20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:ふつうの人 作者:ミント

第3回   アキの場合
わぁ。ちっちゃー、手乗り赤ちゃんだ!
若い助産婦さんの明るい声。
小さく産んで大きく育てればいいよね。
看護婦さんの優しい声。
念願の女の子が生まれた。
上が男の子だったから、今度は女の子が欲しかったので、
アキは本当にうれしかった。
二人目だし、小さいからか、アッと言う間に飛び出してきた。
飛び出す赤ちゃんだ!
まだ助産婦さんは明るく言ってくれるけど、なんか変・・・
小児科医が来て、すぐに別室に連れて行ってしまった。

何とか自分が落ち着いた後、新生児室をのぞいてみると、
廊下側の見える場所には、アキの苗字の赤ちゃんはおらず、
他には、窓際の保育器の中で、胸までかかるほどの大きなオムツをつけ、
心電図の線やら、いろんなチューブをくっつけた、
痛々しい赤ちゃんがいるだけだった。

まさか・・

その日の夕方、アキは誰もいない小児科外来の診察室に呼び出された。
赤ちゃん、心臓に欠陥がありました。
医師は、心臓の模型を手に、ココが狭くて、ココに穴が開いていて、
コッチが肥大して、ココで動脈と静脈が混ざり合っているから・・・

アキは、他人事のように、そんな説明をボーっと聞きながら、
(だから?)
(何で先生、平然として、こんなひどいこと言うのだろう。)

医師を見ていると、続く言葉は、
だから、いずれ手術になります。
手術をしなければ、6歳まで持たないと思います。
ただ、ある程度の体重にならないと手術はできないです。
それまでに、万が一ということもあるので、常に覚悟はしておいてください。
普通の子とは違うので、かなり大変な子育てになります。
まず、泣かせてはいけません。
風邪を引かせてはいけません。
肺炎にでもなったら、命とりです。
この子は、息するだけで精一杯なので、なかなか大きくなりません。
でも、大きくしないと手術ができないので頑張って下さい。
動くようになったら、なるだけ安静にさせてください。
息切れがひどく呼吸困難に陥ることもあります。
顔色は、普通の子とは違います。
そのうち、チアノーゼが出てくるので、紫か黒ずんでくるでしょう・・・

(天気予報じゃあるまいし)
(無理難題ばかり言って)

一通り説明と今後の注意事項を言った後、
医師は言った。
でも、良かったですよ、おかあさん。
手術できるんですからね。
手術できない子もいるんですよ。
不幸中の幸いです。

不幸中の幸い?
なんか、デジャブを感じた。
そう言えば、子供の頃、名前占いをしてもらったことがある。
その時、あなたは幸せな一生を送るでしょう。
ただし、その幸せとは、「幸か不幸かの幸」程度の幸せです。
そして、一生孤独感に付きまとわれるでしょう。

そんなどうでもいいことを思い出し、誰もいない廊下を歩いていたら、
知らぬ間に涙が溢れ出ていた。

病室は、婦人科の人と同じ病室に替えられた。
赤ちゃんは、野次馬に見られないよう別室に移された。
お見舞いに来た信仰宗教をしている姑は、
前世が悪いだの、遺伝子はウチの家系ではないと、勝手にほざいていた。
実母は、何故だろうと原因探しばかりして、オロオロ嘆いてばかりいた。

あの時、夫は・・
夫は何を考えていたのだろう。
大丈夫だよと、アキを励ましてくれたし、姑を追い返してくれたけど。

でも、アキは、多分、あの薬のせいだろうと思っていた。
妊娠初期に検査したクラミジア。
陽性だった。
医師に、すぐ夫を連れてくるようにと言われ、検査したら、やはり陽性。
あの時、何かを感じた。
医師の夫を見る目、夫の不貞腐れた顔。
胎児の心臓が出来上がってから、治療しましょうと、
一週間飲んだ、あの抗生物質。
飲むと、子宮がキューンとなった。
大丈夫かな?
でも、飲まないといけないし、大丈夫だよね。


そして、この子は産まれてきた。
そう、生きるために産まれてきた。
私の子供として産まれてきた。
理由は何であれ、守って見せるから。
お母さんは、どんなことでも乗り越えて見せるから。

頑張ろうね。
一緒に頑張ろうね。
前を向いて頑張らなくっちゃね。

母として、この子を守るために、
これから待ち受けている、様々な試練と闘わなくてはいけない。
嘆いたり悲しんだりする暇なんてない。
一人で闘わなくてはいけない。
そう、独りで。
アキは、自分がすごく強くなったように感じた。


← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 1027