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作品名:寂しがり人形 作者:孤独な七番街

第2回   〜【こうもり傘の主】と【鵺】〜
※作品のイメージとなった曲です。
【作品曲:暗黒の始まり→http://www.hmix.net/music/z/z5.mp3】


…寒い。

そう思って【貴方】は目を覚ました。

…薄暗い。

狭い部屋の中―――――。
いや、洞窟の中だろうか?

辺りを見回すと無数の成長した鍾乳石と石筍が見られた。
赤い花と青い花、そして白い花が咲いている。

季節は夏のはずであるのに、肌寒い。
天井からの雫が頬にかかっていた。

「君たちは知っているだろうか。」

唐突に太く響く声がそう問いかけてきた。

「――――ッつ!」

あまりの唐突さに【貴方】は身体を強張らせ振り向いた。

「・・・そんなに構えないでくれたまえ。」
声のするほうに目をやると、こうもり傘をもった―――初老の女性―――いや、男性だろうか?

目の前にいるはずであるのに、顔が何故かぼやけていてはっきり見えず、性別すらよくわからない。
だが、声から察するに男性―――いや、女性なのだろうか?(・・・・・・?)
その場にいるのかいないのか、存在すら曖昧な気がした。

「君たちは知っているだろうか。」

―――思考を遮る。

改めて【こうもり傘の主】が先ほどと同じ質問を繰り返し、
カツカツッと靴音をならしてこちらへ少し歩み寄った。


「この世は輪廻転生である。
つまり、死んであの世に還った霊魂(魂)が、この世に何度も生まれ変わってくることを言うのだが、稀に、この輪廻転生の運命から外れる者がいる。」

「…?」

【貴方】は話の意図が見えずに【こうもり傘の主】を見つめた。
【こうもり傘の主】はしばらく【貴方】を眺めていた(様な気がする)が、しばらくして
「それは、霊魂(魂)がひどく傷つけられた証拠でもある。」静かに【貴方】を見つめてそう続けた。

そして、自虐的に小さく笑う。

「霊魂(魂)は無限ではない。輪廻転生を繰り返し、長く同じ場所にとどまっているうち霊魂(魂)が汚されたり、あるいは、誰かによって直接傷つけられることで徐々に力が低下してくる。そうした中で霊魂(魂)が再生できなくなった場合、輪廻転生は終わる」

元々の口調がぼんやりとしていて曖昧であったのだが、なんとなく力が入っているようにも思えた。

「その昔、鵺というひとりの少女がいた。彼女はいわゆる超能力者だった。・・・君もそうだ。」

【貴方】は【こうもり傘の主】に恐怖心を抱いた。「・・・・?」
この人は何を言っているんだ?頭がおかしいのだろうか?
それに、そもそも一体ここはどこなんだ。どういう経緯でこういう状況になったのかまったく思い出せない。

「霊魂(魂)は有限ではあるが、新生される。つまり、輪廻転生では記憶が失われる。
だが、霊魂(魂)が再生できなくなった場合はそれができない。霊魂(魂)を復活させるしかないのだよ。その場合は生前と同じ人格を保ったまま転生するしかない。」

意を介さぬ【貴方】に【こうもり傘の主】は嘆息した。

「こんな話を知っているか?
これは、有名な話ではるのだが・・・・とあるところに新婚夫婦がいた。
結婚は順風満帆であり、幸せで何も言うことはない生活を送っていた。
しばらくして二人には子供ができた。二人はそれはそれは喜んだ。妻も健康的で順調におなかも大きくなり、幸せも最高潮であった。
だが、生まれてきた女の子は、夫婦の期待を裏切り、ひどく醜くかったのだ。
そのために夫婦の仲もだんだんと冷えた。二人はいつしか自分たちの幸せを壊したのは少女だ、と考えるようになった。
そしてある日、二人は少女を誘い公園の池のボートに乗った。池の中ほどに行くと周りに誰もいないことを確認すると少女の首や手足が不自由なのをいいことに池に突き落としてしまった。だが、二人は口裏を合わせ「あれは事故だった」と主張し、その通りに処理された。外面の良かった夫婦を疑うものはおらず、逆に同情も集めた。それから数年が経ち夫婦にまた赤ん坊ができた。今度生まれてきた赤ん坊は女の子ではあったが、前の子とは違い、とてもかわいい赤ん坊であった。それから成長した少女が「ボートに乗りたい」と言ったので、夫婦は子供をつれてあの公園のボートに乗った。
ボートに乗ると少女は大はしゃぎしていたが、池の真ん中になると子供はボートの外を向いて沈黙してしまった。疑問に思った両親が話しかけようとすると少女は口を開いて、今度は落とさないでね。と言った。・・・さて、君はこれをどう思う?」

【貴方】は【こうもり傘の主】が何を言いたいのかさっぱりわからなったがとにかく答えた。

「・・・少女が輪廻転生ではなく、復活だったといいたいのか?」

「そうだ。」

【こうもり傘の主】は頷いた。


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