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作品名:寂しがり人形 作者:孤独な七番街

第4回   【近衛家の兄妹】と【黒い霧】
作品のイメージ曲:花と少女→ttp://www.hmix.net/music/o/o6.mp
著作元:http://www.hmix.net/music

※作者は極度の気まぐれであるためかなり更新速度は遅いことをお知らせしておきます。


閑静な住宅街にあるマンションの一室に【彼】は住んでいた。
彼の名前は【近衛凪人】。17歳の高校生だった。

ドンドンドンッ――――――!。
「おい、あーちゃん。風呂入ったぞ?早く入れよー、飯の支度もあるし。母さん今日も遅いんだからさ。」

【俺】は少しイラつくように、妹の部屋のドアをノックした。

ガチャッ!

「そんな何度もドア叩いて大声出さなくても、わかってるよぉーうるさいなぁ。なんかお母さんみたい。」

そういって部屋から出てきたのは中学生ぐらいのかわいい女の子だった。
不細工だとダメなのか?とかそういう話ではない。妹というのは無条件にかわいいものだと【筆者】は思う。
もちろん保護者的な意味だ。勘違いしてもらっては困る。

――――【彼女】は近衛明美、14歳の中学生である。

「言わせてるのは誰だ!言わせてるのは!まったく、ゲームなんかしてねーで、とっとと風呂に入れ。
いくら胸のぺったんこなガキでもおまえ女だろ?もうちょっとなんか女の子らしい事したらどうだよ?」

【俺】はふてぶてしい【明美】に抗議した。 

「例えば?」

【俺】は胸を張り腕を組んだ。
「例えばだな…、そう、例えば!料理の一つでも覚えて
「兄さん、今日は日ごろお世話になっている兄さんの為に私がおいしいお料理を作るわ」とか、そういう―――」

「はいはい、うるさいうるさい。大体…女の子らしいって何よ?ゲームしてる女の子なんてたくさいるでしょ?
あんた、幻想抱きすぎてない?なんかきもいー。つーかおっさんくさい。」

【明美】は半眼になって【俺】を睨み付けた。

「んなっ!―――――俺はだな!―――――」
俺があたふたすると、

「はいはーい、邪魔邪魔。どいてねー。」
と【明美】は退けるようにして【俺】の背中を押してリビングに押し戻していく。



―――――。
【近衛凪人】と【近衛明美】は、兄弟であり、父親の凪と母親の郁江の間に生まれた。
父親である【凪】は3年前から行方不明になっており、母親の【郁江】が女手ひとつで育てている。

【俺】は【明美】が風呂場へ行くのを確認すると、夕飯の支度のためキッチンへ戻った。
行方不明というのは言葉通りで、趣味のドライブに出かけた時に、まるで神隠しにあったように忽然と姿を消した。
子供の【俺】が言うのもなんだが、父さんは女なんぞ作ってどこぞに蒸発するような糞野郎では決してない。

だからこそ、もう死んでいるのではないかと思うと――――いや、実際諦めているのかもしれない――――今でも胸が張り裂けそうになる。

今でこそ【明美】も減らず口を叩くかわいくない奴だが、父さんが居なくなったと分かったときには、
毎日のように「父さんは?」「父さんは?」と半狂乱的に泣きじゃくっていた。

実際、【俺】も泣いた。
当たり前だ。実の父親が行方不明になったのだ。
当時小学生だった【明美】にとってみればどれだけ衝撃的だっただろう。

今でもなお【明美】の寝顔を見ると頬に涙を流していることがある。

…人の死を本当に悼んでいる者というのは、
死を知ったその場でどれだけ涙をだして悲しむかではない。
葬儀の場でどれだけ泣き叫ぶかだけではない。

そう思う。

思い出しては悲しんで、思い出しては悲しんで、また、思い出して悲しんで。

何度も。何度でも。

5年たっても、10年たっても、20年たっても、
どれだけ月日が流れたとしても、心にポッカリと空いた穴の感触をいつまでも覚えているものだ。

その穴を埋めるために人は静かに泣くのだろう。泣き続けるのだろう。
夢で泣いて、表情で泣いて、心で泣いて、言葉で泣いて、

泣くことで、泣き続けることで心に空いた穴を満たそうとしている。
あるいはやり場のない怒りを必死に吐き出そうとしている。

その行き場のない怒りは時として近しい他者に牙を剥くこともあるだろう。
だが、それは何も恥ずかしいことではない。

その牙は優しさの裏返しであり、決して貴方を貫くことはないだろう。
人の死を悼むことと自分を大切に思う気持ちというのは同義だ。

仮にそれをののしる人がいるとするならば、なんと悲しい人なのだろう。

人の生にすがり、自分の生に相手をすがらせる。
そうして、お互いに人は生きている。

そこに大小の違いはあれど、本質は何一つ変わらない。変わるはずもない。

今でも【俺】は【明美】の泣きそうな笑顔というものが脳裏に焼き付いて離れない。

…【俺】が父さんの代わりになれるとは思わない。
だが、それでも家族として心の支えになりたい。

いつもそう思っている。そう…願っているつもりだ。


【作品曲:違和感→http://www.hmix.net/music/z/z2.mp3】


―――――時計の針が20:00を回る。
【郁江】が帰宅するのは大抵22:00を過ぎる。
夕食を作り終え、【俺】はテーブルの席に着いていた。テレビでニュースが流れている。

「〜近頃、K市では記憶障害と思われる患者が急増しており、K市内の病院にはたくさんの患者が運び込まれています。
同市では1ヶ月ほど前から昼夜を問わず原因不明の黒い霧が出るいう異常な現象が発生しており、この霧が人体へ何らかの影響を与えているのではないか、との憶測も出てきています。政府では緊急対策本部を設置していますが、未だに有効な打開策を打てずにおります。また、この黒い霧が発生する範囲はK市を中心に日々拡大しており他市への影響が懸念されています。」

市内の人間へのインタビュー映像がテレビに映っている。

「婆さんがやられちまってな…」

「…ええ、兄です。記憶障害…というよりはなんだか、別人になってしまったような…」

K市と言えば隣町である。まだ、黒い霧を目で見たことはないが、呪いだの学校等では噂が飛び交っている。

【明美】が風呂から出てきて、テーブルに着く。
ほとんど裸だ。どうしよもないやつだ。

「あーこれかぁ。あたしの学校でも噂になってるわー」

インタビューが続いている。

俺はキッチンに夕食を取りに行き、カレーを運んで戻ってきた。
【明美】はテレビをじっと食い入るように眺めている。

「…いいから…ちゃんと服ぐらい着れ。まったくだらしないやつだ」

服を放り投げてやる。

「うーん。わかってるよ!」

テレビを…眺めている。
…眺めている。…眺めている。…眺めている?…眺めている?

ぞわっ…――――刹那

「―――――ッ!」

映像がジッ。ジジッ。とチラつく。
一瞬、テレビに小さな女の子の影が映りこんだ気がした。

(な・・んだ?目の錯覚…か?)

【俺】は何だか言い知れぬ不安感を感じて冷や汗をかいた。
手が汗ばみ、頭の中には不協和音が流れている。

「…おい、あーちゃん。今テレビになんか映んなかった?」

「・・・?別に?さぁ、たべっかなー!」

服を着た【明美】がジャンプ一番椅子に飛び乗り、スプーンをくるくる回して【明美】はカレーを食べ始めた。
つくづく、行儀の悪いやつだ。おまえこそおっさんなのではなのか?と抗議したいところではあったが
どうせ逆切れされるだけなのでやめておこうと思う。

テレビがニュースを続ける。
「以上のように、K市内での黒い霧による被害状況は悪化しており、早急の対応が求められています。
この黒い霧の正体はなんなのでしょうかね。桜庭さん。」

桜庭と呼ばれたうさんくさいコメンテータが答える。

「いやー私もこんなことは初めてですよ。昼夜関係なく出ているようですからねぇ…まさかテロということもないでしょうし
、特にまるで別人のようになってしまうというのがよく分からない症状ですね――――――――――。」

ぐだぐだとニュースは続いている。

つまるところ、よくわからないんだろ。最初からそう言え。
【俺】はとりあえず、この件は忘れることにしてカレーを食べることにした。

0時を回っている。
今日はいつもより帰りが遅いから先に寝ろと【郁江】に電話で告げられた。
徹夜になることはないそうだが、2時ぐらいになるのかもしれない。
歯を磨き床につく。夏休みとはいえ、あまり生活リズムは壊したくはない。

ゆっくりと意識を眠りの快楽へと委ねていった。

――――――【俺】は夢を見た。


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