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作品名:父さん母さん (虐め) 作者:渋川

第1回   1
虐め

 朝日が昇り準備を済ませた子供達が学校へと向かい、出版社に勤める妻の桐子も子供達と一緒に出勤して行く。そんな中、何時もの様に早乙女淳一郎は朝の日課である炊事洗濯を済ませると家の掃除をササッと済ませ、使い慣れた富士通の型遅れのパソコンの前に腰を下ろし執筆活動を始める。
これでも一応は一家六人を養う小説家のハシくれである。
そんな早乙女淳一郎の一日のスケジュールは家の掃除が終わった後、取り合えずは、そこから六時間余りが日中の仕事の時間で、午後十五時を過ぎると近所のスーパーへその日使う晩御飯の材料の買出しに出かける。
その後家に帰ると同時に晩御飯の支度に取り掛かり、午後四時、小学校へ通う龍之介と桜が帰って来る。そこで晩御飯の支度を一時中断し、早乙女家のルールの一つの、外から帰って来た時は手荒いと、うがいを二人にやらせ終ると、次は二人の宿題に付き添い、勉強の相手もする。
妹の桜はまだ小学校の三年生ではあるが自分から進んで勉強を始め、何事に対しても前向きな子供で有る。淳一郎から見ても頼もしさを感じる程だが、兄の五年生になる龍之介は全く桜とは逆で、何事に対しても自分のペースでしか動けず、何時も淳一郎から口煩く言われてやっと動く出すのんびりタイプの性格の子供である。
しかし淳一郎はそんな龍之介を見て、自分の子供の頃と余にも似て居て、何でこんな処まで似てしまうんだろうと半分呆れ、半分可愛らしくて複雑な心境になるのも事実である。
そんな子供達を相手にしながら夕方六時半になると部活を終えた、中学ニ年生の胡桃が帰って来る。
一番上の姉、花は地元の公立大学薬学部の学生の為、何だかんだで帰りは何時も遅い、そして出版社に勤めるライターの妻、桐子も仕事で帰りの時間は遅い為、何時も二人を除いた四人で夜の食事を始める。
しかし四人だけの食事だが早乙女家は毎日賑やかと言うか、騒がしいと言うか、とにかく皆、良く喋り良く食べる。これに長女の花が加わると、まるで何処かの体育会系の合宿所の食事時間を想わせる勢いである。
そんな食事中大きな声でみんなが話す中、胡桃が龍之介に訊ねた。
「龍之介、最近智也君と仲良く遣ってるの?」すると龍之介ではなく、桜が答える。
「あ、龍ちゃんねー智也君達と仲良くしてないよ。よく虐められてるみたいだし・・・」
「煩いな〜桜、余計な事言うなよ、チャンと遣ってるわ!」
「どうしたんだ、龍之介、お前虐められてるのか?何でそんな事になってるんだ。父さんに話してみろ」淳一郎のそんな言葉に少しウンザリしながら龍之介が話す。
「桜、何も知らないのに余計な事言うなよ。桜には関係ないだろうが〜」そんな龍之介の態度に反発する様に桜がダメを押した。
「桜、知ってるよ。龍ちゃんが琴美ちゃんと仲良くするから、智也君達がやきもちやいてるんだよねー、だって智也君は琴美ちゃんの事が好きなんだもん・・・」
その話を聞いた淳一郎は箸を止めたまま開いた口が塞がらなかった。そして「最近の子供はこんなにませてるのか・・・幾らなんでも小学生の中から、こんな話を当り前の様にするなんて・・・自分達の子供の頃とは大違いだ」と思ったが、ただその事に対して何をどう言ってイイのか判らず、二人の会話を黙って聞く事しか出来なかった。
だが確かにませてはいるが、それに対して遣ってる事はまだまだ子供ぽいと感じながら、少しホッとする淳一郎だった。
そしてその位の事でクラスメートと上手く言って無いのだったら何も言わず子供に任せようとも思った。
だがある日の夕方、桜が学校から独りで帰って来た。何時もは龍之介と二人で一緒に帰って来るのに如何したのかと思い、淳一郎は桜に聞いてみた。
「桜、龍之介は如何した。何故今日は一緒じゃないんだ。お前達、喧嘩でもしたのか・・・」「ううん、何時もと同じように龍ちゃんと二人で一緒に帰ろうとしていたら、智也君達に龍ちゃんが呼び止められて、桜待ってようかって龍ちゃんに聞いたら、先に帰ってろって、龍ちゃんが言ったから、でも桜は待ってるよって言ったんだけど、イイから先に帰ってろって龍ちゃんが怒るから、桜、龍ちゃんに言われる通り、先に帰って来たんだ・・・」
淳一郎は少し心配になり迎えに行こうかと思ったが、五分ばかりすると龍之介は帰って来た。「ただいま〜」元気が無い。玄関まで見に行ってみると、服はボロボロ顔には殴られた痕、淳一郎はその姿を見て少し間を置いて声を掛けた。「龍之介、遣ったのか・・・」と拳を作って殴る振りをした。龍之介は何も言わなかった。淳一郎はその様子を見て、何も問いただす事無く、ニッコリ笑って一言だけ
「早く着換えろ、それから手荒いとうがい!」と何時もの様に声を掛けた。
龍之介は返事をする事無く、トボトボと歩いて廊下の奥にある雑居所に行き手洗いとうがいを済ませると、汚れた服を脱ぎ新しい服を着ると、リビングに有るガラステーブルの前に座ると、何時もの様に宿題を始めた。
そんな龍之介の顔を見た桜が心配そうに龍之介の顔を見つめて居たが淳一郎は「ハイ,ハイ宿題、宿題!」と二人に声を掛けた。
二人は勉強を終えた後、自分達の部屋へ戻り何やらゴタゴタと話していたが、淳一郎は気にする事無く再び台所に立ち、晩御飯の支度を再開させていた。
「ねぇ、ねぇ龍ちゃんその疵、智也君達に遣られたの?もしそうなら明日先生に桜が言い付けてあげるよ」「馬鹿!余計な事言うなよ!関係ないだろうがお前には・・・」この後も似たような事を二人は色々と話していた様だが、結局桜は押し切られる様な形で龍之介の言う通り、何も先生には言わない事にしたのであった。そして晩御飯時になり、皆がテーブルの席に着いた。今日は珍しく桐子も仕事が早く終わり、花を除く五人での食事となった。
桐子は席に着くなり龍之介の顔を見て龍之介に声を掛ける。「如何したの、その顔は何が有ったの?龍ちゃん・・・」龍之介は相変わらず顔の傷の事に対して何も答えない。
その様子を見た桐子は淳一郎の顔を見て、顎を龍之介の方へ小さく振った。
淳一郎は何も言わずに唇を尖らせて見せた。その淳一郎の表情を見た桐子もそれ以上は何も言わず話題を変えた。
明くる日の朝、玄関前で何時もの様にバタバタと学校へ行く準備をしていると桜が龍之介に「龍ちゃん手袋はどうしたの?失くしたの?」と聞かれて龍之介は少し焦った感じで
「昨日学校に忘れて来ちゃったよ〜」と答えた。本当は昨日の喧嘩の時に智也君に取り上げられて何処かへ捨てられてしまったのであった。その二人のやり取りの様子を見ていた淳一郎は、自分の部屋へ行き押入れの奥に有った、段ボール箱から古い二本指の手編みの手袋を取り出して来て龍之介に向かって「これ使え!」と龍之介に渡した。
するとそれを見て居た桜が「凄い古い手袋だね。これ誰の?」と淳一郎に聞いた。すると淳一郎は「これ父さんが子供の頃、父さんのお母さんに編んで貰った手袋なんだ。暖かいぞ〜」と答えた。龍之介は少し照れながら「これ使ってイイの?父さんの大切な宝物じゃないの?・・・」と聞くと淳一郎は腰を落として龍之介の目線に自分の顔を合わせると頭を撫ぜながら話した。「いいんだよ、気にするな・・・」龍之介は何も言わず淳一郎を少し見詰めると大きな声で「行ってきますー」と言うと玄関を飛び出して行った。淳一郎はそんな姿を見て、優しく微笑んで学校へ行く子供達を見送った。
その後、淳一郎は何時もの様に炊事洗濯、そして掃除を終らせると自分の部屋へいくとパソコンの前に腰を下ろすと、仕事に取り掛かった。そして何時もの様に三時になり今晩の夕食の材料を買いにスーパーへと出かけた。
スーパーから家に帰り、夕食の準備に取り掛かり少し経ってから時計をふっと見た。
そろそろ龍之介と桜が帰って来る時間であった。淳一郎はもうこんな時間かとタメ息を一つついた処で、電話のベルが鳴った。
淳一郎は誰だろうと思いつつ、受話器を取り「ハイ、早乙女です」と答えた。相手は小学校の龍之介の担任の佐藤先生からの電話であったが、龍之介が智也君達と喧嘩をして智也君に怪我をさせたてしまったとの事で、淳一郎に迎えに来てほしいとの事である。淳一郎は急いで準備すると戸締りを済ませて、小学校へ向かった。小学校に就いた淳一郎は職員室に行き「早乙女ですが佐藤先生はいらっしゃいますか」と声を掛けて挨拶をすると、別の先生が「あ、御苦労さまです。こちらです!」と応接室へ案内された。すると其処には龍之介と佐藤先生が向かい合って座って居た。それを見た淳一郎は「どうも、何時も龍之介がお世話になっています」と挨拶をすると「あ、お父さんどうぞこちらへお掛け下さい」と促されて龍之介が座って居るソファーの横に腰を下ろした。
その後淳一郎は担任の佐藤先生に、かなりきつい口調で叱責を受ける事になる。「どんな理由が有るにしろ、人を傷つけるような事はしてはいけないと思います。御自宅の方でもきちんとお子さんに言い効かせて頂かないと困ります・・・」と喧嘩をした理由も智也君が怪我をした経緯も説明されずに、一方的に淳一郎は叱責を受けた。しかし少し間を置いて淳一郎は先生に冷静な口調で尋ねる。
「先生の言われる事は尤もです。それ故に先生に如何してもお聞きしたい事が有るのですが、それは何が原因で智也君と喧嘩になり、怪我をする様な事になったのか、詳しく説明して頂けませんか。それが判らなければ何をどのように話せばいいのか判りません」と言うと淳一郎は先生に視線を向けた。先生は少し考えると俯き加減で「それは・・・申し訳ありません・・・智也君が怪我をしているのを見て慌ててしまって・・・」と淳一郎に謝るのであった。そして淳一郎は「いえ、構いません結論を出すのはその理由を確認してからでも遅くは有りませんね」と冷静に答えるのであった。淳一郎は隣に座って居た龍之介に聞いた。「最初から順を追って話してみなさい」と言うと龍之介は少し間を置いて話しだした。その話によると龍之介と琴美ちゃんが遊んでいる処へ智也君が他の男の子二人と三人で遣って来て琴美ちゃんに嫌がらせをしたらしく、それを見て居た龍之介が止めに入った際、他の男の子二人と揉み合いになり、その相手の男の子が龍之介の胸を勢い良く押した為、その瞬間その勢いで龍之介は後ろに居た智也君にぶつかり、智也君はバランスを崩して倒れそうになり智也君は机にしがみ付こうとした時に机の角に顔をぶつけてしまい、アザが出来てしまったと言う事だった。
勿論その事は別の部屋で待機していた智也君にも確認をした処、間違いない事が判った。
先生は淳一郎に対し謝罪した。
だが淳一郎は先生に対して「私は全然気にしていません。誰にでも間違いは有ります。
問題はこの後どのように先生が子供達に接するかだと思います。学校内で起きた友達とのいざこざに対し、親があれこれと言うのは私は得策ではないと思います。出来る事なら子供達と先生とで一緒になって解決するべきだと思います。」と言うと淳一郎はその後、龍之介と先生に対し「私は表で待ってます・・・」と言い残し教室を後にした。
職員室の前では桜の担任の小林先生と一緒に桜が何やら話しながら龍之介が応接室から出て来るのを待っていた。
淳一郎が近くまで行くと桜の担任の小林先生が「御苦労さまです」と声を掛けて来た。淳一郎も小林先生に習い「御苦労さまです」と返した。すると小林先生は「終わりましたか・・・」と聞いて来た。淳一郎は「そろそろ終わると思います」と他人事の様に応えるのであった。その遣り取りを見て居た桜は心配そうに淳一郎の顔を見つめて居た。
そんな桜の心配を余所に淳一郎はボーと先生の顔を見つめて居た。淳一郎は応接室から一階の職員室への廊下を歩いている途中、何故か自分の気持ちの中を納得の行かないモヤモヤした感情が支配し動きが停止していた。
そこへ「父さん、帰ろう」と淳一郎に龍之介から声が掛かった。
その瞬間淳一郎の止まって居た時間が動き出した。「おう、龍之介もう終わったのか、先生とのお話は?」「うん、終わったよ。あ、桜待ってたの」「待ってたよ〜龍ちゃん遅いんだもん。桜さぁお腹ペコペコだよ〜」と二人は何時もの様に会話を交わした。すると淳一郎が「しまった!晩御飯作ってる途中だった。急いで帰んなきゃー、それに胡桃が帰って来てるよ誰も居ないから心配してるぞ〜きっと」と言った瞬間携帯のベルが鳴った。まさしく胡桃からの電話だった。「もしもし胡桃か・・・悪い悪い・・・龍之介の事で小学校へ来ててさ・・・これから帰るところなんだよ・・・判った。悪かったな・・・これから急いで帰るから・・・あ、それから悪いんだけどご飯炊いといて繰れると助かるんだけどな胡桃・・・サンキュー」と胡桃との何気ない会話の何かで何故か胸騒ぎを感じる淳一郎だが、その場は何も無かったかの様に話す淳一郎であった。帰り間際学校の門の前で智也君とお母さんの二人の姿が目に入った。
そして二人のやり取りに一瞬にして龍之介と桜と淳一郎は釘付けになる。それは「智也、あんまり迷惑かけないでよ。お母さん忙しいって何時も言ってるでしょう。こんな処で油売ってる暇なんか無いのよ、いい加減にしてよ」と言うと、いきなり智也君の後頭部を思いっきり引っ叩いた、するとその勢いで智也君は前のめりになって地面に勢い良く倒れ込んだ。智也君は地面に顔面を叩き付けられて鼻の頭の部分とオデコの部分に擦り傷を負った。そして外は夕方から降りだした雨のせいもあって水溜りになって居た為、智也君は上から下までずぶ濡れになってしまった。その後智也君は泣きながら立ちあがると「ママー」と泣きながら母親を呼んだ。
すると母親は振り向き様に智也君に近ずき「何メソメソ泣いてるのよ!ウザいんだよお前は!」と周りに響き渡るほど大きな声で智也君を怒鳴り付けた。そして今度は智也君の胸ぐらを掴むと、母親はまるでイライラした感情を智也君にぶつけるかの様に、後ろへ思い切り押し倒した。智也君は水溜りの中で尻もちをつき怯えながら下を向いて声を殺す様にして泣き出した。その様を見た淳一郎は思わず止めに入ろうとしたが淳一郎よりも先に龍之介が智也君の下に駆け寄り「智也君のお母さん智也君を虐めないで、智也君が可哀そう・・・」と小学生の小さな子供が大きな大人に勇気を振り絞って大声で訴えた。智也君の母親はフッと我に返ったのか、暗闇の中でバツが悪そうに俯きながら小さな声でゴメンと謝った。淳一郎にもその様子は目に入っていた。淳一郎も智也君の母親の姿を見て、自分も暴力こそ振るわないがイライラした時同じ心境になった事が有る事を思い出していた。龍之介は智也君の手を差しのべて立たしてやると、ポケットからハンカチを取り出し智也君の顔の傷にハンカチを当てて「大丈夫か・・・」と声を掛けた。すると智也君は「ありがとう・・・」と他にも何か言いたげだったが何も言わず、龍之介の顔をじっと見つめていた。龍之介は智也君の震えた手を見て自分の首に掛けてあった淳一郎から借りて居た二つ指の手袋を手に取ると智也君に手渡した。そして「貸してやるよ、でもこの手袋だけは返せよ、家の父さんが子供の頃婆ちゃんに編んで貰った大事な手袋だからな!」とニッコリと笑うと踵を返し淳一郎達の居る方へと足を向けた。そこへ智也君が龍之介に声を掛ける「龍之介、ありがとう!」その声を聞いた龍之介は振り返ると無言で拳を作り頑張れとポーズを智也君に送った。その全ての様子を見て居た淳一郎は智也君の母親に軽く頭を下げると龍之介と桜の方に手を掛け家路を歩き始めた。淳一郎は小雨の降りしきる帰り道の途中で優しく、真っ直ぐに育っている我が子達に心の中はホッとしていたのだが、この時既に家ではもう一つの問題が待ち受けて居たのである。
淳一郎達は家に帰ると洗面所で手荒いとうがいを済ませ台所へ行った。
そこには淳一郎の途中止めにしていた晩御飯の支度の続きをする桐子の姿が有った。
「お帰りなさい。疲れたでしょう」と桐子は淳一郎に声を掛ける。「いやぁ、大した事は無いよ。それよりすまない、途中止めにして出かけてしまって」「イイのよ、そんな事は元々は私が遣るべき事なんだから、そんな事より淳一郎後で大事な話が有るの・・・」とボソと只ならぬ雰囲気で桐子が言った。
淳一郎はその言葉の答えを直ぐに求めようとしたが、桐子の眼差しがそれを止めた。
淳一郎は嫌な予感がした。その後、食事が終わり子供達がそれぞれの部屋へと行った後、淳一郎はコーヒーを二つ入れてテーブルに着くと一つを向いに座る桐子に手渡し、問いかけた。「話って何!」桐子は一瞬間を置いて話しだした。「実は胡桃が学校で虐めに遭っているみたいなの、理由はまだ判らないんだけどかなり酷いみたいで、カバンの中を見せて貰ったら教科書からノートまで酷い落書きがしてあって、とても人前で広げられるモノではない程なの、誰に遣られたのって聞いても「判らない」としか言わなくて、私もどうしていいのか・・・・」一先ず淳一郎は桐子に胡桃と話がしたいから、此処へ連れて来るように言った。桐子は二階の胡桃の部屋へ胡桃を呼びに行き胡桃をリビングへと連れて来た。淳一郎は胡桃の顔を見ると優しく微笑み話し掛けた。「胡桃、大変みたいだな、でっ胡桃は今回の事をどう思って居るんだ」「どうって?」「自分で何とか頑張れば解決できそうなのか、それともどうしようもないと思っているのか」と聞くと小さく首を振ると「判らない・・・もう死にたいよ・・・」と小さな声で呟いた胡桃の顔は生気が抜けて、これがあの何時も明くるくて、笑顔の絶えない優しい胡桃の姿かと愕然とした。
そして淳一郎は余りの胡桃の心の闇が深い事に驚くのと同時に、まさかこの状況に耐えきれず本当に命を絶つような事をしないだろうかと不安になった。それと心底心配になるのと同時に、どうすれば虐めに対して怯えきって居る胡桃を救って遣る事が出来るだろうか悩んだ。その場は一先ず、胡桃には「明日から少しの間、学校を休みなさい」と言うと淳一郎は桐子に胡桃を自分の部屋へ連れて行って遣るように言った。桐子は心配そうに淳一郎の顔を眺めて胡桃を二階の部屋へとつれて行き「胡桃、父さんに任せてみようよ、きっと如何にかしてくれるよ。心配ないから・・・」と胡桃の頭を優しく撫ぜると部屋を後にした。
淳一郎は次の日、胡桃には内緒で中学校へと出向き胡桃の担任の小川先生に事の事情を説明した。また何か良い案は無い物かと尋ねた。すると担任の小川先生は予想外な言葉を発した。「私のクラスに限ってそのような事は有りません。私はもう十年以上も教師を遣ってますが自分の教え方に間違いが有るとは思いません。それに自分のクラスに、そんな虐めをする生徒が居るとも思えません。娘さんの勘違いでは無いのでしょうか、他の生徒からもそのような事は一切聞いておりませんし、悪戯に有りもしない事で騒ぎ立てては変に他の生徒達を刺激してしまう事になりかねません。完全にマイナス効果です。まぁ一応気を付けて見ては置きますが・・・」と人の話をまともに調べようともせず、事無かれ主義の呆れた怠慢教師だと淳一郎は感じた。
それと同時にこんな教師が担任をしているクラスの生徒達を可哀そうにと哀れんだ。
その日は一先ず淳一郎は自宅にそのまま帰る事にした。帰ると胡桃が心配そうに淳一郎の顔を見つめて来た。淳一郎は優しく微笑み胡桃の頭を撫ぜて話しかけた。「大丈夫だよ。心配するな、胡桃には何時も父さんと母さんが付いているから心配はいらないよ」淳一郎が優しく話す言葉を聞いて、胡桃は小さく頷いた。そして「私、明日から学校へ行くから・・」と小さな声で呟いた。そんな胡桃を見て淳一郎は小さく頷いた。
次の日から胡桃は学校へと通い始めた。
しかし虐めはいっこうに止む事無くそれどころかどんどん酷くなっていった。虐めはどんどんエスカレートし最早虐めを通り越し脅しへと変わっていた。
それは胡桃の心に間違いなく恐怖心を植え付ける内容のモノであった。それは机の中に鼠を刃物で刻んだ死骸を入れて、お前もこうして遣ろうか、お前は何時も見張られている。何時でも殺せる。と言った内容の脅迫文を新聞の文字を切り抜き作って鼠の死骸と一緒に添えてあったリ、下駄箱の中に残飯が山の様に入っていたりと、想像の出来ないものであった。
そして胡桃は家に帰って来ると毎日自分の部屋に籠って恐怖に怯えながら泣いて居た。
淳一郎は何度も無理とは判っていたが、学校へ相談に行ったが担任の小川先生は全く聞く耳を待たず、それどころか淳一郎に対し嫌気のさした顔で、どこか別の学校へ転校させたらどうですかと・・・」厄介者を追い払う様に言ってのけた。余りにも無責任な担任の一言に淳一郎は激怒し「ふざけるな!それでも教師か、何のためにお前らは存在して居るんだ、何のために義務教育が有るんだ。公務員のお前ら教師が生活して行く為に有るのか?勘違いしてるんじゃない!子供達の為に義務教育が存在するんだろうが・・・」と大声で叫んだ。それを聞いてか聞かずか担任は淳一郎を鼻で笑って席を後にした。
淳一郎は余りの衝撃に居ても経っても居られず、今回の敬意を教育委員会にも相談したが学校に確認して見ますと言ったきり何の返答も無かった。結局は教育委員会も学校側との持ちつ持たれつの怠慢組織にすぎない事を確認した。そして淳一郎はある日の事を思い出していた。この土地に越して来た時、車の車検を近所の自動車工場に出した時、其処の社長との世間話で「御子さんいらっしゃるの?」「ハイ、娘が三人と男の子が一人」「へ〜そりゃ今どき珍しい大家族ですね。大変だね・・・・余計な事を言う様ですが、娘さんをあそこの中学校へ行かすのは止めた方が良いですよ。生徒も荒れてるが、教師もどうしようもない人間達ばかりだから、うちも娘が居るんですが、中学へ上がる前に大通りを挟んだ、隣の学区へ引っ越したんですよ。昔からどうしようもない地域でね〜ここら周りは、家も最初は工場の上に住んで居たんですがね〜あんまり色んな話を聞くもんだから私もカミサンも不安になってしまい、態々住む所を隣の学区へ移したんですよ、ですが正解でしたよ。隣の中学に入学した後、案の定あそこの中学校、生徒の校内暴力や虐め、まぁそんなのは可愛い方でしたよ。教師による生徒への体罰があったり、極めつけは教師の未成年者への不純異性行為で警察に捕まる教師は出るはで、テレビや雑誌で取り上げられて酷い物でしたよ。あれを見て自分の娘をあのままあそこの中学校へ通わせていたらと思うとゾッとしましたよ。悪い事は言わないから本当に娘さんの事を想うなら、あそこの中学へ行かすのは止めといた方が良いですよ・・・」と忠告された事が頭をよぎって居た。
あの時はこんなに酷いとは想像もしていなかったが、あの社長の言う事は本当だったと後悔もしていた。
そんな中、淳一郎は一つの決断をする。
その日の夜、淳一郎は子供達四人を集めて話すのであった。「お前達、父さんから質問が有る。それは学校やその他の場所で虐められている者は居ないか?もしこの中に居たら必ず一人で悩まず、父さんや母さんに相談する事。それから無理に先生や友達に相談をする事は無い。まずは家族でその事について話し合う事にしよう。これを早乙女家のルールにする。いいな!」花が淳一郎の話しに何かを察知して話しかけた。「うちの家族の中に虐めに会って居る人が居るの?父さん・・・」少し間を置いて淳一郎は答えた。
「ああ、胡桃だ。しかもかなり酷い。担任の先生も学校も相談したが宛てにならない。
だからこそ、こういう問題は家族で解決しなければいけないと思い、父さんは皆にこれから大切な話をする」と淳一郎が話すと子供達は真剣な面持ちで何を話しだすのか気になっていた。そして、それぞれの顔を見合わせた。「これから言う事は必ず頭に入れておいてほしい事だから、真剣に聞く様に、それはまずは学校で虐めに宛てどうしようもない時は無理に学校へ行く必要は無い。但し父さんか母さんに必ず相談をする事、間違っても虐めを苦にして死のう等と考えるな、そんな下らない事で死ぬなんて馬鹿げてる。そしてそんな下らない学校へなんか行く必要は無い!」と強い口調で子供達に訴えかけた。子供達は少し驚いてはいたが早乙女家の新ルールに納得もしていた。
「だから胡桃は明日から学校へは行かなくてイイ。」「え、学校へ行かなくてイイって、勉強はどうすればいいの?」「勉強は何処に居ても出来る、父さんも色々考えたり、人から色んな話を聞いたりしたんだが、今の義務教育の勉強内容では、どの道高校受験の試験内容レベルには到底追いついていない事が判った。これは胡桃が通って居る塾の先生達の意見でもある。その事は胡桃も既に塾の先生から耳にしているとは思うが、父さんや母さんの頃とは違い、ゆとり教育などといって、無責任な政治家達の茶番ごとに義務教育がおもちゃにされて、日本の教育社会は大きな被害を受けた。その中でも一番の被害を被ったのは学校に通う生徒達だ。そして間違いなく教育レベルが色んな意味で下がっている。しかし高校受験問題のレベルはそのまま変わる事無く、いやぁ年々少しずつレベルアップして居るという矛盾した現状である事がわかった。そんな中で態々虐めに会いながら死にたいなんて考えながら、義務教育を受けに学校に通う必要は何処にもない。父さんはそう思う。勿論、学校を休んでばかり居れば高校受験に必要な内申点に影響が出るし、勉強以外にも学校生活の中で学ぶべき事が山ほどある。しかし虐めに耐えられず自殺して命を絶ってしまえば何のために学校へ行って居るのか判らない」と淳一郎が話すと胡桃が話した。「じゃぁ、どうすればいいの、勉強・・・」「一先ず勝手ながら父さんは胡桃の通う塾の先生にお願いして胡桃の塾の授業のコマ数を増やしてもらった。そして学校での事情を話し、胡桃の今後の方向性を相談したんだ。その結果、大検受験の方向性が望ましいとの見解を得た。それと同時にそのお手伝いをお願いしてきた。塾の先生は胡桃の成績なら十分可能だと喜んで引き受けてくれたよ。
それと塾の先生の言う事には、近頃は学校での虐めなどが原因で引きこもりになり、学校へ行く事が出来ず、一時は高校進学を諦めたが、その後、どうしても諦めきれず、塾に通い勉強をし直して翌年高校受験する子や、家の都合で高校へも行けずに勉強をしたくても出来ない人達が増えていて、それでも諦めず夜間制、通信制の高校を卒業して大学受験を目指す人も居れば、高校へ行けない為昼間は働き、夜は予備校へ通いながら勉強をして大学検定試験を突破し、そして大学合格を目指すという人も増えて来ているのが実情だそうだ。
だから今、父さんが胡桃に話して居る事が全く例の無い事では無く、全国にも大勢、色んな事情を抱え大検受験を利用し大学を目指す人が居ると言う事なんだ。だから父さんは胡桃にもこんな事に負ける事無く頑張ってほしいと思う。後は遣るか、遣らないかは胡桃次第だ!」
胡桃は淳一郎や塾の先生達の話を聞いて前向きな表情を見せた。そして2日後、胡桃は淳一郎に打ち明けるのだった。「私、頑張るよ。それと私も父さんに話を聞いた後、ネットで大検の事を調べたんだけど、大学検定試験は別に義務教育終了後なら何時でも受験する事が出来るみたいだから、中学卒業して三年間と言わず、二年間で合格して遣ろうと思ってる。その代わり合格したら、残りの大学受験までの一年間は好きなように使わせて、私なりの考えが有るの・・・」「考え・・・」淳一郎は一瞬何だろう考えとはと思ったが、とりあえず本人が今の苦境の中、前向きに自分のこれからの事を考えている姿を見て想う様にさせて遣ろうと思った。
それと同時に淳一郎は驚いていた。
三年掛けても難しいと思っている大学検定試験を前にし、娘の胡桃は二年で遣ると言ってのけた。それどころか残りの大学受験までの一年間を遣りたい事が有るから好きなように使わせてくれと言う、見上げたと言おうか、たまげたと言おうか、我が子だからと言って贔屓目で言うのでは無く、淳一郎が想っていた最近の子供達への印象を大きく覆す言葉であり、結果はどうであれ、これだけの事を言ってのけるだけでも最近の子供達もなかなか遣るもんだと感心するのであった。
そして翌日から早速胡桃は大検を目指して勉強を始めた。淳一郎も丸一日胡桃を監視して居る訳ではないので、胡桃がどの位の時間を一日の勉強時間に当てて居るのかは完全には把握しては居なかったが、おそらく一日十時間程度は勉強に当てて居るのだろうと思っていた。それは何故かと言うと、淳一郎が一日の生活の中で仕事をしている時間帯と同じ時間帯に胡桃も勉強をしているようだったからである。淳一郎は日中の6時間と夜中の二時から朝の6時頃までの4時間必ず執筆活動の時間に宛てているが、胡桃も同じように日中6時間と午前2時頃から起きて自分の部屋でゴソゴソと朝の朝食の時間まで勉強をしている様子が伺えたからである。
その他の時間は睡眠を取るのは勿論の事、食事の時間だったり、それと胡桃は淳一郎の影響もあって、本を読む事が凄く好きな子だったので本を読む時間に当てるといったサイクルで一日を送って居たようだった。
淳一郎はそんな胡桃を見守りながら、これだけ努力すれば、胡桃なら必ず目標を達成するだろうと思っていた。そんな生活が二か月程経ったある日の事早乙女家の電話が昼過ぎ位に鳴った。電話の相手は胡桃の中学校の教頭先生からだった。淳一郎は何だろう今更と、思いながら要件を聞いたが何やら電話では話せる内容では無いので時間帯はそちらの都合に合わせるので学校の方まで御足労願えないかと言う事だった。
淳一郎は今頃になって何の話だ。中学校の教員の話など正直どうでもイイと思っていた。それに胡桃は既に自分なりの道を選択し進みだしているのに余計な事で胡桃の気持ちを乱したくないと言うのが本音ではあったが、まるっきり無視する訳にも行かず淳一郎一人で学校へ出向いて行った。
中学校の正面入り口から中へ入ると直ぐ下駄箱が見えて来る。そこで靴を脱ぎ、来客用のスリッパに履き替えると直ぐの廊下を左に曲がり二つ目の部屋が職員室だ。まずは其処で入口の取っ手に手を掛け右に滑らし中へ入り「早乙女ですが本日教頭先生とお約束が有りまして・・・」と話すと近くに居た若い教員だと思われる女性の職員が慌てた素振で「あ、何時もお世話になっております」と答えたので淳一郎は女性職員にもう一度、教頭との約束が有る事を伝えた。するとその職員は席を立ち応接室へと淳一郎を案内し「直ぐに参りますのでお掛けになってしばらくお待ちください」と言うと踵を返し部屋を後にした。何やら案内してくれた女性職員の様子を見る限り、何か問題が起こったのかなと想像させる素振であったが、淳一郎は考えるのを辞め、久しぶりに入るこの応接室の中を見渡し、少しだけ懐かしさを感じたが、あの時の担任の小川とのやり取りが頭の中に浮かんで来ると、最近の教師の無責任さを感じさせられた嫌な思い出が蘇り淳一郎はげんなりとした。そこへ教頭が慌てて応接室へ入って来た。そしてハンカチで額の汗を拭きながら話しかけて来た。「今日はお忙しい中お時間を取ってお越し頂き誠にありがとうございます」と挨拶され淳一郎は面を喰らった。何故なら前回までと偉い、態度の違いようだからだ。しかし淳一郎は、此処で何か嫌な予感を感じずにはいられなかった。そしてその後、教頭が話した内容に淳一郎の心は何とも言えない失望感に苛まれ教頭の顔を睨みつけた。教頭は少し俯き加減で額の汗をハンカチで拭きながら「誠に如何もすみません」と繰り返し謝り続けた。そんな教頭の話した内容はこうだ。先ずは同じ学年の別のクラスの担任の矢澤と言う女子教員が胡桃に対しての虐めを遣って居たと言う事実だった。それどころか胡桃だけではなく、胡桃と同じクラスの生徒の半分以上に対して、無差別に同じ内容の事を遣って居たのだった。その内容はカバンの中に入っている教科書を刃物で切り裂いたり、誹謗中傷をする内容の事をノートに落書きしたり、下駄箱のロッカーに生ごみを入れたり、自宅に無言電話を掛けたりと普通じゃ考えられない内容では有ったが、もっと驚かされたのはその矢澤と言う教師は当初胡桃の担任であった小川と不倫関係にあった。しかし小川は矢澤との関係に飽き足らず、自分のクラスの生徒の母親とも肉体関係を持ちダブル不倫の状態を続けて居たのだった。それをある時、小川のクラスの生徒が廊下で噂して居るのをチッラっと聞いた矢澤は居ても立っても居られず小川の不倫相手を探ったが矢澤はどうしてもその相手を見つけ出す事が出来なかった。それもあって矢澤はどうにもこうにも小川の裏切り行為への怒りが収まらず、手当たり次第に小川のクラスの生徒を然も小川のクラスの誰かが遣ったように見せ掛けて、虐め行為を行って居たのだった。その話を聞いた淳一郎は呆れ果てて言葉が出なかった。しかも胡桃以外にも十数名の生徒が未だ虐めを恐れて登校拒否をしていると言うのだ、事件が発覚してからもう直ぐ三週間が過ぎようとしているらしいが、生徒たちへの説明と配慮は何もしておらず、それどころか小川は今回の一件を気が付かない振りをして、無かった事にしてしまおうと隠蔽を試みた様であった。しかしそれが逆にアダと成って今回の事件が発覚したのである。それは矢澤の陰湿な虐めの行いを発見したのは生徒だった。その生徒が見たままを小川に相談したが、その時の小川の態度が余りにも無関心な態度でお前の見間違いだろうと全く相手にして貰えなかった為、その生徒はその時クラスで虐めを理由に登校拒否しているクラスメイトの事が問題になって居た事もあり、しかも犯人が教師だった事を黙っている事が出来ず、両親に相談したのだった。それを聞いた両親は教師としてあるまじき行為と激怒し、学校では無く、直接教育委員会へ怒鳴り込んで行った。怒鳴り込まれた教育委員会の話を聞いた職員も話の内容に驚き学校側に事実かどうかを問いただした。すると話を聞いた教頭が矢澤を呼び出し問いただした処、今回の一件の一部始終が表ざたになったのであった。
しかし学校側は、事件の真相が世間にばれない様にどのように隠蔽すればイイかが先で、その他の対応をどうするモノか決めかねている状態だった。
しかし何時までも手を拱いて居る訳にも行かず、やっと重い腰を上げたのである。
そしてまず最初に何度も今回の件で学校側へ訴え続けて居た淳一郎を呼び出し、胡桃の登校拒否を辞めさせて、何とか学校に登校するように説得して貰えないかと言うお願い事だった。呆れた人間達である。自分達教師の不始末で起きた事件なのに自分達は何もする事無くお子さんの事は御両親にお任せします早く登校拒否を辞める様言ってください。まるで事の重大さから逃げるばかりで、誰かがどうにかしてくれるだろうと臭い物に蓋をしてそれで終わりと考えている様にしか見えなかった。その時淳一郎はこんな義務教育って本当に必要なのかと考えさせられるのであった。そして淳一郎は目の前に居る教頭を見てこの人達の教師としての常識とは何処に有るのだろう。一般常識とずいぶんと懸離れた処に有るのではないかと疑うのであった。
淳一郎は一先ず話を終え、学校を後にした帰りの道中で、今日の話の内容を胡桃に話すべきかどうか迷っていた。
家に帰ると胡桃が心配そうに淳一郎の顔を覗き込んで来た。「どうだった?何の話?私どうなるの?」「心配する事無いよ。父さんが何時も胡桃の横に就いててあげるから」
といって淳一郎はその場の話しを流し、夕食の準備に取り掛かるのであった。すると胡桃も淳一郎の横に立ち準備に追われる淳一郎の手伝いを何も言わず手伝い始めるのである。そんな胡桃を見た淳一郎は胡桃もちゃんと大人の階段を一歩一歩登って居るんだなと、少しホッとし胸を撫で下ろすのである。その日の夕食は珍しく家族全員がそろって居た。夕食の準備に時間が掛かり何時もより一時間ほど遅くなった事が理由でもあるが、久しぶりの一家団欒はやはり良い物だと淳一郎は感じていた。胡桃には夕食の準備をしながらでは有ったが今回の事件の真相を話して置いた。
流石に胡桃も話しの内容を聞いて驚いてはいたが、何となくホッともしている様子だった。そんな胡桃の様子に淳一郎は「何だ?」と聞くと、それは何故ならクラスメイト以外に犯人が居てくれた事だと教えてくれた。それに付け加えて、自分のクラスメイトの中にはそんな子は居ないと信じて居たんだとも言って居た。この話を聞くと担任の小川が自信満々に私のクラスに虐めをする生徒など居ないと豪語して居た事を思い出した。だが犯人が教師であり、その事件の発端は小川が引き起こした不倫に有る事を想うと淳一郎の心は複雑であった。その後の胡桃はクラスメイトからの誘いもあり登校拒否を辞めて学校へと以前の様に通い出したが、卒業後の進路に関しては迷っている様ではあったが、しかし塾のコマ数は減らす事無く、そのまま当初の予定通りに勉強を続けていく胡桃だった。





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