【作品曲:人形遊び →http://www.hmix.net/music/v/v2.mp3】
彼女は人形だった。
長い長い黒髪と、光の差すことのない黒い瞳。 青いリボンに赤いドレスを着飾って、ちょこんと、ピアノの上に置かれている。
彼女を不憫に思い、ピアノが曲を弾き始める。
そう、彼女は人形だった。 動かない。動けない。
腕を引き千切られ、足を引き千切られ、 顔を切り裂かれ、頭をナイフで串刺しにされた。
薄暗い部屋の中、ただ1点を凝視している。
何もない虚空を見つめ続けて、彼女は何を思っているのだろう。 何もない時間を過ごし続けて、彼女は何を感じているのだろう。
その暗い瞳からは、何も窺い知ることはできなかった。
だが、私が思うに、約束を果たせなかった彼女は恐らく他者を恨んでいるのだろう。 約束を果たすことができたすべての人間たちを恨んでいるのだろう。
明確な理由などそこにはなく、ただひたすら呪うがままに。
「そういえば、私は何を恨んでいるのだろう。一体誰を呪っているのだろう?」
自分に聞いてみる。何を恨み、誰を呪っているのか自分でも覚えていない。 悔しくて、悔しくて、無性に悔しくて、彼女は赤い涙を流した。
流し続けた涙は彼女のドレスを赤く美しく染め上げていく。
しかし、それでも答えは出なかった。
なぜならば、そこには彼女の意志など初めからないからだ。 ただのルーチンワーク。「恨み」「呪う」という断片的な思念が 人形である彼女の中に機械的に存在しているだけの話なのだから。
「彼女こそ至高だ」複数の思念がそう叫ぶ。
わけもわからぬまま彼女はその思念に突き動かされて 何をというわけでなく、誰をというわけでもなく、ただひたすらに呪い続けていた。
それでは、人間だった時の彼女の話をしようと思う。 さぁ、思念集めを始めよう。
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