず離れずで、よく、おすそ分けとか土産物とかやり取りしていたものだ。
家を留守にする時の、ペットの世話も頼んだり頼まれたり、
モモも、毎日、隣の足の悪いおばあちゃんに代わって、犬を散歩に連れて行った。
そして、隣のおばあちゃんと一緒に、おやつを食べたものだ。

あの頃、「お互い様」という言葉を、よく大人たちは、笑顔でかけあっていた。
もしかしたら、大人たちの間で、葛藤とかもあったのかもしれないが、
子供の頃のモモの記憶には、良い思い出しかなく、
いつも暖かいセピア色の心のアルバムに残っている。
そんな思い出を持たせてもらったことだけでも、
母の子供に生まれた幸運を感じている。
子供にとっては、ずっと宝物になるのだろう。


今日から1か月、自由が手に入り、普段の生活を取り戻したというところなのだが、
多分、この自由の解放感は、今日だけで、
明日からは、手持無沙汰や物足りなさを感じるだろうと思う。
でも、思いっきり楽しもう。
しばし、母を忘れて、自分を大事に、生活を楽しまなくては。
母のために、自分たちの生活のために。

母は、一か月後、ちょっとポッチャリして戻ってくるだろう。
適応性があるようで、どこに行っても、
ストレスを感じず、母は自分を生きている。
ありがたいことだと感謝しなくては。


晴々した気持ちのモモは、愛犬を連れて、散歩にでかけた。
あの頃、隣の犬は、ちょっとおバカさんの犬だった。
無駄吠えしたり、加減をせずに甘噛みしたり・・
でも、ウチのワンコは本当に賢いな。
美犬だし、なかなかこんなできた仔はいない。
そんなことを、真剣に思ったら吹き出してしまった。

今日は、ちょっと遠くまで行ってみようか。
足の向くまま、気の向くまま。
時間を気にせず、行ってみよう。
5月の風と青々とした新緑の並木道を、
足元軽く、気分穏やかに歩いていくのだった。


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