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作品名:華麗なる暗殺者達 作者:渋川

最終回   華麗なる暗殺者達 下

 ある雨の降る夜、大通り沿いを傘も差さず酒を飲んで良い気分で帰宅途中の男性が一人歩いて居た。かなり飲んだのか、足元はふら付き今にも倒れそうである。するとその男は大通りを渡ろうとしたのか、進行方向の向きを変えた。その瞬間、男は躓いた様に大通り目掛けて倒れ込んで行った。信号機は赤色が点灯して居た。見事に男は雨の降りしきる中車に轢かれ即死、警察は「お酒に酔って、謝って大通りに侵入し転び、走って来る車もいきなりの事で交しきれず、侵入して来た男を、引き殺してしまった」と言う事で納まった。年齢46歳、六人家族で妻と子供が4人の最近では珍しい、大家族である。只、この家族、幸せを絵に描いた家族とは程遠い家族で、無くなった亭主は毎晩のように酒を飲み、酔っぱらって帰って来ては、家族に対して殴る、蹴るの、暴力を振るい、大声で怒鳴り散らすと言った具合に、とても家族の手に負えず、近所の人の通報で、警察が駆けつけ止めに入る事は毎回の事だった。
そんな事もあって先祖代々住み続けて来たこの家は、回り近所から後ろ指を差され、とてもこの土地に止まる事が出来ない状態で住み慣れた家を手放さなければ成らなかった。
ちなみに亡くなった亭主は婿養子で結婚した当初は愛想も良く、良く働くと評判の亭主だったのだが、ある日突然、二十年以上勤めた会社が倒産し、職を失ってしまった。その後は就職活動をするが、なかなか40歳過ぎたオヤジを使ってくれる会社など無く、一家全員いきなり路頭に迷い掛けた時、そんな亭主を拾ってくれたのが今の会社であった。男は全く畑違いの営業の仕事では有ったが、毎日一生懸命に働き、何時も足が棒に成る位、客先を回った。毎日、毎日、来る日も来る日も、汗だくに成りながら御客に頭を下げて回った。だが思うような結果は出なかった。
一生懸命に遣れば遣るほど、御客からはソッポを向かれ会社からは、毎日小言を言われ、周りの社員も最初は「少しずつ遣れば良いよ」と優しい言葉を掛けてくれたが、入社から2年が過ぎようとした頃には、誰も優しい言葉どころか、口も効いて暮れない状況だった。その頃から男は家に帰ると荒れだした。男はまじめ過ぎて、八方塞に成り何を如何すれば良いのかも判らず、暗闇を一人彷徨って居た。もがき苦しみながら、歩いても、歩いても出口の見えてこない暗闇を一人歩き苦しんで居た。そんな亭主を見て妻は、何度も、何度も「会社辞めたら、もっと楽な仕事をすれば、自分に合った仕事を探せば良いじゃない」と問いかけたが、逆に、その優しさが裏目に成って男は止める事が出来なかった。
そして何時の間にか自分を見失って居た。
男は気が付くと、自分の中に、死んでしまいたいと思って居る、自分がいる事に気が付いた。そしてそれを妻に打ち明けた。「死んでしまいたいんだ。お前たちにもこれ以上迷惑を掛けたくない。悪いがそうさせてくれ」と言ったが、泣きながら妻は「お願いだから死なないで」と言いすがった。
男はそんな妻を振り切り、家を飛び出し自殺を試みるが、いざ死のうと思うと、自分で自らの命を絶つ事など出来ず、自殺する勇気も無い自分を蔑みながらも哀れに思った。
だがこのまま恥を晒しながら、生き続ける事も出来ず、自分で死ぬ事が出来ないならいっその事誰かに殺して貰おうと考え、そして今回の事件が起きたのだった。
事故現場の隅には花が供えられていた。
その横に手を合せながら静かに佇む淋しげな男が立って居た。雨の降りしきる中、ずぶ濡れになり供えられた花束を見つめているのである。その男こそが生まれ変わった崎森昭二であった。
    9

 歌舞伎町の繁華街の、ビルとビルの谷間の、細い路地を抜けた、日当たりの悪い場所に古びたマンションが有った。何も無くても、薄気味悪く、誰も住もうと思わない様なマンションだが、そこには女の死霊が住むと言う噂が有り、歌舞伎町という場所柄人の出入りは有るが入居しても女の死霊が出て怖くて直ぐに出て行ってしまう始末だった。
だが、そんなマンションにもう十年近く住んで居る男が居た。名前は水田浩之、年は三十五歳で、それ以上の詳しい事を知る人は居ない。浩之の部屋は9階建てのマンションの最上階に有り、ここだけ、夕方に成ると綺麗な夕日が見える部屋だった。残りの部屋は隣接するビルの為に日差しは殆ど当たらなかった。そんなマンションでの一人暮らしの浩之は、隣近所の人から変わり者で気味が悪いなど、ロクな言われ方はされていなかった。
何故なら浩之は特殊な能力が有り、死霊、生霊どちら供と話せ、姿も見える能力を持っていた。そんな浩之の彼女が十年前に歌舞伎町のチンピラの様な連中に乱暴されて、それを苦にして自殺した。自殺した当初は結婚しては居なかったが自殺した後、女は浩之を愛する気持ちが余りにも強く、あの世へ行けず、そのまま浩之の側から離れられずに浩之の住むこのマンションに住み着く様になった。
勿論、浩之は死んだ彼女に永遠の愛を誓い、死んでしまった彼女の霊と一緒に暮らす毎日をおくって居たのである。
そんな事とは知らない近所の人達は、時々二人で外食したり、出掛ける所を近所の人に見られていた為、あの人は相手も居ないのに見えない誰かと、然も誰かが居るかのように、話しながら歩いている処を見られ、気味悪がられていた。浩之は近所のそんな噂を知って居た。だが特に気にする事など無く、二人の生活を満喫するのであった。
また隣に住む住人は、夜に成ると、壁が薄いせいも有って、浩之が誰かと話す声が聞こえて、その後何とも色っぽい女の喘ぎ声が聞こえて来て、寝れない事もしばしば有ると言う。一人暮らしの浩之がホテトル嬢でも呼んで、朝までセックスしてるのだろうと、思われていた。隣の住人もまさか幽霊とセックスしてるとは思わず、又その声を聞かされて居るとは、予想もしていなかった。
どちらにしても浩之は、ロクな人間だとは思われなかった。浩之の死んでしまった彼女の名前だが、「木村鈴子」と言う。そんな鈴子だが、死ぬ前は細身で色白で華奢な体つきの、何とも言えない、色気漂う女だった。今は外見は変わらないのだが、やはり恨み辛みが募ったせいか、性格の方が死んでからはやたらと気が強く、自己主張したがる性格に変って居た。自分の存在が、生き人達には普通には見えない為も有ってか、自分の存在をやたらと人前に出したがる悪い癖が有った。
そのせいで、マンションを出入りする人達の前をス―と横切ったり、エレベーターの中の鏡に映ってみたりと、本人は脅かすつもりは無いのだが、見た人は慌てて逃げて行ってしまうとゆう事が続いて居た。
そのせいも有ってか、入居者の入れ替わりが多かった。浩之は鈴子に対して、「あんまり脅かすなよ」と言うのだが鈴子は新しく入居した人に挨拶するのが何故悪いのと、自分が死んでいる事を、完全に忘れている時があり、浩之もマンションの住民に説明する事も出来ず、困り果てる事もしばしばだった。
ある日の夕方、浩之は何時もの場所へ向ってトボトボと、大きなリュック背負い歩いて居た。そして、何時もの場所に付くと、折りたたみの机と椅子をリュックから取り出すと、挫虚ビルの軒下に並べて、仕事の準備に取り掛かった。浩之の仕事は占い師で、歌舞伎町界隈では良く当たると評判だった。
そのせいも有って色んな人の悩みを聞くのだが、その度にその人の後ろに張り付いて居る、霊に脅かされたり、泣きつかれたり、勿論、浩之の隣には必ず鈴子が居るのだが、鈴子を気に入って、口説いて来る霊が居たり、さらって行こうとする、達の悪い霊も居たりで、退屈する事は無かった。
そんな有る夜、「おい、兄ちゃん、ちょっと占ってくれよ、金が儲かり過ぎて困ってるんだがな、何時まで続くんだろうか」と偉そうに態々自慢しに浩之に聴いて来るヤクザ者ではなく、金貸しでもなし、サラリーマンにも見えない、ただ、背中にベッタリと、悲しそうな眼をした、女の霊が引っ付いていて、またその横に、キツネ目の悪行三昧を尽くして来たという顔の男の霊が横に立ているのが、印象的な御客だった。
浩之は、答えた「貴方少し商売を休んだ方が、良いかもしれませんね。どんな商売かは私は知りませんが、もう少し大人しくされた方が良いでしょう」と答えた。すると男は、「お前、俺様に命令するのか、いい度胸してるじゃないか。えーここで商売出来なくして遣ろうか」と浩之の襟首を掴むと浩之を引きずり上げた。そして、その男の横ではキツネ目の男の霊がニヤリと笑って居た。その時、鈴子は男の手を取ると、軽く押し返した。
すると男は勢い良く後ろへ吹き飛び、後頭部を強く撃ち一瞬記憶を飛ばした。
少し時間が経つと男は「あれ、俺は何してるんだ、お前今、俺に何をした。」ともう一度、浩之に掴みかかろうとした瞬間、男の体は膠着し、体全体を寒気が遅い、ぶるぶると震えだし頭の芯から頭痛が襲い、立って居るのがやっとの状態に成り、しゃがみ込んだ。
浩之は男に、「どうしました」とニヤリと笑い尋ねるが、只震えて何も喋りもしない状態に成って居た。その男の隣で、キツネ目の男が、こちらを睨みつけながら何やらブツブツと呟いていた。そして浩之が男の背後に目を遣った時、悲しい目をした女の霊が浩之と鈴子二人に、申し訳なさそうな目で訴えて居た。その女の仕業だった。そして、その女から伝わって来る事には、この男、会社の金を使い込み悠々自適に生活を送り、罪の意識の欠片すらなく、その金で、飲む、打つ、買う、のやりたい放題を繰り返していて、そして横領した金で、周りの人達の顔を札束で、張倒す様な振る舞いで、人から恨まれる事の繰り返しを続ける始末であった。
その悪行を見るに見かねて、半年前に死んだ、母親の霊が息子の背中にしがみ付いて、成仏できずに居たのである。そして浩之に対し、母親の霊が、何とか息子の悪行を辞めさして欲しいと訴えるのであった。
浩之は男の体を抱える様にして、一旦、キツネ目の男の霊を睨みつけ、何やら御呪いを独り言の様に呟き、キツネ目の男の霊を追い払い、男に「歩けますか」と尋ねると、男の体から手を離した。すると男は、浩之の机が置いてあった場所から5メイトル程の所に有る、石畳の階段目掛けてオロオロと歩きだした。そして男は石畳の階段目掛けてゆっくりと歩き出し、石畳の階段から足を踏み外した。
まるで何かに導かれる様に、その後、階段の下まで転げ落ちた男の後頭部から、真っ赤な血が流れ出し、血生臭い匂いが男の周りを覆い尽くした。そして道行く人の足元には真っ赤な血が広がった。心配そうに見守る人々や、悲鳴を上げる人も居た。直ぐに警察官が駆け付けると、事の次第を見て居た通行人から話を聞き、どうも階段から足を踏み外し、転げ落ち、強く後頭部を強打した、との見方をした。浩之は何食わぬ顔で、椅子に座り、次の客が来るのを待つのであった。
そして先程まで、男の背中に着いて居た母親の霊が、浩之の方を優しい顔で眺めると、何処かへ消えて行くのが判った。
そんな夜から一週間程経ったある日の事、浩之の所へ一本の電話が入った。
相手はふじ商会の卓からだった。浩之は一つ、二つ頷くと電話を切った。
明くる日、速達で大きな封筒が浩之宛てに届くと、その中には女の写真と札束が二束入って居た。
浩之は写真を取り出すと、自分の長財布に入れた。夕方近くに成ると何時もの様に仕事に行く準備を始めだし、出掛ける前に軽い食事を鈴子と二人で取り日が暮れるのを御茶を飲みながら待つのであった。
すると鈴子は先に席を立つと部屋を出て行った。鈴子が向かった先は浩之に送られてきた写真の女の所だった。
吉田由美クラブ由美のママで、霊感商法で、かなり多くの人を騙し儲けている女詐欺師である。自分の店に来る客から悩み話を聞くと自分の息のかかった探偵に調べさせその調べさせた内容を然も今占って判ったかのように話しかけ相手の客を信じさせる、良くある初歩的なインチキ占い師の手口である。しかし何も知らない客は、殆どの客はこれにコロッと騙されるのである。
初めはタダで占ってやり客の身の回りの事を、然も言い当てる振りをして話し、客を信じ込ませると何だかんだと客の心が不安に成るような話をし、今にもバレそうな心境に仕向けるのである。
例えば家族構成だとか、勤め先、そして浮気でもして女でも居ようものなら、然も占いで判ったかの様に見せ掛け、「御客さん気を付けた方が良いですよ。奥さん少しずつ、感付いて居ますよ」と男に注意を促し、そして少し日にちが経ったら、奥さんに偽名で連絡を取ってバラし、あたかも自分の占いが当ったかのように見せ掛ける。自作自演の筋書きで客を騙し、次々と同じ手口で自分を信じ込ませて行く。普通の詐欺師と違う処は、最後の最後まで、金の話はしない、客からの礼金も、いくら払わせてくれと言われても、受け取らなかった。
自分に対しての疑いが完全に無くなり、信じ込ませてから最期に大きな落とし穴に嵌めて、大金を騙し取る手口で有る。
最期はお客は自分の事を完全に信じ込んで居る為、何の躊躇いもなく金を払って地獄へ落ちて行くのであった。被害に有って居る事すら分からないままに、だから警察に訴えられる事など無く、堂々と悪事を働き私腹を肥やし贅沢の限りを尽くし生活して居た。
そこへ鈴子が現れるのである。由美は何時もの様に店のソファーで他の客が居る前で堂々と客を占って居た。
すると由美は自分の後ろに、何時もは感じた事の無い、冷たい淋しい殺気を帯びた人の気配を感じた。だが気にせず占って居ると、由美一人にしか聞こえない様な小さな声で、誰かが呟くのである。「死ねーよくも騙したな〜直ぐに地獄へ送って遣る〜」と美鈴が男の声で由美に呟いたのだった。由美は体全体に寒気を感じ震え上った。
由美のブルブル震える様を見た客は、「ママ、どうかしたの?」と由美に尋ねた。
今までにこんな事は一度も無かった為、由美は一先ず、御客に「今日はここまでにして下さい」と理由も言わず、その場で占いを辞めた。占って貰って居る最中に起こった由美の不自然な出来事に御客は、自分の身に何か起きるのではないかと心配したが、由美は「大丈夫、御客さんには全く関係有りませんから」と言うと、閉店時間では無かったが店に居た客を全て帰らせると営業も中途半端にし早仕舞した。
そして次の日も、次の日も、耳元で呟く男の声が聞こえた。由美は男の声に気が狂って我を忘れてしまう程脅され続けた。
由美はここ一週間程まともに店の営業が出来ない状態だった。そして最後には完全に頭がおかしくなり、夜な夜な、うわ言のように何かを呟きながら、歌舞伎町の街をウロウロと徘徊する様になっていた。
そんなある日の事、由美はウロウロと歩きながら、浩之のもとを訪れる。そして浩之の前に立つと震えながら「怖い、誰かが私に話しかけるの、死ね〜死ね〜と、私も言う通りにしたいんだけど、どうすれば死ねるかしら・・・」ともう既に正気ではなくなり、廃人と化していた。浩之は由美の肩を優しく抱き、「もう大丈夫ですよ」と小さな声で話し掛けると、背中を優しくポンと一つ叩いた。すると由美はスーと振り向くと、ネオン輝く歌舞伎町の街の中へ、トボトボと歩きながら消えて行った。その明くる日の朝、由美は自分の店の有る、マンションの屋上から転落し死亡して居るのが発見された。警察は自殺の線で調べていたが、遺書も見つからなかった事から、由美の周囲の人から話を聞いていたが直接自殺に繋がる様な話は聞けなかったが、最近、何かに取りつかれた様にボーとすることが多く、何かに悩むと言うより、何かにとり付かれた感じだった。との証言を何人かの人から聞くのであった。
そして他の誰かと争った形跡も無く、不審者の目撃報告も無い事から、自殺と判断した。そしてこの後、警察が由美の身辺調査を続けた結果、次から次へと霊感商法で多くの被害に遭っている人たちの居る事が明るみに出てくるのであった。

      10
 真夜中、美希は、ふと目が覚める。喉が渇き冷蔵庫の扉をあけるが、水分らしき物は無く、水道の生温い水を飲むのも気が引けて、コンビニへ歩いて買い物に行った夜の事だった。真夜中と言えども、此処は新宿歌舞伎町、真昼の様に輝くネヲンに目を細めながら歩いた。コンビニで水と明日の朝の朝食用のパンと牛乳を買うと、家に向かって歩き出す。
すると、ふっと背中に冷たい視線を感じると半分寝ぼけながら歩いて居た美希を只ならぬ殺気が襲い瞬時に覚醒する。
美希は相手に気が付かれないように自分の気配を消す様に歩いた。何者だろうと考えながら、家までの道のりをゆっくりと歩くと、
自宅マンションに着いた美希はエレベーターの昇降ボタンを押した。エレベーターのドアが開く、美希は緊張した。
このタイミングでエレベーターに一緒に乗り込んで来たらどうしよう。と一瞬背中に冷や汗を掻いたが、その場は何事も無く家に辿り着く事が出来た。
美希は部屋に入るとひとまず鍵を掛けチェーンも一緒に掛けた。その時美希は嫌な予感がしていた。あの時、背中に感じたドロドロとへばり付いて来る殺気は、今迄に感じた事の無い物だった。明くる朝美希はふじ商会に顔を出した。その時卓に呼ばれて事務所に入ると、卓が美希に「お前、昨日付けられなかったか・・・」と聞かれて、美希は「付けられた、昨日の夜中コンビニへ買い物に行った時、嫌な殺気を感じて、付けられて居る事に気が付いたけど、気が付かない振りをしてそのまま歩いて帰ったけど、昨日は何事も無く付けて来ただけだったよ。
でもあれは何時か狙って来るね」と卓に応えた。卓は美希にこう話した。「その通り、そいつ等は俺達と同じ同業者だ。だが、そいつ等を雇った奴が居る。どう言うつもりで、このふじ商会を付け狙うのかは知らないが、しかしいい度胸してるよ。久しぶりにこの俺を遣る気にしてくれたよ。
だが、美希は初めてだろうから、用心しておけよ」と言うと卓はうすら笑いを浮かべた。美希も何故か目を細めて笑いを浮かべた。
すると其処へ昭二と浩之がやって来た。
二人は卓の顔を見るや否や、浩之が話す「久しぶりにバカが喧嘩を売って来たね。今度のバカは何処のどいつなんだい。
二日ほど前から、家のマンションにへばり付いてるよ、今も店の外で俺達の出て来るのを待って居るんじゃないか、まだこの新宿歌舞伎町にも命知らずの馬鹿な輩が居るんだね〜」すると卓が薄ら笑いを浮かべながら言う「フッ、そうなんだよ、まだ居る様なんだよ、命知らずの大馬鹿野郎がね。まぁ周さんが今探ってるから少し時間をくれ、今日中には判るだろうから」昭二が「卓さん、相手が仕掛けて来たら、悪いが容赦なく遣っちゃうからね。イイよね、何なら表で待ってる奴等に教えて来ようか・・・」「まぁ待てよ昭二気持ちは分かるが、遣るのは何時でも遣れる、焦るなよ。まずは依頼人を調べてからで良い、どの道依頼人にも、あの世へ行って貰わなければ逝けないからな〜」と卓が皆を征した。少し経って電話が鳴った。秀二が電話を取った。「社長電話です」その電話は周さんからだった。勿論、今話していた件の事である。周さんの調べでは相手は、CSプロダクションの社長で木村孝司、若くして今の芸能プロダクションを立ち上げ、その会社を飛ぶ鳥を落とす勢いで、急成長させた事で新宿歌舞伎町界隈では有名な話しだった。勿論、木村の夜の歌舞伎町でも凄い遊びぷっりは有名で、毎晩のように、一本何十万もするシャンパンが、何本も抜かれ、歌舞伎町のキングとまで言われるほどだった。しかし、裏では自分の事務所でスカウトした女の子を、デビューさせて遣るからと言いながら、自分の経営する風俗店で働かせたり、AVを無理やり撮らせて、後は街中にばら撒くぞと脅し、事務所のイイ成りにし、吸い取れるだけ吸い取って使い切ったら、人身売買で東南アジアへ売り飛ばす。最低最悪な悪人である。だが、誰も怖くて逆らう者は居なかった。逆らおうものなら、即、次の日には町のごみ箱の脇に生ごみと一緒に捨てられる事に成るのを皆、知って居たからである。しかし何故、木村孝司はふじ商会に対してこの様な真似をするのか、不思議であったが、どうやら新宿歌舞伎町のドンは自分だと思い込んでいる木村孝司の勢力は、暗黒の世界のふじ商会という存在を知り、対抗心を燃やし何を血迷ったか、ふじ商会に取って代わって自分がこの新宿歌舞伎町の本当のドンに成ろうと考えての事だった。卓は周さんからの電話の内容を皆に全部話した。すると昭二と美希が店を出た。その後、ニ、三分経つか、経たないか位の事である。店の外で人だかりが出来て居た。そこには、無精髭を生やした、厳つい男が路上に泡を食って倒れて居た。特に目立った外傷は無い様だが、間違いなく美希の仕事である。そして、大通りでは、交通事故で若い男が車に跳ねられ即死していた。これも昭二の仕事だった。
どうやって殺したのかは誰にも判らない。
只、一つ言える事は、木村孝司への宣戦布告であるのと同時に、お前の命など直ぐにでも獲る事が出来ると言うアピールでも有った。勿論この時、木村孝司はとんでもない組織にケンカを売ってしまった事を知る余地も無かった。

   十一

 マンションに帰った、浩之は美鈴と二人でまずはコーヒーを飲みながら話した。
そして二人は、一階入り口付近で、待って居てくれる御同業の方に簡単なご挨拶をしておく事にした。入口には40過ぎのホームレスに化けた男が、電柱の陰から浩之の動きを伺って居た。すると其処へ、美鈴が男に微笑みながら通り過ぎた。男は余りの美しさに、目を奪われ振り向いた。すると其処には美鈴の姿は無く男は首を傾げて自分の目を疑った。確かに今し方通り抜けた美人が居たはず、何故、その時、男の首筋を冷たい一筋の汗が流れた。「まさか、いや、そんな事が有る訳が無い」右左、左右に首を振りながら、「いやぁー無い無い、あり得ない」と自分に言い聞かせた。
すると、後ろから「怨め死や〜」と小さく耳元で誰かが囁いた。男は小さく震えながらこのマンションの噂話を思い出すのであった。そして居ても立っても居られなくなり、一先ずその場を立ち去るのであった。
その様子をビルの陰から見ていた浩之と美鈴は、笑いながら自分達の部屋へ引き返した。
その頃、木村孝司は立て続けに自分の送りだした刺客達が遣られて帰って来る様を見て怒りと、ドロドロとした憎悪が込み上げて来るのであった。
「こうなったら、町のガラクタ達とは一味違う刺客を送って遣るぞ」と怒り奮闘でふじ商会の抹殺を心に誓うのであった。

    十二
「プルルループルルループルルルー、ハイハイハイとくりゃ〜、モシモシふじ商会です。」「フゥ、久しぶりだな〜ドラゴン・・・」
「その声は・・・スネーク・・・」
「悪いが死んでもらうぜ!」
「なに!・・・・」
店内の何処からか、卓の耳に秒針の小さな音が聞こえた。その瞬間店内で大きな爆発音と共に火柱が入口から店先へ噴出した。
ふじ商会は爆発と共に火の海と化した。
そこへ用事で外に出ていた秀二が帰って来たが燃え盛る店を見て慌てて店内へ飛び込んでいった。「卓さん、何処だよ〜居るのか〜・・・」「秀二・・・此処だ・・・」
と微かな卓の声が聞こえて炎の中を駆け寄った。そこには卓の横たわる姿が有った。「どうしたんだ。卓さん、誰に遣られたんだ。」
「気を付けろ・・・スネークだ!」と言うと意識を失った。救急車が到着し、卓は病院へと運ばれた。秀二は浩之に連絡を取った。
「秀二、皆を集めてくれ!」浩之のマンションに皆が集まった。美希も昭二も秀二、それに周さんまでもが、そして秀二の話を聞いた周さんが付け加える様に話しだした。
「スネークとは卓さんが昔、中東で傭兵を遣っていた頃のチームメイトだった男だ。」
「だったってどういう事よ!周さん、もっと判り易く説明してよ。それじゃ良く判らないよ」と美希が聞き直すと周は「スネークは有る重要なミッションの時中で仲間を裏切り、
敵に寝返った男らしい。勿論そのせいで仲間は死に卓さん一人だけが生き残ったらしい、そして仲間を失ったショックから卓さんは傭兵を辞め日本に帰って来たと、前に卓さん本人から聞いた事が有る。
すると昭二が「アイツだ!こないだ新宿コマの前を通り掛かった時、やたら我体が良くて殺気がプンプンする奴が前から歩いて来て、すれ違い際に鼻で笑った奴が居た。俺は直ぐに振り返ったがそいつの姿は何処にも無く、何て素早い奴だと感じたのを覚えている。恐らく俺だけじゃなくお前らの事も全て探っている筈だ。もしスネークって奴がアイツなら手強いよ・・・」「でも何で俺達を狙うんだ卓さんを狙うのならまだ何か有るのかとは思えるが・・・・」と秀二が言うと周さんが「木村だ、アイツが雇ったんだよ。アイツしか居ない。俺たちに矢を向けるのは・・・」
「そうと判ればこうしちゃ居られない」と美希が部屋を出ようとしたが、周さんが止めた「待て!慎重に動くんだ。感情のままに動けば直ぐに遣れちまうぞ!今迄の相手の様には行かないんだ。ひとまず俺がもっと情報を集めるから、皆は大人しく待って居てくれ!
な〜に、そんな長くは待たせないよ・・・」と話す周の目には怒りの炎が漲っていた。
二日後、周からの連絡が入り浩之のマンションに皆が集まった。「調べてみるとスネークは本名桐山剛四十三歳独身高校卒業と同時に自衛隊に入隊したが、八年後上官と討論になり自衛隊を辞め単身でその頃、戦争の真っただ中だった中東へ行き、どんなコネを使ったかは判らないが傭兵部隊に入隊し戦場に送りこまれた。
そして戦場で何人もの人を殺し、戦場の戦火の中を生き抜いた。だが桐山には人間性に問題が有り、まぁとにかく幾ら人の生き死にが掛かっていようと、自分の思う様に成らなければ直ぐに投げ出してしまうどうしようもない人間だったそうだ。
それで前にも話したが、重要な任務の途中で有ったにも拘らず、チームを裏切り敵に寝返り多くの仲間を死に追い遣った。
そんな人間だが腕の方はピカイチで、狙った獲物は絶対に逃がさない。蛇の様にしつこく付きまとい丸呑みする様に複数の敵をイッキにあの世へ送ってしまう事からスネークと呼ばれているそうだ。とにかく油断のならない相手である事は事実だ。それから思ったとうり木村が裏で糸を引いて居た」
昭二が訪ねた。「スネークの身の上話はその位でイイや、興味ない、居場所だけ教えてくれればいいや」「それが判らない、いくら探してもシッポが掴めない。如何したものか」
「簡単だよ!」「何かイイ手は有るのかよ、浩之」「秀二、お前鈍いな〜スネークは俺達を狙って居るんだろが、って事は黙って居ても剥こうから、やって来るって事だよ」
「そう言う事か俺達が餌ってワケね。フ〜ン・・・」
深夜2時美希はコンビニへと朝食に食べるパンを買いに出かけた。買い物を済ませてコンビニを出た時、スーと後ろに人の気配をかんじる。すると美希の背中に冷たい金属が当たり「そのまま歩いて貰おうか。嫌ならこの場で死んで貰うが、どっちが良いかな〜お嬢さん・・・」何も言わずに美希は言うとおりに真直ぐ歩いた。「スネークだね。フゥスネークだなんて大層な名前で呼ばれて居る割には女を後ろから狙うとはそこいらの通り魔と一緒だね」「何とでも言ってくれ、これが俺のやり方だ」と喋った瞬間美希の体がスネークの腕を掴み爪の先でスネークの腕を掻き毟った。そして一瞬にしてスネークと自分との間に二メートル余りの距離を作った。するとスネークは「お嬢さん悪いがこの程度の毒では俺の命は奪えないよ。フゥ!俺の体は長い間の傭兵生活でこういう猛毒と言われる薬に対しての免疫が出来ていて痛くも痒くもないんだ。教えといて遣ればよかったな〜」
「じゃぁーこれならどうだ〜」と周がスネークにいきなり何処から現れたのか判らないが周囲の通行人に気が付かれない様に素早い動きで短刀を振り翳し襲いかかった。
「お前が隠れて居る事など最初から判って居たよ!なんならもう一匹隠れている其処の臆病者も一緒に掛かって来てもいいんだぞ」と言うと人影から昭二がドスを持って周と一緒に襲い掛かるが、なかなかすばしっこいスネークを仕留める事が出来ない「三人纏めて掛かって来たらどうだ!退屈でしょうがないよ」と余裕の口ぶりで話した瞬間、スネークの動きがピッタと止まり少し俯き加減で呟いた「やっぱり現れやがったな〜ドラゴン・・・」この時卓はスネークを既に仕留めて居た。長くて細い針の様な物が背中からスネークの心臓目掛けて刺さっていた。
「スネークこの俺が遣られっ放しで居るとでも思ったか、飛んで火に居る何とかって奴だよお前は、それに俺はずっと前から、お前の間合い居たんだけどな〜気付かなかったか〜まァ仕方ないだろうがな、美希がお前に付けた傷から滲み込んだ薬は猛毒何かじゃなくて、美希が調合した人の五感を鈍らせる薬さ、それによって体の動きは普通に動くが、視界に入らない人の気配を感じる感覚が鈍くなって居たんだよ。だからお前の後ろに居る、俺の気配に気が付かなかった。代替お前の免疫の事を俺が知らないとでも思って居たのか、そんな免疫は傭兵なら誰にでもある程度は有る事だよ。まだまだ甘いな〜スネーク、相変わらず俺の適では無いみたいだな〜先にあの世へ行って待ってな如何様野郎、あの世でまた遊んでやるよ。あばよ・・・」と言うと卓はスネークの体から離れた。
その後スネークは間を置いて道の真ん中に倒れた。
それを見た、道行く人達がスネークの周りに集まり、「どうしたんだこの人、ピクリともしないぜ・・・・」
残りは木村孝司ただ一人である。

     十三

新宿歌舞伎町のある日の夜中の事である。
木村孝司は何時もの様に新宿歌舞伎町で飲み明かし、そろそろ帰ろうとした時の事である。
店の出入り口を出てエレベーターに乗って1階のボタンを押した時、次の階で扉が開いて、男が一人乗ってきた。
男は礼儀正しく、「今晩は」と挨拶をした。だが木村は何だコイツはと言わんばかりに睨みつけると、ソッポを向いた。
その時二人しか居無い筈のエレベーターの中で、もう一人の人の気配を感じ振り向いた。勿論、誰も居ない。やがてエレベーターは一階に着き、エレベーターのドアが開き表へ出ると驚いた。
新宿歌舞伎町に居るはずなのに、そこは初めて見る街並みで、それどころか随分と古びた感じで、町全体がタイムスリップしたかのような印象だった。そして目を凝らして何度も、何度も街の様子を見て見るが何故か、街を行く人たちの着て居る服装から、走っている車、店の看板までもが昭和の雰囲気で自分の目を疑った。それと一緒にエレベーターから降りた筈の男の姿は何処にも無く、木村は一人でポツンと立っていた。「どう言う事だ、これはまるで違う国へ来たみたいじゃないか、おかしい、そんなバカなこと有る筈がない。これは夢だ。夢を見てるんだ」と言いながら自分のほっぺたを一発、ニ発と叩いてみるが、いっこうに目が覚めて景色が変わるでもなく、それどころか、「オイオイ邪魔だぞ、何ボーと立ってるんだ。邪魔だ、どけ」と怒鳴られて、確かに自分はこの世界に今現在、存在して居る事を実感させられるのである。
そして知らない世界の夜の街を不安げに歩いて居ると、「オイ、兄さん、何処から来たんだい。見かけない顔だな、着てる服も、こ洒落てて、なかなかイイ線行ってるじゃないか」と声を掛けて来る男が居た。良く見るとその男は、自分の若かりし頃にそっくりで、余りにも似てるので自分の目を疑った。
そして木村は「アンタこそ誰だい」と聞き返した。「あ、こりゃ失礼したね、俺の名は木村孝司って言うんだ。このあたりじゃ知らない奴は居ないよ。ヨロシクな」とあっけらかんと答えるのであった。
木村は驚いた、そして自分の分身の様な奴を目の前にして考えた。「どうなってるんだ。タイムスリップしたにしてもおかしいし、どう見てもこの景色は、昭和の時代にしか見えない。しかもテレビや雑誌でしか見た事の無い街の雰囲気、これは三十年代から四十年代初めの街の雰囲気だ、しかしこの時代には、まだ俺は生まれて居ないはず、だから普通にタイムスリップした訳では無い、じゃ何なんだこの目の前の景色、そして、この木村孝司と言う男は一体誰だ、何処だ、判らない。
木村の頭の中は混乱していた。その時、木村は誘われた。「よぉ兄さん、俺の知ってる店があるんだけど、一杯飲みに行かないか」と木村孝司が声を掛ける。取り合えず、自分自身に誘われて変な気分では有ったが、「ああ、いいよ」と答えた。木村はどんな店に連れてかれるのか、少し不安では有ったが、五分位歩いた所で木村孝司が立ち止まり、「此処だよ」と中へ案内された。
店内は如何にもと言わんばかりの、妖しい雰囲気で、赤い裸電球が二か所位ぶら下がり、店の中は今にも、幽霊でも出て来そうな雰囲気であった。すると其処へ現われたのは、色白で細めの何とも言えない色気漂う女が、「何飲む、御兄さん」と聞いてきた。木村は余りの美しさに翻弄されて照れながら、「あ、ビールでいいよ」と答える木村は、何処か緊張して居る処を女に悟られ、「御兄さん何処から来たの、この辺じゃ見ない顔だね〜」と少し冗談交じりに冷やかされる「そうだろ、中々粋なカッコしてるだろう?其処で見かけたんで、ツイツイ声掛けちまったよ」「そうかい、ありがとうよ、こんな色男連れて来てくれて、久しぶりに身体が熱ってきたよ。たまには、私も楽しませて貰うよ」「どうぞ、ごゆっくり」と言うと木村孝司は店を出て行った。女は「御兄さん、奥へ行こうか」と誘う、木村は気が付く、売春宿だと、だが、木村は拒む事無く誘われるがまま奥の部屋へと入って行った。そこは赤い煎餅布団が一枚魅かれた粗末な部屋だった。小さな明かりが一つ点いて居て、その薄暗い明りが一層女の色気を惹き立てる。
木村は堪らず服を脱ぎ出すと、女の体に触った。すると女はお金が先だよと木村の脱いだ服から、財布を抜き取ると、財布を開き、「へ〜結構入ってるじゃないか、だけど何処のカネだい、こんなの見た事無いよ。まぁいいか」と言うと財布ごと棚の引き出しにしまった。木村は二百万近く入っていた財布を持って行かれ一瞬、唖然としたが何故か、まァ〜イイかと何時もとは違った気持になり、軽く流すのであった。
女も着ていた服を脱ぎ出すと木村に「あんた良いからだしてるね。私の好みだよ〜」と言いながら木村の体にまとわりついって来た。女は木村の下半身に手を遣ると優しく撫でながら自分の口に運んだ。余りの男を知り尽くした、舌使いに、木村の体は一気に熱くなり、思わず女の髪に手を遣りながら、腰を動かした。女は別に気にする事も無く、硬くなった陰部を舐め回した。そして、木村を布団に寝かせると、木村の上に覆いかぶさり、自分の陰部の中に硬くなった木村のペニスを銜えさせた。女はゆっくりと体をくねらせながら、静かに喘ぎ声を上げだした。
木村は堪らず女の白い肌の中に浮かぶ、薄いピンク色の乳房を鷲掴みにすると、腰の動きを速めだした。すると女はまだ駄目だよ。
と木村の勢いを征した。「まだだよ、もっと楽しませておくれよ」と女は白い肌の体をくねらせながら木村に言った。だが、木村は限界だった。これ以上我慢できない所まで我慢するが、女を満足させる事無く先に射ってしまう。すると女は「もう、射ちまったのかいしょうがないね」と言うともう一度少し柔らかくなった、ペニスを口に銜えると、手で扱きながら舐め始めると、直ぐに硬くなり女は笑みを浮かべながら、股を広げて、木村の上に覆い被さると、また自分の陰部に銜えさせ、ゆっくりと体をくねらせ始める。
木村も女の激しく自分の体に押し寄せる熱い波に、引っ張られるかのように女を抱き抱えるようにし、薄いピンクの乳房を舐め回しながら、腰をゆっくりと動かし女のオルガズムを探った。そんな二人は駆け引きの中、あっという間の一時を終える。
女は満足したのか、言葉少なげに、そそくさと服を着ると、「行くよ」と声を掛けると表へ出て行った。木村も少し遅れて表へ出た。するとそこにはカウンターでタバコをふかしながら木村孝司がニヤつきながら椅子に腰かけ待っていた。
そして「どうだい、良かったかい兄さん、だけど、こいつには気を付けなよ。魔性の女だからね。この女の良さに狂って毎日のように押し掛けて来る客も多く居て、財産全て投げ出して身を滅ぼしちまった奴も居る位だからね。まぁこんな商売している俺が言うのもなんだけどね」と言うと女の顔を見て笑った。木村も「確かに」と言い返すとニヤリと笑った。そんなやり取りの後、木村はふっと我に返る「そうだ、こんな事をしている場合ではない、今、俺は何処に居るんだ」と考えた瞬間、頭の後頭部辺りを激痛が走った。
そしてそのまま後ろへゆっくりと倒れて行くのが判った。どのくらい時が経っただろう、目が覚めた時には病院のベッドの上だった。警察から聞いた話だと、何でもエレベーターを降りた処で、何者かに後ろから襲われ、後頭部、肩、腕など他、数か所を殴打されて、財布や時計など貴重品を奪われ、倒れていたらしい。そして全治三カ月の重体でベッドから降りることも出来ず、勿論、トイレもベッドの上で用をたさなければならない状態である。警察は物取りの仕業だと判断した。
だが木村は、ふじ商会の連中の仕業だと思っていた。しかし、不思議なのは何故、直ぐに殺さなかったのかが判らなかった。それとあの余りにもリアルなあの時の夢の様な出来事は何だったのかが気に成っていた。
だがその全ての理由はその夜判る事に成る。静まり返った部屋の中で木村は疲れが出たのか、深い眠りについて居た。すると誰かが木村をゆすりながら、「起きて、御兄さん、起きておくれよ、私だよ」と女の声が聞こえて来て目が覚めた。木村は薄暗い部屋の中で目を開くと、目の前にはあの時の色白の美人の女が立っていた。そして病院の部屋の中で、寝て居るはずの自分が、あの時の店の奥の部屋の中で横に成っていた。
そして女が言った。「よく眠っているから起こさずに寝かしておこうと思ったんだけど、もうまる一日眠ってるんで、どうかしちまったのかと思ってさぁ心配に成って起こしたんだけど、大丈夫かい。まぁどっちにしても、そろそろ商売始めるからさ帰っておくれよ」木村は判らなかった。一体何がどうなってるんだか、サッパリ判らなくなっていた。
さっきまでは全治三カ月の重体でベッドからも降りられる状態じゃ無かったのに、今は体には異常は無くこれまでと何だ変わりは無い状態で、全く違う世界に自分の存在がある。何が、自分の身に起こって居るんだろう、どっちの世界が、自分が存在する本当の世界だろうと、迷い始めて居た。
其処へ「兄さん、アンタ新宿歌舞伎町のCSプロダクションの社長、木村孝司さんじゃないですか」と一人の男が声を掛けて来た。「そうだけど、アンタ俺の事を知ってるのかい」「知ってるよ、貴方は此間、死んだはずなんだけど、何でここに居るんだい」「え、俺は死んだのかい?何時、何処で、何で、判らない、じゃここに居る俺は何者なんだ」木村は既に頭の中は、パニック状態に陥っていた。そして自分の意識が暗い闇の中へ落ちて行く様な想いに駆られた。

     十四
 春、さくらが咲き、小鳥たちが囀り、風が心地よくワイシャツの襟を優しく靡かせる頃、ふじ商会には笑顔が溢れ、大きな笑い声が響いて居た。卓を中心に秀二、美希、昭二、浩之の姿が有った。そして五人は心地よい風の中で遠くを目を細めて眺めていた。その先には車椅子に乗せられて進む、物言わぬ青年が居た。ポカ―と大きな口をあけ、爽やかな風吹く中で青い空を眺め、「僕は誰、此処は何処、・・・」卓が皆の方を叩き御苦労サンとそして浩之の顔を見て「怖い奴だな、お前は」と呟き、笑みを浮かべた。浩之も笑みを浮かべて踵を返し、その場を立ち去るのだった。        
          完


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