自分を狙う殺し屋とワケあって同居することになった俺はどうもこの殺し屋の考えてることがわからない。思考回路解読不能。 見た目の美貌とは裏腹に中身はウルトラ級に変人なのだった。 そんな奴とうまく同棲できるか? 不可能だ、無理だ、まず嫌だ。
そんな俺たちのドタバタ日常活劇だ… なわけない詐欺です嘘です日常なんてこの殺し屋女がいる限り俺には当分来ない。
ーーー
妖怪との共存、それは人間にとっては些か遠いことなのかもしれない。 だけど、そんな人間が、妖怪と関わることで起きる事件や非日常、 一人の高校生を中心に妖怪たちと人間たちは 奇怪に交差する。
*********
田舎と都会が合わさったような街 この傘峰市のほぼ中心部に位置する蓋付高校で俺は高校生活2度目の始業式を迎えた。 そしてクラス替え だが楽しみなどない。 だからといって不安も無い。 俺の青春とやらはとっくの昔に失われ、今は思い出を残すために高校に行ってるわけではなくただ行かなければいけないっぽいから通ってるだけ。無気力に行動し抜け殻のように口を動かさず何事にも無関心。今ではこんなはずではなかったと後悔することもない。 新しいクラスの教室に入った俺はとりあえず自分の席に座った。 辺りを見渡せば同じクラスになった友人と喋っている生徒もいれば、廊下で別クラスの生徒と喋っている生徒もいる。 小学校の頃から味わっている新鮮な空気だ。 そんな光景をぼーっと傍観した俺は窓の奥の景色を見た。 席は窓側の前から四番目。これから一ヶ月ほどは景色を見て休み時間を暇潰せそうだ。休み時間、他の生徒たちは友達と話したり遊んだりと暇を潰すと思うけど、どうも今年はそんなことやれそうにない。誰も俺と関わってほしくない。それは俺が人見知りが異常に激しいなどとかそのような問題ではなく一種のトラウマ、防衛的意識などだと思う。 なぜなら高校1年の冬、いや思い出したくもない。
午前8時30分、ホームルームも近いので生徒たちは着席していた。 窓から見える曇りの天気は始業式には不向きな景色である。 そんな景色に見飽きた俺は(これじゃあ休み時間もたないな・・・)ふと横の席を見た。 座っていたのは黒髪のボブヘアーにぱっちりとくっきりとしたまぶたで肌が透き通るくらいに綺麗な白色をした女子がいた。本を読んでいたのだが片手には携帯電話を持ってページをめくるたびに一度目線を携帯の画面に以降していじっている。手の動きからして誰かとメールしているのだろうか。
いや、本読むか携帯触るかどっちかにしろよ とツッコミたいところではあるが初対面だし話かけたところであまり関わりを持ってほしくないという俺の思いから会話も続きなそうだしやめておこう。うん。
頬杖をつきながら彼女を凝視していたのだが、俺は重大なことに気づいた。さっきから目が合っていることだ。最初は向こうもチラチラ俺の方を不思議そうというか困ったような顔で見てきていたのだが、そんなこと気にも止まらなかったせいかずっと俺が見ていたので向こうも俺の方を見ていた。
「あ、あの・・・どうかしたの? ですか」
突然喋りだしたので驚いた。 猫が喋り出したのかと同じくらいびっくりして俺は瞳孔を開いたまま少し黙っていた。
「あ、ごめん」
とりあえず謝った。 いや、この場合誤った。 ここで謝ると向こうは向こうで気を使ってしまうし、俺が彼女を見ていた理由が不覚明のまま終わってしまうので、ここは言っておかないとまずいよな。俺は自分のためにも彼女のためにも言葉を加えた。
「なんか、本と携帯両方持ってる人初めて見るなーって」
俺のとびきりの作り笑いをお見舞いしてあげた。ここ最近本気で笑ったことない俺だが思えば作り笑いですら久々な気がする。 彼女はは作り笑いとは思えない自然な笑顔をして本と携帯を持った手の肘を机から上げた。 「これ? ウチ本も読みたいけど同じ学校にいる幼なじみからメール来るからメールしてるんですよの あ、してるの」 「敬語とタメ口がごちゃまぜになってるよ」 「ん、ちょっと間違えちゃっただけ。クラスに知り合いいなかったから緊張してるだけだよ」
彼女が見せる戸惑いの顔と笑顔がかみ合って可愛く見える。 誰とも関わりを持ちたくないと思っていたけど。これは"偶然"なのだろうし運命ではないのだから、 この人と仲良くなっても大丈夫だろう。うん。
「俺も知り合いいないから、若干緊張してるかも」 「全然そんな風に見えないよ?むしろリラックスしてる」 「別にそんなことない ・・・そんな風に見える?」 「見える見える。なんか弧都瀬君意外と話やすい」 「あれ、なんで俺の名前知ってるの?」 「んーと、去年の12月のこととかで少し有名だよ・・・ごめん掘り起こしちゃって」 「まあ昔のことだし、忘れることら無理だけど気にしないことならできるからいいよ」
気を使ったように口をアヒル口にして上目遣いで彼女はゆっくりうんと頷いた。
忘れたくても忘れられないことは誰にだってあるけど 心の奥底ではそれを忘れてはならないという義務感があるのだと思う。だから忘れることができない。 時は午前8時40分。 先生が教室にやって来たのであったがただいま俺が人生で11回目であろう試練の壁にぶち当たろうとしていた。夏休みの始まる前に配られる悪魔の手紙と同じようなことかもしれないのだろうが、それが処刑ならば今からは始まるのは公開処刑だ。 「はいでは1番から自己紹介してってなー」
彼は気楽にそう言ったが俺にとってはそれは醜態を晒す、しかも自ら。俺の名字が"こ"から始まることを深く恨んだ。 すぐに俺の番がきた。ここは時間勝負だ。 さっさと終わらせてやろう。 俺は立ち上がりまあ普通に普通の声でごく普通に自己紹介した。
「えーと弧都瀬 桜 です・・・好きな食べ物は抹茶アイスです」
周りがざわめき始めた。 女みてぇー 桜? 変わってる もうちょっと俺に聞こえないように言ってほしい。 あと俺が座ってもこっちを見てくるのもやめてほしい。どういう顔をすればいいのかわかんなくなるから!
名前の由来は、知らない。 何故女の子みたいな名前なのか。何故桜なのか。俺は男だ。 髪だってそんなに長い訳でもないし言動体型もまるっきり男。♂よ♂。 さくら♂
俺の席の横に座ってる女子も俺の方を見てなにか可愛そうなものを見るような目をしていた。
「その気持ちウチわかるよ 名前が異性みたいなの」 「お、同情してくれるの?」 「うんうん もうすぐウチの自己紹介だから教えてあげる」
まさか彼女の名前は男の名前だったりするのか? いやそれは可哀想すぎだろ。まあ俺自体可哀想すぎだけれども。
そして彼女の自己紹介の番がやってきた。若干わくわくしている自分がいるがこの際それは誰にも内緒ということで。 彼女は立ち上がって一端スカートを手で整えて口を開いた。
「きりんりん しなです 好きなことは本を読むことです」
俺の時のように周りがざわつき始める。 彼女は若干顔を赤らめ周りの頑張って視線を誰とも合わせそうとせず席につき俺の方を向いて、ふぅとため息をついた。
「お疲れ。きりんりんってどういう漢字なの?」 「うーんと口じゃ難しいから今紙に書いてあげる」
しなさんは鞄からノートを取り出しシャーペンでスラスラ書いてそれを俺に何か自慢でもするかのように見せてくれた。
麒麟凛獅南
「すっごい強そうでしょ」 「思ったよりすごいなぁ•••古来伝説に伝わる仙人みたいな名前だね」 「結構言ってくれるじゃんか」 「ごめんごめん」
少し本気で落ち込み始めたのであまり変なことは言わないでおこう。うん。だけど彼女に麒麟の要素も凛の要素も獅の要素もまったくないのが皮肉だ。 しなさんは小動物みたいで守ってあげたくなるようなそんな雰囲気な女の子である。
「ウチ弱いのにこんな名前だから本当に自分が情けなくなるの」 「人って自分のことを強いと思うほうが弱いんだと思うよ」 「どうして?」 「強いって思ってるとそこで終点になるけど弱ければ弱いほど高見をめざせるじゃんか」
「お、なかなかうれしいこと言ってくれるね」
しなさんは安心したような笑顔をして俺も同じように安心した。 彼女の笑顔は癒され見てるだけでもうれしくなってくる。 容姿 言動 行動 そのすべてが俺の心にひっかかってくるような気分だ。 彼女がどんな罪をおかしても許してしまえるとさえ思った。
自分に嘘はつけない。思ってしまっては駄目なことだとわかっていたけど、今回ばかりは偶然。偶然のはず。偶然じゃなければならない。
俺はしなさんに恋をしていた。
灰色の空が頭上に広がる中、寒さを耐え抜いた木々が緑色を作る山に未だ冬の名残がある萎れた稲が生えている田圃に囲まれた田舎道を抜け古き町並みから一転住宅街へ来た俺はわが家へと到着した。 二階建てのごく普通の一軒家である。
ドアを開け玄関を開けるとまず「おっかえりー!」という明るく元気な女声が聞こえる。 リビングに入るとソファにうつ伏せに寝ころび携帯ゲーム機を片手に、もう片方の手の裏を俺に向けてるこの紫色の肩までかかったショートヘアーで無防備にルームウェアの胸元をはだけさせ、太股までめくり上がらせているこの見た目年齢女子高生は霊音(レイン)。 さきほどの玄関でのあいさつの声の主。 そしてダイニングテーブルに座って片膝を立て、もう片膝をぶらんぶらんさせながら目薬をうっている白髪で青色のブレザーに赤色のネクタイ、黒色のズボンを履いていてベルトと後ろボケットを動物の毛で編んだ紐を4 、5本繋げて垂らしている見た目年齢男子高校生は喰奴(クラウド)。 俺に気づいて笑顔で出迎えた。
「イリスなら桜の部屋でなんかやってるよー」
気楽そうな声で喰奴は俺に報告した。まあこれが日常というわけで、この二人は兄妹であるものの俺の家族ではない。 この二人は多額の金で俺の父親に雇われたボディガード的な人たち。 仕事があまりにも升に合わない結果になったためそのつけ払いとして未だにこの家に残っている。
彼らは妖怪だ。
妖怪"猫又" 年齢は250〜300歳らしい。 ただ記憶力は人間とほぼ同等とのことなので過去のことは大きな出来事くらいしか覚えていないらしい。そんな猫又である喰奴がさきほど言ったことが気になり俺は鞄を持ったまま階段を登り自室のドアを開けた。
「モグモグ パリパリ」
ベッドの上で内股になりポテチを食べてる"こいつ" 綺麗で見惚れてしまうほどの銀色の長い髪に整った顔立ちに片目が青、片目が黄緑のオッドアイ。 濃い緑色をし、金色のボタンが首もとから下まで六ついたた軍服のようなものを上にき下はチェックのミニスカート。黒いニーズソックスを履いたこの恨めしいほどの美少女はイリス。年齢は17歳。同い年だ。妖怪を超えもはや神である近い邪神,ヤマタノオロチと人間のハーフ。 そう恨めしいほど美少女。 あまりにも恨めしい。殺してやりたい
こいつは殺し屋だ。 無情で冷酷で行動に一片の躊躇いもない。
「お前人の部屋で何してんの?」 「わたしの部屋にはクーラー無いから桜の部屋でゆっくりしてる」
どうりで部屋の空気が冷たい訳だ。異常なほどに暑さが苦手なこいつはよく冷えた風呂や冷蔵庫の中に潜んでいることが多かったので前に俺が注意したところ今回は堂々と暑さしのぎをしてやがった。
「桜も一緒に食べるか?」 「ん、じゃあちょっと食べる 寒いけど」
そういい俺は近づいたがこいつは俺のベットで手についた油をとっていた。それを行う度に一度俺の方を見てまたそれを行う。
「おい」 「ん?」
俺ははぁーと深いため息をついた。反応すること事態面倒で、注意するのに疲れる。いつも上から目線女王様気分でいるこの銀髪女はたまに幼稚な部分かいま見させる。彼女は俺が何も反応しなかったのでつまらなそうに壁に頭から背を反るようにもたれ掛かり窓の奥の景色を見つめてて眠る直前のように目を少し細めた。
「今日もまた、雨か」
彼女が強弱なく棒読みにそう呟き、俺は立っているのが疲れたので勉強机の前にあるイスに座った。外からは雨の音が止まることなく聞こえてくる。
「ここ2週間ずっと降り続けているな。この街だけらしいぞ雨降ってるの」 「そうか。わたしはやっぱり妖怪の仕業だと思う。雨降り小僧とかその辺」
窓の奥の景色に見飽きたのか頭をかくんと落とすように下に向けた。銀色の髪が不規則的に流れるようにすらすらベッドに足をつけていく。そして上目遣いをして俺を見て口を開いた。
「雨降り小僧はな、人間の願い通りに雨を降らせてあげる妖怪だ。だけどそれをお願いした人間の魂を後から奪いにくる」 「まるで詐欺師だな。雨の代償が自分の命か。」 「他人の命を奪うことなど単なる役割なんだし」
イリス・薙・ゴルゴネス
殺し屋である彼女らしい一言だ。 他人の命を奪うということに何も抵抗がない。いや彼女には道徳という概念が存在しないのかもしれない。だが俺には一つ疑問なことがある。殺し屋であるイリスが現在でも一つだけ殺し屋らしくない行動をしている。 どう考えても、どれだけ考えてもわからない答えが見つからない見あたらない。何回彼女に問いただしても返答は意味不明な言葉で帰ってくる。
「イリス、お前は俺を何故殺さない?」
去年の冬、イリス含め4人の殺し屋がこの傘峰市へとやってきた。 目的は・・・ 今ここで話すのはやめておこう。 心が締め付けられ窒息してしまうほど痛くなってしまうから。
この街にやってきた4人の殺し屋は目的を遂行していった。 何の躊躇もなく。
12月31日の夜の惨劇。 父、綱鳶が傭兵として霊音と喰奴を雇い彼らの力により物語は完結した。イリスの殺害の目標には俺も含まれているのだがイリスは一行に俺を殺めようとはしない。 いつも理由を聞くとこう帰ってくる。
「桜を殺す暇がない。暇さえあればいつでもすぐにでも殺すからさ」
それは彼女の口癖になり始めようとしていた。質問するとコンピューターのようにこのセリフをはいてきやがる。 すべてを亡くされた俺を生かすことが彼女にとっては最高に優雅な拷問という名の娯楽なのか? でもイリスには楽しい,悲しい,悔しい,苦しい,そういう人間にはごく普通の感情が無いように思える。つまらない という感情はなんだかあるような気はするけど。
「今だって暇そうじゃないか」 「お腹いっぱいだからそれを消化している。 ほら暇じゃないだろ」 「はぁ•••イリスなら俺なんて簡単に殺せるんじゃないか?」 「桜なら่ゴキブリ並の生命力で逃げ回りそう•••気持ち悪い」 「ちょ、それは傷つくわ」
この殺し屋は俺を殺す気があるのか!? まあ殺してほしい訳じゃないのだけれどこいつの態度を見てると腹が立ってくる。だだをこねる子供を会いてにしてる気分だ。
俺が怒ってるのがわかったのか、内股で座っている足を一端 中が見えないように膝で立ってスカートを手で上から下にはらって整えゆっくり正座になった。だけど全体的にダルそう。疲れたというオーラと顔的にお腹が空いたというシグナルが伺える。 いくら人間と妖怪のハーフであっても体の構造も心もほとんど同じなのだと思う。 今降っている雨だって一粒一粒に名前があったとしてもそれは雨という名でくくられる。だけど妖怪が人間を全員見たところでそのすべてを同じものとは言えるのは難しいだろう。 人には個性があり感情があり他の人とは明らかに違う。同じものなどない。 ならイリスは、感情が見あたらない彼女にとっては人間は人間なのだから安易に人を殺めることができるのか? だけどそこに俺というものが邪魔をして答えを見いだすことができない。計算式の中にある難解な数字のせいで方程式が解けない。
「なら俺がお前に俺を殺すことを強要したら?」 「もしそれでわたしが行動を起こしたとして霊音と喰奴が止めにかかるでしょ? それはめんどくさい」
なら・・・ そこまで言うのなら俺の気持ちをさらけ出してまでこれだけは言ってやる。
「じゃあお前を殺す」
「・・・そ」
そんな返答はされたところで、俺はこいつを殺すことなんかできなかった。俺は人を殺すことに慣れてない。ここで慣れてないなんて言葉を使うことは不気味だと思うが、俺は確かに人を殺したことがある
「二人ともー!!お昼ごはんー!!」
一階から聞こえてきたのは霊音の声だった。俺はイリスと話したところで結局答えが見つかる訳でもなく何かを得ることもないため会話を切り上げた。
「とりあえず食べにいこ」
イリスはうんと頷いて、俺たち二人は一階へと降りた。テーブルには4人分のオムライスが並べられていた。できたてで湯気がまだ立っていて今すぐにでも口に運びたい気分だ。それにしても昼からオムライス作るとは霊音も中々頑張るなあ。
「霊音お昼から張り切ってるな」 「いやー料理が上手な女の子は男受けいいしねー♪ 料理を征するものは男を征する!」
エプロン姿に片手でケチャップを持って、一人ずつオムライスにケチャップをかけていった。 ケチャップは何故かケーキの生クリームのように出てくる。 それを指摘してみるかしないか迷ってる途中で喰奴が霊音に言った。
「おいおい霊音、この形はオムライスに合わない合わない♪食欲失せるねー へへ」 「それは喰奴だけ! ほらイリスと桜は今にも食べたそうに待ってるよー これね、使い切った生クリームのケースの出し口のとこ付けてみたの! こりゃあ面白いでしょ!」
普通思いついても誰も実行しないよ。うん
全員分のケチャップをかけ終えた霊音はエプロンを外してイスに座った。それと同時に皆で手を合わせていただきますをしスプーンでオムライスをすくって食べる。 霊音の作る料理は食べ慣れ今や家庭の味として美味しくいただいている。
「そういえばイリスも早く料理作れるようにならないと」
霊音が心配そうにイリスに言った。しかしこの殺し屋イリスさんはにぐーに手を握って胸に当て自信満々に、誇らしげな顔をした。
「大丈夫。カップラーメンなら一昨日桜に作り方教えてもらって作れるようになったから。 料理なんて余裕よ! 日清は偉大だ」
ブフー!と喰奴は飲んでいたお茶を吹き出して下を向きながら引き笑いしている。いつも笑って明るく冗談ばっかり霊音はというと苦笑いしながら横目で俺を見た。
「桜色々作れるんだからちゃんとした料理教えてあげようよ」 「本当にカップメンが限界だったんだって!」
あまり言うとイリスがかわいそうだから霊音と喰奴には伏せておくがこの銀髪っ子最初カップラーメンはなんとか作れると言いながら、ボウルにお湯をためてその中にカップを沈めて「ほら完成ぇー」とか自慢気に言っていた輩だからな。 これから先料理など作れるのか?
「イリスがお嫁さんになったら朝昼晩毎日カップ麺だね♪ いやぁそりゃあ 最高に面白すぎだろ♪ 勿論そんなの最高に辛いだろうけどネ。 ヘヘ 」
満面の笑みで喰奴がスプーンをイリスに向けて言ったこの言葉でイリスが若干涙目になり始めた。 おいおいこんな様が見えるなんて今日はなかなかおもしろいじゃないか。だが逆手に考えればプライドの塊だとも思えるこの殺し屋。 そうなんだって彼女の職業(ジョブ)は残忍で冷酷で無心な殺し屋だ。 かつて"蛇巻甲冑"と呼ばれ恐れられた彼女がそう簡単にくじけまい。
「く、喰奴のバカァ!!ついでに桜はもっとバカァ!! もうおやすみぃぃ! グスン」
へ?
イリスは泣いた幼稚園児のように両手で目を覆って席を後にしそのまま部屋を出て階段をかけあがっていった。
「二人とも女心わからないなんてダメだよぉ。 ちょっと様子見てくるね」
そう言って霊音はイリスの後を追っていった。 世話好きで人思いな性格の霊音らしい行動だ。 彼女の奇怪とも言える行動に喰奴も少々驚いた顔をして眉をぴくんと動かして俺に目線を合わせた。
「やっちまったね」 「やっちまったな」
今まで感情ですら見せたことが無い彼女があそこまでになるとはいくらなんでもギャップが激しすぎるだろ。ツンツンして実は心が弱くて泣き虫 ツンジャクか。あやつは。
「桜、やっぱ女の子に家事とかそういう女らしさを否定すると結構傷つくものなんだね」 「あいつにそういう(女心)女らしさがあったんだな。ギャプ萌えならずギャップ引きだよ。まさに。」 「人の内蔵引きずり出して腸を体に巻いていたあの頃がまるで嘘のようだね。まったく。」
003
高校2年生2日目、現時刻は12時30分。 お昼の時間皆は教室を抜け出して廊下で友達たちと弁当を食べたり、群がるヌーの如く購買へと駆けていく生徒たちの姿があった。 窓から差し込む日差しは春ながら少し暑いとまで思えるほど強いものであった。 そう今日は珍しく快晴である。 奇跡と言うべきなのかごく普通と言うべきなのか。 この2週間の雨が続いた中この天気は異常気象ではないのかと思えるほどである。 そんな天気良好の中俺は弁当を食べているのだが、俺の机に向かい合わせになって購買で買ったクロワッサンを丁寧にちぎって食べているのは驚くべき異名の持ち主、麒麟凛獅南さん。 クロワッサンを口に入れる度に若干笑顔になっている。 よほどおいしいのだろうか。 彼女は俺と同じくクラスで知り合いがいないため彼女からの誘いでこうして食べている。 周りからの視線に若干戸惑うが獅南さんはというと大して気にしていない・・・というわけでもなく最初に「カップルと思われてないよね?」と苦笑いで俺に言っていたので気にしているのだろう。 にしてもあの引きつった苦笑いはちょっと傷つくよ・・・。
「獅南さん弁当持ってこないの?」 「んーとね、今日3時間目くらいで終わるかなーって思って作らなかったらどんでん返しくらっちゃった」 「おいおい考えが甘いぞ。てか獅南さん弁当作れるの?」 「女の子なら高2にもなったら誰でも作れるよ! ウチ結構料理得意なんだよ。よかったら作ってきてあげようか?」
女の子はこう言う男子が自意識過剰になってしまうようなことを普通に言ってのけるから怖いものだ。高2の歳になれば女の子は料理作れるという仮説、残念なことにその説はわが家にいる一人の女によって砕かれてしまっているのだよ。 イリスという正論で論破されている。ちなみに昨日はたった5分でリビングに戻ってきてなにくわぬ顔で冷蔵庫から牛乳を取り出してストローで飲んでいた。 「なんだお前ら?そんなに牛乳が恋しいか? 残念極まりないがわたしが略奪したのだからお前らにはあげないよ。」とどや顔をしながら二階の自室へと階段を上っていった。どっからどうみても泣いた件の恥隠しとしか思えず俺と喰奴は目を合わせて呆れたように笑った。そんな女とこの獅南さんを比べると、比べるのにももったいないくらい獅南さんは天使のようだ。
「獅南さんの手料理とかなんか楽しみだなあ」 「自信ありますよぉー 幼なじみにもたまに作るんだけどすごい良いって言ってくれたし」 「昨日言ってた同じ蓋付高校の幼なじみ?」 「そうそう。サッカー部の家矢蔵馬(いえや くらま)。知ってる?」
やっぱり何事も上手くいくわけでもなく、優越感に浸っていたさきほどまでの自分が恥ずかしくなってきた。だけどそれはふいうちだよ獅南さん。 今のテンションを表すならジェットコースターみたく上がってそのまま急降下、迷走中って感じかな。 そして家矢蔵馬 高1の時からサッカーの大会関連のことで何回か表彰されるのを見たことがある。 背が大きい方である俺より少し高くて茶髪、目が少しつり目で一番印象に残ってるのは歯がすごく綺麗だと言うこと。 知っているのだが、ここで彼女に言ってしまうと家矢蔵真の話題で話が出てしまいそうなのでやめておいた。ただなんとうか家矢蔵真と俺とは全く逆な存在。 彼と獅南さんが幼なじみで昔から遊んだり同じ学校の中でありながらメールをしやう仲なのだと思うとなんだか彼女が近くにいるながらも遠い存在のように思えてきてしまった。
「んー、聞いたことあるような。でも知らないなあ」 「そっか。今度紹介してあげる♪蔵真優しいし話しやすいと思うよ」
そう言って彼女はクロワッサンの最後の一切れを満足そうに口に入れて、入りきらなかったから人差し指で軽くつついて無理矢理押し込んだ。すると突然瞳孔を開き慌てるように噛みはじめた彼女は一気に飲み込んで立ち上がった。 まるで何か大事なことでも思い出したかのような顔をしてスクールバックからファイルを取り出した中からメモ帳ほどのカードを取り出した。
「早く借りた本返さないと! ちょ、ちょっと図書室行ってくるね」
どうやら本当に思い出したらしい。獅南さんはバックから取り出した本と図書カードを持って教室から出ようとしていた。思ったのだがまだまだ休み時間はあるのだからそこまで慌てる必要も無いのだと思うのだが。 「あぁちょっと獅南さん! まだ休み時間あるよ!」 「そうじゃんか。 うわあなんか恥ずかしい」
教室には生徒がたくさんいるし人前であまり大きな声とかは出したくない性格の獅南さんの声の音量はいつも通り一定音だった。 そんな中恥ずかしいのだけれど俺は恋愛攻めも大切だと思い、頭を真っ白にして声を張り上げた。
「俺図書室あまり行ったことないからついてってもいい!?」
「ん、本当に? ありがとう。本のことなら得意分野だしおすすめの本教えてあげる。」
まあ何事も言ってみてなんぼってことなんだろうなあ。 人生挑戦が大事。高校生が人生語るのはちと生意気かな。
こうして俺と獅南さんで別校舎にる図書室に向かい、着いた訳だが 彼女のテンションは異様なものとなった 。図書室を駆け巡り求めていた本を見つけると華麗にペンを構えて図書カードに記入。入り口付近で立ち止まっている俺に笑顔で手を降り彼女は受付まで行き本を返したあと新しく借りた本を俺の元へと持ってきた。
「これこれ!ウチのオススメの本!読んでみてよ」
今まで見たことがないとびきりの笑顔で彼女は小説を持ってきた。 "海底2万里"というその本は獅南さん曰く自分が本好きになったきっかっけの本らしい。その後ネモ船長がヤバイだとかクラーケンがヤバイだとかよくわからないことを発しながら一人興奮していた。
「これ読んで感想聞かせてほしいな」
ん これはチャンスだ。 次いつ来るかわからない攻め時であり絶好のタイミング。一気に緊張が高まるも成功すれば彼女との距離が縮まるかもしれない。 いや絶対縮まる! 俺は少しぎこちなくなりながらも彼女に気づかれない程度に深呼吸をし口を開いた。
「んと、読んだらすぐに感想伝えたいからメアド教えてほしいな」
女の子にメアドを聞いたのは人生で初めての体験だ。 別に告白するわけでもデートのお誘いをした訳でもないのに解放感と心の圧迫感の両方を感じる気持ちとなった。俺のお願いを聞いた彼女は胸ポケットから携帯を取り出し少し操作して俺に「はい♪」と言って携帯を前に構えた 俺もポケットから携帯を取り出しメニューから赤外線交換を選択し彼女の携帯に接触するくらい近づけると、電子音と共に"麒麟凛獅南"というデータが俺の携帯へと送りこまれた。
004
久々の快晴の中俺は緑多し田舎道を歩いていた。授業を終え部活もしていない人の特権である明るいうちに家に帰れるというものだ。 さきほどから5分おきくらいに携帯を開いて電話帳を見ては"麒麟凛獅南"という項目を見て満足感と優越感に浸っていた。 読書好きの彼女ではあるが部活はバドミントン部という中々なスポーツをしている。 「遊びで入ったのに意外にハードだったんだなぁ」と今日のお昼に言っていた。 そんな獅南さんの言葉に部活なんかやろうかななんて思っている俺は獅南さんに影響されまくっているのかもしれない。 いや、確実にされている。 俺が今向かっているのは薬局。 久々にワックスやスプレーなどの美容用品を求めてだ。 俺の青春は高1の冬までがピークで後は延長線上を行く消化試合かと思って髪も延ばしっぱなしでワックスもつけず寝癖のまま学校に行くのも安易なことになっていた。薬局に入り理髪コーナーを探していると黒いシャツにジーンズのホットパンツを履いて買い物カゴを下げて食品コーナーにいる霊音を見つけた。
「おーい霊音」
俺の掛け声に気づいた彼女は「あ」と無気力な声を出しながらも笑顔で俺の方に駆け寄って来た。
「桜が薬局にいるなんて珍しいっ! 何してるの?」 「ワックスとか買いに来たんよ 久々にやろうかなって」 「ん、桜ー♪ 恋は人を変えるって言うけどー」 「いやっ!そんなんじゃない! ただ久々にね久々」
さすが霊音 人間関係面に関しての洞察力が鋭い。 「桜ぁー もう人とは関わらないんじゃなかったのー?」
後ろから、レジから聞こえてきたその聞き慣れた声。 振り向くとそこにいたのはレジの商品を置く台に肘を立てて頬杖をついている店員は喰奴であった。
「ってお前はいつのまにっ!」 「バイトマスター目指しててね。これで6個目だ 」
行くとこ行くとこ現れるこの喰奴。この前なんて高校の購買にまで現れて正直迷惑した。
「桜はこの前人と関わらないて言ってたのに恋愛なんてしちゃって」 「だから恋愛なんてしてないし喰奴はくどいなぁ」 「そうだよ喰奴。桜が誰かに恋しようとそれは桜の自由なんだし」
もう俺に好きな人がいる前提で話が進んじゃっているのかよ。 昔から嘘は苦手だ。 とりあえずこの状況から抜け出したいのでさりげなく「ちょっと」と言って理髪コーナーへと行った。高1の時から使っていたワックスとスプレーを手に取り喰奴ではない店員のレジを通って薬局から出ようとした。 霊音と帰れば確実にさきほどのことについて深く問いつめられること間違いない。
「桜ー!待ってー!」
なぬッ!ハヤカッタッ! 後ろからレジ袋を下げて霊音は現れた。 「はいこれ」と当たり前のようにレジ袋を俺に渡して横を歩き始める彼女はいつ見ても250歳とは思えない若々しさだ。 後ろからレジ袋を下げて霊音は現れた。 時間は16時を回りあかね色の空が広がり山は影となる。
「わたし桜に一つ聞きたいことがあるの」
霊音はあまり見せない真剣な表情をしてこちらを向いた。 どうやらさきほどの件ではない別件なのだろう。
「桜はイリスを何故助けたの?」 「別に助けた訳じゃないよ」
大晦日の惨劇の後、イリスは傘峰市を去った。だがしばらくして衰弱した状態で彼女はまたこの街に現れたのだ。俺が彼女を家に招いたのはただ単純な理由で、死にそうな人を見殺しにするわけにはいかない。そして少し感じていた彼女は俺に対して殺意を抱いてはないということ。
「ただ困っている人を助けただけかな。今だって後悔はしてないよ」 「やっぱりね二人の間にはあの大晦日の日から運命の糸が結ばれちゃったんだよ。運命の糸というか、執念の糸」 「執念の糸?」 「そう。あの日二人には切っても切りきれない縁ができちゃった。元々桜とイリスには必然の糸があったのだけれどそれはイリスの"思い"で解けた。だけど桜の"思い"でそれは新しい糸を紡いで桜とイリスは離れられない、お互いに恨み合うこととなったの。」 「つまり俺たちは」 「お互いにどちらかを消すことはできない。」
そんな馬鹿な。 俺はあんなにもイリスのことを憎んでいるんだ。いつかは・・・いつからこの手で殺せる。息の根を止めれる。そう願っているんだ。 彼女だって・・・ん? イリスだって簡単に俺を殺せるんだ。息の根を止めれるんだ。 なら彼女は何故殺せない?俺は何故殺せない?俺とイリスの殺意を妨げているものは何だ?
「桜!!」 「ん!?」 「ちょっと急用思い出してね・・・服とか頼んだッ」
霊音はウインクと共に二つの尾がある黒猫の姿となり田舎道をまっすぐに駆けていった。 これをやられると後処理が大変なんだよ・・・ 道に落ちているシャツとホットパンツ、下着、ブラジャーを手に取り周りを確認した後急いでカバンの中にしまった。
家に帰るとやはり霊音の姿はなかった。勿論喰奴もバイト中である。日に日に疲労がたまっている俺はリビングのソファでゆっくり眠りについた。
起きたのは午後7時30分。 周りの様子は寝た時となんの変わりもなかった。 霊音と喰奴のいる気配も無い。 たまにある化け猫通しでの集会に行っているのだと思う。 そうなれば晩飯は俺が作ることになるのだがその前に携帯を確認してみると新着メールが1件来ていた。送り主"麒麟凛獅南"の文字に心が高ぶった。 7時に来ているメールなのでまだセーフかな。 内容を確認してみると
今部活終わりましたー♪ 初メール☆ 元気にしてる?
あいさつといったところかな。 俺はそれに対して返信をし、そこから30分ほど互いにメールし、最後のお別れメール それには自分でも驚く言葉が書き記されていた。
じゃあねまた明日♪ 明日はさくら君にお弁当作ってくるんで楽しみにしててください
「桜ぁぁお腹空いたぁぁー」 横から聞こえる声を無視して俺は一人そのメールを読んでは読み直し心の中でガッツポーズをしていた。
「冷蔵庫にひき肉あるから今日はハンバーグでしょぉぉ普通に考えてぇぇー」
やばい明日が最高に楽しみだ。 胸が締め付けられるようなこの気持ち、そわそわしてじーとはしてられない。だかは携帯を見て今までのメールのやりとりを見て最後の一行を見ては笑顔をこぼす。端から見たら変人だ。
「端から見たら変人だ。桜」
今日は明日の獅南さんのために晩ご飯抜きにしても構わない。 もう獅南さんの弁当のためならなんだって我慢できる!
「気持ち悪いわ!!」 「痛っ!!」
うつ伏せになっている俺の背中に上空からエルボーが飛んできた。 イリスが俺に重なるような状態となっている。
「いきなりそれはない・・・ってかお前軽っ」 「お褒めの言葉はいいから早くごはんを作ってくださいナ」 「あー食器棚の上の袋にカップメ」 「ハンバーグでよろしくお願いします」 「かしこまりました・・・チッ」
結局手間のかかる料理になってしまったが、ここは非家庭的女の為にも料理教えながら作っていこうか。
俺とイリスはキッチンにたちひき肉をこねる作業から始め、タマネギを切って混ぜたりとごく普通のハンバーグを作っていた。さすがのイリスも俺と一緒ならスムーズに行動する。
「なあ桜。料理楽しいな」 「ん、これから霊音がいない時はイリスに任せるよ」 「任せてみろ。この家の食材すべて廃棄処分することになるぞ」
なに自分の料理下手に開き直ってんだ。 その冗談全然ありえる話だから素直に笑えねーよ。 ハンバーグを作り終え、俺とイリスはテーブルについた。主食とか作ってないけどこの際どうでもいいや。 ハンバーグを食べ終えた後俺は食器を洗っていた。いつもは霊音の仕事なんだけどね。
「桜ぁ、風呂入らないか?」 「いいよー・・・ん?、はっ?」 「さき体とか洗っとくから後から来てよ」 「あのーあなた女の子ですよねぇ?」 「霊音も喰奴もいないんださいいんじゃない?」
なんでイリスが疑問形を使うのか謎だが突然そんなお誘いを受けると驚くしちょっと気になっちゃったりもするしやけにイリスが可愛く見えちゃったりもする。 だけどそれはふつーにお断り。 正直ね、正直なとこ入りたいよ。絶世の美少女と一緒にお風呂なんてマンガやアニメの話でもそんなにないと思う。もし入ってる途中で霊音と喰奴が帰ってきたら俺の人生はそこで終了する。
「やめとく。霊音たち帰ってきたらやばいし」 「二人なら集会で11時まで帰ってこない」 「入りましょう」
10分後 こうしてただいまこのような状況になっているわけで、風呂の中向かい合わせな状態になっているのです。 風呂には白くなる液を入れているのでお互いに裸が見える訳ではないけれど恥ずかしいなこれ。 イリスも顔を合わせようとはしないしこいつも恥ずかしがっているのか。なんで誘ったんだよ! 無言が続いているので何か話さなければ。こんな状況だし少しくらいモラルの無いことを言っても大丈夫でしょ。
「結構胸あるんだな」
1秒後、彼女の寝ながらかかと落としが俺の頭上に炸裂した。 まあね、これはね俺が悪いよ。うん。でも少しくらいこういうノリにも乗ってほしかったってのはあるけど。でも裸のつき合いというやつ、聞きたいことは聞いておくべきだろ。と言っても彼女の気持ちを聞く前に素朴な疑問がこいつにはたくさんある。
「ごめんさっきのは冗談 ネタだから。うんネタ。 でな、質問があるんだけど、お前ってヤマタノオロチのハーフじゃん。実際見たことあるの?そのヤマタノオロチってのは?」 「無い。まずな桜、ハーフというのは妖怪と人間が交わって生まれる訳ではないぞ。」
湯気立つ風呂の中彼女はバスタブの端に肘をついて顔を斜めにした。そして、ふぅと息を吐いてイリスは話を続ける。
「人間には妖怪と契約を結ぶことができる。結んだら妖力を分け与えてもらい未知の能力を使うことができる。・・・桜、話についてこれそうか?」 「あ、まあ大丈夫。続けて続けて」
実際俺がこの妖怪の世界、未知の存在を知ったのは去年の冬だった。当時父からそれを知らされた時は信じれない話だったけど今じゃそれは当たり前。とても近い存在だ。さっきからイリスが言っている内容はオカルトでもなんでもないれっきとした現実。未だ公になってない世界の常識なのだ。
「その契約を交わした者は特別な力を得る。その代わり当たり前だが代償があるんだ。」
イリスはお湯の中に浸していた左腕を出して人指し指で俺を指した。
「男の場合、大切な人ーー愛する人の命を差し出すこと。生け贄を捧げる。これが代償」
次に彼女は左腕をまたお湯の中に浸して俺から目線を話して右上を見ながら言った。
「女の場合、妖怪の血の混じった子供を妊娠することーー処女でも子が宿るの。勿論その子供にも能力が引き継がれる・・・だけど」 「だけど?」 「母親の体は子育てに的した体にはならないの。母乳は出ないし我が子に愛情も生まれないだから・・・生まれてすぐ子は生きるために母を殺して血肉を食べて生き延びるのよ」 「え、何それ怖い話・・・?」 「本当の話。」
なら、ここにいる奴は過去に母親を食べて生きてきた生き物なのか?確かに、確かにそんな歳のうちに殺人を覚えてしまえばその先人を殺めることなど簡単に、普通にできてしまうのではないか。
「じゃあお前も自分のお母さんをーー」 「記憶は無いわ。だけど私がこうして生きているということはその過程があったってこと」 「お前の母親はのちに子供に食い殺されることを知っていたのかよ?」 「そんなはずないでしょ、わたしの母はヨーロッパでは白聖祓師と呼ばれた有名なエクソシストだった・・・らしい。彼女はより強い力を求めて日本に来日したの。そこで九州で妖怪神ヤマタノオロチと会って契約を交わした。そしてわたしを妊娠してわたしに食いころされた。そもそもね、彼女は妖怪の血の混じった子を妊娠するということまでは知っていた。というかそれは霊媒師世界にとって常識。だけどその後の過程を知るものなんていなかったの。まず霊媒師自ら妖怪の力を借りるなんてありえない話 彼女は欲につられてしまった。」
イリス話ながら髪をいじり始めた。こいつは母親も知らないし父親も知らない。ましてや父親は八つの頭がある大蛇だ。親の愛情も知らないしそもそも人の愛情も知らない。哀れ。彼女は狂っている訳でもない、ただ可愛そうな子なんだ。
「イリス、お前はその後どうしたんだ?親の死体だけでは生きていくのは難しいだろ?」 「知ってるよね阿部釈迦道(あべのしゃかどう)」 「お前たち殺し屋四人衆に俺たちの殺害を依頼した奴だろ名前しか知らないけどな」 「うん。当時高校生の彼がねわたしを助けてくれたの彼は平安時代の陰陽師 阿部清明(あべのせいめい)の子孫なんだけど特別力があった訳でも無いし陰陽道を受け継ぐ気もなかった。そんな彼は私が14になるまで一緒にいてくれた」
いつのまにか俺は彼女の話の虜になってしまっていた。非現実だけど常識。そしてこの謎めいた女の過去と正体。話を聞いていくうちにますます彼女に嫌悪感を抱くようになってしまう。イリスを育てたのが俺の友と家族を失う元凶となった男であるということにとてつもない憎しみを感じてしまう。 会ったこともない見たこともない人間を殺すことを依頼したその男に対し会ったことも見たことない俺がとてつもない憎しみを感じる。それをぶつけることができない俺は憎しみの矛先をイリスに向けているのかもしれない。いや構わない。それが普通だ。一般な考えで気持ちだ。 もう何時かは知らないけど今日は特別だ。白い湯気はお互いの壁を見えなくするように、落ちてくる水滴とそれが水上で跳ねる音は静寂を破いて気まずさが無い。 イリスは止まらないかのように話を続けた。
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