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作品名:親友が、学校をやめました。 作者:朝陽菜 零

第1回   1
私と親友は、中学校の3年生。
私の両親はバイオリニストとピアニストで、親友の両親は地域で一番大きな病院の院長と看護師。私たちが出合ったのは、幼稚園の受験会場だった。
どんな出会いだったのか、最初に交わした言葉はなんだったのかは忘れてしまったけど、無事合格して入園したときに親友が手を振ってきて、それから毎日一緒だった。
私立のエスカレーター式の学園付属の幼稚園だったので、今日までずっと一緒。当たり前のように、大学まで一緒に行くと思っていた。私は、親友といるととても安心できるし、親友も私といるのが一番好きだと言ってくれた。他の友達もたくさんいたけれど、親友に勝る親友はいない。だってそれが親友でしょ?

 高校進学を控えた、中学3年生の2月。その日の夜、私はいつものように親友と携帯電話で長話をしていた。中学の進学祝いに買ってもらった携帯電話の通話履歴はほとんどが親友で、かけてくるのもたいてい親友から。
「でね、ママが点滴に失敗したってずっと落ち込んでてー」
「あらら、まあそんな日もあるわよ。」
いつもと同じでくだらない話をしていると、自室のドアが開いて母親が入ってきた。
「あすか、お電話はいい加減になさい。お父様に叱られるわよ。」
普段はおだやかな父は、ツアー前で少しピリピリしていた。
「はーい。」
「どうせ相手はゆりちゃんでしょ?一日中一緒にいるのに、電話までする必要ないじゃないのまったく。」
「お母様には、わからないわよきっと。」
「なによそれ。とにかく、早めに切って寝ること。明日寝坊するわよ。」
「わかったわよ、今切ります。」
母が部屋を出ていくと、電話越しにやり取りを聞いていた親友がくすくすと笑っていた。
「じゃあそろそろ切るね、また明日学校で。」
私が仕方なく切ろうとすると、親友は珍しいことを言った。
「私はあした学校に行かないの。」
「え、なに?調子でも悪いの?」
「ううん、そうじゃないけど。でもいかないの。」
「…?」
「まあ、とにかくおやすみ。」
親友は陽気に言うと電話を切ってしまった。
私は怪訝に思いながらも、特に気にすることはなく、私はベッドに入って眠った。

次の日、本当に寝坊してしまった私はいつもより一本遅い電車に乗った。学校まで走っていき、教室に入ったところでベルが鳴った。
「おぉっと早川選手、滑り込みセーフです!!」
「おろし髪にずり下がった靴下、見事な風貌でのゴールイン!皆様拍手をおくりましょう!」
クラスの男子がすかさず筆箱をマイク代わりにしてふざけて言った。たいていのメンバーが幼稚園から一緒なので、結構男子と女子の仲は良い。
「早川選手、今のお気持ちをどうぞ!」
筆箱が私のもとへ来る。
「おなかがすごく痛い。今日マラソンあるのに全力疾走とか…」
クラス中で笑い声が上がった。
 私は靴下を直しながら席へと向かい、カバンを置いて呼吸を整えた。親友の席に目をやると、親友はいなかった。昨日の電話で言っていたのは冗談じゃなかったのかと思った。それにしても、やけに机のまわり片付いてるな。そういえば、お揃いで勝ったブランケットが椅子の上にないけど、洗いに持って帰ったとか?めずらしい。そんなことを考えていると、女性の学級担任が来て、朝礼が始まった。
「はい、みなさんおはようございます。今日は連絡事項は…ありません。欠席はいませんか?」
私は小さく手を挙げて、
「先生、春日さんが来ていません。昨日学校に来ないと電話で言っていたんですけど。」
先生に親友のことを報告した。それを聞いて先生は出席簿を開いて何かを書き込んだ。多分親友の欄に斜線でもつけたのだろう。でも、先生が一瞬悲しそうな顔をしたのを私は見逃さなかった。
「ありがとう早川さん。他にはいないわね、じゃあ朝礼終わり。」
皆は1時限目の教科書を出して教室移動に向かった。私もそれに従おうとしていると、先生が私の席にメモ用紙を置いた。
「え、なに?」
先生はそのまま教室を出た。メモ用紙に目をやると
「他の人に何も言わずに早川さん一人で相談室に来て。一時限目は休むように教科担当に伝えてあるから。」
こんなことが書かれてあった。こんな経験をしたことがない私は、少し緊張して早足で相談室に向かった。
「あすか?どこいくの?教室はこっち…」
廊下の端で、クラスメイトが言っているのが聞こえた。


相談室に行くと、担任の先生と、保健室の先生がいた。私が席に着くと担任が口を開いた。
「早川さん、落ち着いて聞いてほしいの。」
「…はい。」
私は、漠然と嫌な予感がした。こんな状況で良い知らせなわけがないからである。保健室の先生がいるってことは、健康診断の結果が悪かったとか?
「あのね、春日さんが……」
先生はそこで一度止まって、大きく息を吸った。そして意を決したように私を見つめ、一気に言った。
「春日さんは、学園をやめたの。その、妊娠して、高校には行かないと昨日本人から電話があったわ。今日の早朝、退学届けが事務室に届けられたの。」
私は言葉も出ず、急に目の前が真っ白になった。


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