第七章 青春時代5 (バレたのか、頭頂部)
覚悟を決めて、教室の前まで行った。俯きながら。そう、頭頂部がみんなから見えないように。 ざわざわし始めた。バレたのか! 頭頂部が透けて地肌が見えてるのか! こそこそ、ざわざわ、すごく気になる! 帰りたい!逃げ出したい!もういやだ! そして、先生が僕の周りを一周してこう言った。 「パーマおとしたんやな。合格。」 そんな事、どうでもよかった。みんなの視線とざわめきに倒されそうな感覚を覚えながら僕はゆっくりと席に向かった。席に着くまでの間、今までの高校生活が走馬灯のように駆け巡り、凄く長く感じた。
入学式の事。 初めて会話を交わした友達の事。 けんかした事。 女子の体育の着替えを覗いた事。 初めて告白した事。 銀蝿の曲を一生懸命練習した事・・・。
そして、散髪屋でパーマをおとして、頭頂部を見せられた時の事・・・。 夢ならいいのにと思った。
席に着いて、みんなの視線がようやく僕から離れていった。安堵感を覚えはじめた。次の再検査のやつにみんなの視線がいった。開放された気がした。
学校からの帰り道、たわいもない話しをしながら帰った。あいつの服装検査結果がどうとか、あの先生の態度がこうとか、僕の髪の毛の話しはしてない。バレてなかったようだ。それとも、こいつはいいやつだから、気付いてないふりをしているだけなのか。 どっちにしても、今日は誰からも頭頂部の薄くなってる事は言われなかった。
そんなこんなで一日、また一日と過ぎていった。 誰にも僕の頭頂部はバレないまま、何も言われないまま過ぎていった。 しかし、恐れていた事が起こった。
今日は、朝から雨・・・。
そう、このごまかしの頭は雨に弱かった。カールしてごまかしている頭は雨に弱かった。いつも以上に時間をかけ、くりんくりんにしてスプレーでがちがちに固めた。 そして、学校へ向かった。
駅に着き、まずいつもの友達とあった。電車に乗った。 何事もないように、学校側駅に着いた。雨が降っているので、歩いて学校まで行った。 傘をさしているので、後ろからは頭頂部は隠れるので、問題はなかった。そして学校へ到着。恐る恐る手で頭頂部を触ってみると・・・。
やはり、無理だった。カールした髪の毛は伸びきって、スプレーの威力も切れていた。もうだめだった。頭頂部の髪の毛の量が、尋常じゃなかった。
帰りたい・・・。
今すぐここから、どこでもドアで家に帰りたい・・・。
気分が悪くなったとか言って帰ろうかと思ったが、基本、真面目な僕には出来なかった。
仕方なく、教室に入る。 さっそく、クラスで3番目のしゃべり、A吉が、僕の頭を見つけて、 「どないしたん、今日は頭、決まってへんなー。」 と、大きな声で言うから、みんなの視線が僕の頭へ向いた。 もうだめだ! 頭頂部の地肌を誰か見つける! そう思った瞬間だった。
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