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作品名:魔女の絵本 作者:孤独な七番街

第2回   魔女を知る者―――エリオット・ユアン
【魔女を知る者―――エリオット・ユアン】

夜――静かに雨が降り続いている。ル・ベド王国――王城の一室。
部屋の大きな窓から外を眺めた。今宵の空に月は見えないようだ。

雨音が音楽を奏でるように聞こえてくる。室内には蝋燭と庶務机。
窓際に短い金髪に碧眼の大男が立っていた。年の頃は三十歳前半だろうか。

身長は190センチ程度で、傷だらけの太い腕に筋骨隆々とした見事な体躯を持ち、
その眼光は見たものを射竦める様な鋭さを放っていた。

今は部屋着の姿ではあるが、屈強な戦士であるということがうかがえる。

彼――エリオット・ユアン(ル・ベド王国第二騎士団長)は、いくつかの資料を前に考え事をしていた。

――壊滅だそうです――

数日前に受けたその報告内容は王国にとって到底受け入れられぬものではなく――――
魔女討伐の為に魔女の森<アシュレイ>へと差し向けた王国の正規精鋭部隊の壊滅を告げる衝撃的なものであった。

たかが、1匹の魔女を相手に精鋭10万の大部隊が壊滅を喫した。
この事実は自国に対しても、他国に対しても到底示しのつかない結果である。

もっとも、魔女狩りなどここ数百年行われておらず、
また、中途半端に闘いを仕掛けたならば、どのような恐ろしい災いが降りかからんとも限らない中で、
その実力を事前にはかり知ることなどできはしなかったが、よもや10万の大部隊が壊滅するなどとは思ってもみなかった。

魔女の血をひく者――魔女と人間のハーフである――いわゆる魔術師。

彼らの能力を駆使した戦闘ならば、ユアンは幾度か見たことがある。
確かに桁外れの戦闘能力を持つ者ばかりであった。1人で10人の闘いが出来ると言ってもいい。

しかし、彼らのそれはあくまで想定出来うる範囲の強さであり、
10万の大軍をひとりで相手をして、しかも、一夜にして壊滅させるようなそんな途方もない能力など
ユアンは今まで聞いたことも見たこともなかった。

中央魔術師連盟。
世界中の異端児を集め、所属する者の人権をお互いに保護する組織。

忌むべき能力<魔術>を使用できる魔術師たちは一般的に差別/弾圧の対象となっており、
彼ら自身は自分たちをこんな状況に追い込んだ原因である魔女たちを酷く恨んでいた。

魔女の力は必ず遺伝する。
どれだけ世代を重ね、どれだけ血が薄くなろうとも、魔女の血とその能力が消えることは決してない。

故に魔術師たちは増え続けた。一般人の大半からは恐れられ、貶され、集団暴行にあった。
増え続けた魔術師たちは、自分たちの居場所を求めて中央魔術師連盟を設立した。

今やその連盟は国家規模の権力と、統率された軍事力とは言えずとも、
絶大な武力を誇り、ル・ベドのような一流国家でさえ無視の出来ない存在になっている。

このエレノア大陸は巨大な2大国家と各々に与する中堅国家によって成り立っている。
2大国家とは、すなわち、北のル・ベド王国と南のエンレッド帝国である。
現在、2国間に交戦状態は存在しなかったが、かつて、大規模な戦争を繰り広げたことがあり、
今でもなおその仲は険悪なままであった。

エンレッドは都市機械化計画のもと、科学技術の発展が目覚しく、
それは兵器開発についても同様であり巨大な軍事力を保持し、科学技術を追い求めた国々がエンレッドとの友好関係を築いていた。

魔術師に対しては、比較的に差別意識の少ない国々が多く、
魔術師であっても能力さえあれば衣食住に困らない程度の生活はできていた。

対してル・ベドは、軍事に関しては昔ながらの剣と鎧による闘いが主流ではあったが、
その国家の歴史は古く、ル・ベドに与する国家が世界の大多数を占めていた。
また、魔術師に対しては差別意識のある国々が多く、魔術師が大手を振って暮らせる環境には到底なかった。
中央魔術師連盟が存在しなければ、今なお魔術師たちは徹底的な弾圧を受けていたことだろう。

中央魔術師連盟は、この2国家の真ん中に位置しており、デ・メントという都市に本拠地を置いていた。
デ・メントには数多くの魔術師が暮らしており、彼らの聖域となっている。

「魔術師…彼らの力を借りるしかないか…」

ユアンは一人ごちては、嘆息し、
明日のル・ベド王との謁見を控え休むことにした。


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