20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:華麗なる暗殺者達 作者:渋川

第1回   華麗なる暗殺者たち上
華麗なる暗殺者達

     1
 新宿歌舞伎町朝早く、まだ日が昇らぬ薄暗い頃に、店のシャッターを開けて開店準備に取り掛かるふじ商会店主森田卓、四十三歳。このふじ商会という店、表向きは「売ります、買います、のリサイクルショップ」であるが、この新宿歌舞伎町界隈ではちょっとは名の知れた、なんでも屋で、部屋のお掃除、犬の散歩、お引っ越し、中古の家電販売、中古ブランドバック、宝石、アクセサリーの販売から、そして夜逃げの世話に、その他に色々な人間関係から起こるトラブル処理、その延長線上で依頼される人殺しまで、この新宿歌舞伎町で起こる大抵の問題は、金さえ積めば大概の事は何でも解決してくれる凄く頼りになるお店である。そしてこの街の人は、この店の店主の事を何でも屋の卓ちゃん、又の名を殺し屋卓とも言い、時には人から恐れられる時も有るが、仏の卓ちゃんと手を合せて拝まれる時も有る。ちょっと変わった人物である。
そんなふじ商会が店を開けると直ぐに、片言の日本語を喋る中国人や韓国人、インド人、イラン人と色んな国の不法滞在者達が夜中の中に、拾い集めた家電製品や自転車、または強盗をして盗んで来た宝石、貴金属その他、もろもろ、ありとあらゆる物を持って集まって来る。それらを見極め買い取る事から一日は始まる。そしてその買い取った商品をその日の中に売ったり、品物によっては闇の裏ルートに流したりと、とにかく忙しく開店と同時に朝早くから電話が仕切り無しに鳴り響く店である。そんな店だから、出入りする人も様々でヤクザも来れば公務員も来るし、警察官がプライベートで来たり、大物政治家秘書、有名芸能人、もちろん夜の店で働く人たちが、入れ替わり立ち替わり出入りするのであった。そんなある日の事、店の中をウロウロと歩き回りながら、店の商品を物色しながらうろつく二十代前半の女の姿があった。
それに気が付いた店員の秀二が声を掛ける。
「オネーさん、何か探してるの」と聞くと、女は突然あっけらかんとこう言い放った。「アルバイト募集していませんか?住み込みで!私住む処なくて」といきなり秀二に話を切り出して来た。秀二は自分の判断で決める事が出来ない為、この店の店主卓が使える人間は男女問わず誰でも使う人間だと知っていたのと、見た感じスタイルも顔も良く自分自身が気に入った事も有って、女の子に一先ず「責任者呼んで来るから」と言うと店の奥へと入っていた。女はカウンターの前でジーパンのポケットに手を入れて、鼻歌交じりで店主が来るのを待った。すると、五分程すると、店の奥から今まで寝てましたと、言わんばかりの顔で眠たそうに目を擦りながら、卓が店内に現れて「アンタかい面接の女の子って、こっちへ来て話聞かせてくれや、はぁ〜あ」と欠伸をしながら卓は少し不機嫌そうに女に聞いた「あんた何が出来るんだい」と名前も聞かない中にぶっきら棒に尋ねると、そんな卓の失礼な、それでもって完璧上から目線の態度に動じる事もなく女はさらっと「力仕事以外なら、何でも遣るよ〜」と答えた。
卓は「何でもだって〜、家は売春の類は遣らないよ。だいたい何でアンタみたいな若いお嬢さんが家なんかに来たんだい。家の店の事誰かに聞いて来たのかい?」と聞く、女は「ウン、大体の事はね!」とあっさりと女は答えた。すると一瞬にして卓の顔が真剣になり女の子に「誰だい!お前さんに家の大体の事とやらを話した奴は!」と目を細めて睨みつけながら完全に威圧する口ぶりで聞く、女は卓が威圧するのをモノともせずに言い返す「仲介屋の周さんだよ!」と周という名前を出した。「仲介屋の周・・・あの周さんかい」と薄らとお瞼の奥で微笑むように「そう殺しの仲介屋、周さんだよ」と女は答えた。すると先ほどまでの険しい表情から少しばかり緩んだ顔でこう聞き返した。
「って事は、お前さんも同業かい・・・」
「そうだよ、コ・ロ・シ・ヤ・・・私色んな薬品使うんだ。こう見えても国立大学の薬学部を卒業して、只今、大学院で毒薬について研究中なんだ、私自分で作った毒薬で人を殺すのが趣味なんだよね〜」とあっけらかんと自分の事を話した。
そんな女を見ながら卓が少しばかり間を置いて女に聞く「ところで御嬢さん、名前聞いて無かったね・・・」と卓が今、思い出したかのように名前を聞く、この時点で採用である。卓は決してはじめから名前や住所などプライバシーに関わる事は一切聞かない。聞いた処でその話が本当の事かどうかなんて分からない、なんせ此処は天下の新宿歌舞伎町で、悪く言えば偽物が普通に出回り独り歩きする信用ならない処だ。油断をすれば直ぐに寝首を掻かれてあの世行きだ。だから履歴書だの職歴書だのといった類の物は必要ない。
ただただ慎重に慎重を重ねて全ての事を見極めながら決断して行かなければならない。
ましてや裏の仕事で使う人間は尚更の事、
自分にとって必要な人間かそうじゃない人間かそして信用出来る人間かは自分自身が納得した上で決める。
使えないと判断した人間からはプライベートな事は一切聞かない様にしているし、勿論、自分の事も一切話さない。
お互いの全ての利害関係が一致した時点で、初めて名前を聞く、その方がお互いの為にもベストだからである。こんな商売なので何処でどんな風に恨みを買うか解からない、だから此方からは最低限必要な事以外は何も聞かないし、何も答えない。この事だけは徹底していた。この世界で長生きして行く為の卓が守って来たルールである。女は答えた「美希、曽田美希って言うんだ私、叔父さんは?」「森田卓、みんな卓さんとか、卓ちゃんって呼んでるよ。好きなように呼んでくれ」と今迄の緊張感と威圧感が嘘の様に美希に対して優しく接する卓だった。
「じゃぁ〜卓ちゃんって呼ぶね!早速だけど卓ちゃん、私し住む処が無いんだよね〜寮なんて有るかな〜」と言うそれを聞いた卓は横に居た秀二に「部屋へ案内してやってくれ!
それから給料だが、仕事の内容によって金額は違うが現金払い。
美希ちゃんの場合は仕事の前に半金、完了した時に残りの半金という事に成るが、それで良いかい」と卓は美希に伺いを立てた。美希は一言「いいよ」と頷いた。
「それじゃ契約成立だ、それと部屋には、必要な生活必需品は揃えてあるから、自由に使ってくれ。それと今、金持ってるのか、無きゃ貸しとくぞ、どっちだい?」と聞くと美希は「必要な時はお願いするわ!」と言ったが、美希は仕事もする前から、この世界で金を受け取る様な事は、自分の中で御法度としていた。だから前金の半金も貰う心算も無かった。だが相手が仕事の後に金を払わない時は、容赦なく命を貰う心算でもあった。美希は取り合えず、秀二に案内された部屋で仕事の連絡が入るのを、待つのであった。
        2
 ある日の事である。秀二は美希に頼まれていた物を届けに行った。
そして、それを手渡すとそのまま部屋を後にした。秀二こと榊秀二は仕事に使う必要な物の手配を行う役割を果たしていた。秀二もこの世界に入るまでは、一流商社のエリートサラリーマンで有った。何カ国もの言葉を話し、世界各国を飛び回り、ありとあらゆる物への知識を豊富に持ち、世界をまたに架けるエリート商社マンとして働いていた。勿論、今でも秀二は世界各国にコネクッションを持ち、この地球上に存在するモノなら、何でも手に入れる事が出来ると言われているキレ者なのである。ちなみに先程美希に届けた物は 、スリランカ、ミャンマー、インドなどに、多く生息している、ラッセルクサリ蛇の猛毒を瓶詰にした物だった。この蛇の毒はよく中近東の革命軍を名乗る過激派組織がよく銃や爆弾を使えない場所での暗殺に使う物で、特に製造されている物ではない。
この猛毒も普通では、間違いなく手に入れる事など出来ない代物ではあるが、秀二に掛かれば簡単に秀二の許へ送り届けられてくるのだ。この事だけでも秀二の持つコネクッションの凄さが判ると思う。それと同時にこの話しを聞くだけで、ふじ商会というリサイクルショップが普通の商店で無い事は勿論の事、かなり裏社会でのコネを持つ組織である事が理解出来る筈である。言い換えれば、新宿歌舞伎町に蔓延る、ちょっと変わった巨大マフィア組織とも言える。そして、その組織のボスである、森田卓、側近の秀二、新たな仲間の美希、他にも大勢居る仲間達がこの新宿歌舞伎町を既に支配していると言っても、言い過ぎでは無かった。昔から、住みついて居た、ヤクザと言われる組織はすっかりと成りを潜め、そしてこの新宿歌舞伎町だけに止まらず、東京都内の暗黒の世界にふじ商会という組織は時には重宝がられ、また時には恐れられ驚く程の影響力を持ち蔓延っているのだった。 
     
    3
 夕方を過ぎ日が暮れ出すと、ネオンが一斉に輝き夜なのに昼間の様に明るく、目を覚ました鳥たちがザワザワと騒ぎ出すかのような街、新宿歌舞伎町には色んな人間が遊びにやって来る。一日汗水垂らして働いて稼いだ日銭を手に持ってやって来て、それをそのままそっくり使ってしまう者も居れば、真面目にコツコツと働き、貯めたお金をちびり、ちびりと、せこく使う者、そうかと思えば、善良な市民を騙し、荒稼ぎした金で、人を更に食い物にしようとやって来る者、色々である。そんなある夜の事である。この新宿歌舞伎町で闇金融をやっている鬼頭門司と言う金貸しが消える事になる。この男、チンピラと釣るんでは、悪の限りを尽くし金を儲けては更にその金でまた多くの人間を食い物にし、悪の限りを尽くし歌舞伎町界隈に住む人の生き血を吸い奈落の底へ陥れる男で、悪魔、鬼畜と言われ恨みをかっている男であった。しかし鬼頭門司はその事を全く気にも留めず、寧ろ新宿歌舞伎町で生きる物には輝かしい勲章だと解釈していた。夜に成ると夜な夜なスナックやクラブ、キャバクラ、その他の風俗店で働く女達の店先に現れては女を呼び出し、その日の日当を借金の返済だと称して全ての日当を取り立て、足りない時は容赦なく店が終わった後に門司の知り合いの客を取らせ、体で払わせるといった具合の某弱無人のやりたい放題で荒稼ぎをするのだった。門司にちょっかいを出されたら、女達にはどうする事も出来ず、使えなくなるまで働かされて最後はゴミの様に捨てられて悔しくて、怨みながら首を吊って自殺する女も居た。そうやって人を食いものにしては、私腹を肥やす事を続けて止まないのである。
そんな門司にある夜の事、何時もの様に取り立てに回る門司に声を掛ける女がいた。
「あの〜貴方が鬼頭さんですか」門司は後ろから女に声を掛けられ振り向いた。
「はぁ〜そうだが何か用か?」
「あの〜私、お金必要なんですけど保証人も担保も無くてお金借りれなくて・・・」
「だから何なんだ!まさかこの俺に金を貸せと言うんじゃないだろうな・・・」
「ダメですかね〜やっぱり」
「御嬢ちゃん、何で俺様に借りなきゃイケないんだ!そこら辺にキャシングの出来る店がイッパイ有るじゃないか」この時既に、門司の頭の中には一つの筋書きが出来ていた。
「私、結構色々な所から借りてて、中々貸してくれないんだよね〜」と甘えた声で物欲しそうに話した。すると門司は待ってましたと言わんばかりに女の子を捲し立てた。
「そりゃ〜貸せないな、何処の金貸しからも借りられないって事は、御嬢ちゃん真っ黒ケケって事だろう〜それに保証人も居なけりゃ担保も無し、無理だな〜。諦めな!」門司は薄ら笑いを浮かべながら言い放った。
すると女は「そんな事言わずに五十万貸してよ絶対に返すからさ〜」
「そんな事言って返す時になったら決まってお金が無くて返せません、もう少し待って下さい、何て言うんだよな〜みんな!」と言うと女は少し焦りを感じた様子で門司に強請る
「間違いなく返すから貸して下さい。もしも返せない様な時は、鬼頭さんの好きにしてイイですからお願いします」
これが門司の何時もの手段である。
大体そんな担保に成る物が有れば、自分の所に借りに来る筈がない事を知って居ながら保証人、担保の類の有り無をワザと聞く、そして自分のペースに持ち込むと、無理難題を言った上に、微々たる金を渡し、高い利息を取り立てるやり方だ。金の払えない時は体を売らせ、そして時には、人身売買も有り得るぞと持ちかけては、無理やり言い成りにさせるのだ。そして門司はこう言った。「オイ、お姉ちゃん、随分と困ってる様だから、貸して遣らないでも無いが、普通の条件では貸せないぞ、こっちもボランティアで金貸し遣ってる訳じゃ無いからな、どうせ他の店の支払いは滞って居るんだろう。他所の店の様に支払が遅れたり、払わず仕舞いにされても困るから、もしも、そう言う事で家に迷惑を掛けた場合は容赦無く、体売るなり、内臓売るなりしてでも、払って貰うぞ、それで良いか」と女に言った。女は静かに頷いた。「そうか、そうと決まれば貸してやろう、但し、五十万は貸せないよ、三十万だな、それで嫌なら他へ行け」と言って突っぱねた。それを聞いた女は、「何とかお願いします。何でもしますから貸してください。お願いします」と女はすがる様な眼で門司に訴えた。
何時ものパターンと同じ様な展開に成る、すると門司は「じゃ〜今晩付き合えよ、その位の事してくれても良いんじゃないのか、こっちは何の保証も無い人間に、大事な金を貸すんだからよ!」と言うと女は顎を小さく引く、すると女の肩に手を回し、自分の方へ引っ張り寄せた。するとニタニタ笑い、じゃ行こうかと言うとラブホテルのネオンが輝く方へと向かって歩き出した。すると女はカバンの中から、大きな黒いサングラスを取り出し顔を隠すように掛けた。ホテルの部屋に入ると、門司は飢えた獣の様に女を裸にし、そして直ぐ様、女の体を舐め回しだした。「久しぶりだよ、お前みたいな若い女は、堪らんな〜今夜は楽しませて貰うぞ〜」と言いながら、女の乳房を鷲し掴みにし舐め回した。その後、ベッドに横に成ると、自分の股間の物を女に舐めさすのであった。そして女の足を手繰り寄せると、自分の方に向いた太ももの奥に有る陰部に指を入れると、慣れた手つきで指先を操って「お、もうこんなに濡れて来たか」と言うと、自分自身も、うめき声を上げながら、女に覆い被さり、女の足を広げ血管の浮き出たペニスを注入しようとした瞬間、女は門司の動きを遮りこう言った。
「鬼頭さんお金を先に渡してよ、遣った後から貸せないなんて言われても困るから」と門司の焦る気持ちに気付いたのか、今迄の女とは人が変わったかの様に、強気で言い放った。すると門司は「そう硬い事言わなくてもちゃんと金なら渡すから、お前だって満更じゃ無いんだろ〜こんなに濡れてるじゃないか〜」と言うと女の股に再び指を入れようとした。すると「辞めてよ、お金が先よ」と言い放ち二人の間に張りつめた空気を漂わせ、勿体つけた。すると門司は、堪らずカバンから金を取りだすと、女の頭をワシ掴みにして、自分の股間に顔を押し付けると「舐めろ」と命令した。そして金を数え終わると女に投げつけるように渡した。女は金を拾い集めると、自分のカバンへ入れた。その瞬間、門司が女抱き抱えるとベッドへ連れて行き、女の体に覆い被さり、再び貪りつくように白く透き通った体を舐め回し始めた。女も感じ始めたのか喘ぎ始めると、門司の背中に両手を回し、激しく喘ぎ声をあげた。すると門司も刺激されたのか、女の足を広げると、急いで自分の血管の浮き出たペニスを女の陰部に入れた。
すると女は今まで以上に,感じ始め強く門司の背中を抱き締める、その時女は自分の指先のネールに付いているビーズの飾りを親指で、喘ぎ声を上げながら、親指で人差し指から順に、中指、薬指、小指と両手の指先のネールに付いた、ビーズを潰し始めた。ビーズは見た目と違い、カプセル状に成っていて、直ぐに簡単に潰れた。するとその中から何やら少し黄色かかた液体が出て来て、両手の指先をベッタリと濡らすのであった。その頃門司は女の陰部の中で大きく膨れ上がって限界が近ずいていた。それに気が付いたのか、女は感じすぎて今すぐにでも行ってしまいそうな素振りをすると、門司の背中に鋭く研ぎ澄まされた爪先を立てた。すると門司の背中には引っ掻き傷が付いた。その瞬間、門司はいきなり泡を食い気を失って震えだした。
そんな門司を見た女はニッタリと笑うと、覆い被さる門司の下から抜け出しベッドの下に下りると、自分のカバンの中から、消毒液の瓶を取り出す、そして泡を食って震えている門司を横目に洗面場へ向かい水道の蛇口を捻り大量の水で自分の両手を洗いだした。そして瓶に入った消毒液で両手を丁寧に消毒し、女は鏡に映る自分を見て、二ヤリと笑みを浮かべ「フン!」と鼻で笑った。そして女はタオルで両手を拭いた。その時、鏡に映った女の姿は悪魔と化した美希だった。実は二日前に、鬼頭門司を殺して欲しいと、暗殺依頼が仲介人の周から卓の許へ入り、美希に伝えられていた。美希は快く返事をすると準備に取り掛かり万全の状態で、この時が来るのを待っていたのである。そしてラッセルクサリ蛇の猛毒を使い、いとも簡単に的を殺して見せる美希に、卓は冷静に目を細めて頷くのである。そして門司の遺体は卓によって何事も無かったようにホテルの部屋から運び出され、処理された。勿論、ホテル側も全ての事は了承済みである。だから鬼頭門司という一人の人間が死んだ事を誰も知る事無く、そして鬼頭門司に苦しめられていた人達は無言のまま静かに沈黙を通すのであった。
    
    4
 ある日の夕方時、夕日が射す校庭の横に有る、体育館の舞台裏の奥から、女の子のすすり泣く声が聞こえては止み、又聞こえては止み、どうやら女の子が何かに脅えている様な感じが伝わって来た。そこにはジャージ姿の男子教員にほとんどまる裸の女子生徒が怯えながら震え、泣いていた。男子教師は竹刀を女子生徒の胸に当て抑えつけながら、ニタニタと笑いながら、怯える女子生徒を竹刀でいたぶっていた。そして自分のジャージのズボンを下ろすと、女子生徒の顔の前にペニスを出すと、舐めろと命令すると女子生徒の髪の毛を鷲掴みにすると女子生徒の口の中に無理やり押し込んで行った。女子生徒は泣きながら男子教師の硬くなったペニスを舐めようとする、しかし余りの体臭の臭さに嗚咽しそうに成り顔を背けたが男子教師は上着のジャージのポケットからナイフを取り出すと、女子生徒の顔に当て、殺すぞと静かに言った。すると女子生徒は恐怖の余り泣く泣くその臭くて汚れきったペニスを口に入れた。どうしようもない悪臭と、何やら口の中に残る遺物で口の中は今迄に味わった事の無い不快感が脳を刺激し、何度も気を失いそうに成る。それでも男子教師は女子生徒の口の奥へ奥へと押し込んで来た。
女子生徒は必死で抵抗しようとするが、顔に突きつけられたナイフが、更に強く押し付けられてふっと我に帰り抵抗を辞めて諦めてズルズルと音を立て名がな舐め始める、少し経って男子教師は、突起物を口から出すと、いきなり女子生徒の足を抱えて観音開きに開くと、陰部に迷わず挿入してきた。
女子生徒は一瞬声を上げたがナイフが目に入り泣きながら男子教師の行為を許す他なかった。男の突起物が自分の陰部に押し込まれ、何度となく前後しながら、自分の体がそれに合わせて揺れているのを感じた。
それと同時に意識がどんどん遠のいて行き、男の呻き声が耳に入ってフッと意識が戻るのだった。同時に体の揺れも止まり何やら陰部から生温かい物が滴り出て来るのを感じた。やがて男の声で「どうだった、気持ち良かったか、だがこの事は二人だけの秘密だからな〜、喋ればどうなるか解かるよな〜ヒィヒィヒィ〜、全校生徒からどんな目で見られる事か、一生人の目を気にしながら生きて行かなければ成らない事になるからな〜まぁばれない様にびくびくして生きて行く事だな、お前は俺様の奴隷だ!」
女子生徒にその言葉をうけ返す気力は何処にも残ってはいなかった。その日の夜に女子生徒は学校の校舎の屋上から、飛び降りて自殺した。明くる日遺体は発見されたが警察は、
原因は何かに悩み苦しみ飛び降り自殺をしたのだろうと悩みの部分には触れず、他の生徒が動揺する事を恐れ、それ以上深く追求する事を辞め、自殺の線で処理した。
そんな中、男子教師は何も無かったかのように自然にふるまっていた。それどころか、その日の夕方警察が引き上げて行った事を言い事に、また別の女子生徒を部活動の事で話しておきたい事が有ると、理由を付けて体育館の昨日と同じ場所へ呼び出し、今度は後ろからいきなりナイフを首元に押し付けて脅し、低い声で「制服を脱げ!逆らえば殺すぞ〜」と制服を脱ぐように指示した。すると女子生徒は突然訪れた恐怖に声すら出せずガタガタと震えながら尿で床を濡らした。それを見た男子教師はニタニタと笑いながら「怖いか〜殺しちゃおっかな〜」と笑いながら女子生徒の顔にナイフを顔に押し当てた。そして女子生徒の耳元で「脱げ、脱ぐんだ〜」と制服を脱ぐように行った。女子生徒は恐る恐る震えながら制服を脱ぐと、下あごを引き上目使いで男子教師を見上げた。男子教師は制服を脱がすと、紐で女子生徒の両手足を縛り、再びナイフで女子生徒の髪の毛を鷲掴みにすると、ニタニタと笑いながら髪の毛の一部を勢いよくナイフで切り取ると「よく切れるナイフだぞ〜今度は何処を刻んでやろうか〜」
と薄笑いをうかべながら、ナイフで女子生徒の胸元をなぞるように走らせた。
すると男子教師はナイフを女子生徒の胸と胸の間に充てるとブラジャーのつなぎ目を切り落とす、すると其処には白く透けるようなとても高校生とは思えないような色気を感じさせる豊満な乳房が男子教師の視界には行ってきた。男子教師はナイフをちらつかせながらニタニタと笑い豊満な乳房にナイフを当てながら怖いか殺してやろうかと脅し、恐怖心を与えるとパンティーを脱がせた。全裸にすると前の女子生徒と同じ様に今度は竹刀で体全体なぞりながら、ニタニタうすら笑いを浮かべると前回と同じ様に女子生徒を犯し、そして「お前は今日から俺様の奴隷だ!判ったな、この事を人に話せばお前がみんなから後ろ指を差される事になる。そして一生生き恥を背負って生きて行かなくてはならなくなる、判るな!」と言い聞かせるとナイフを顔に当てもう一度女子生徒の足を開かせると血管の浮き出たペニスを挿入し犯した。女子生徒は抜け殻のように為すがままの状態で、仰向けになっていた。そしてやる事を終えると男子教師は女子生徒に向かってこう言い放った。「何時も俺はお前を見張ってるからな〜」と言うとその場を後にした。男子教師は何の迷いも無く帰り支度をすると学校を後にした。男子教師の頭の中には、残してきた女子生徒の事など微塵も残ってはいなかった。

   5

 ある朝の事、男は玄関の扉を横へガラガラガラと開けて外に出た。すると、何時もの様に自転車に乗って通学、通勤する人々が家の前を通り過ぎて行く、男は朝目覚めたばかりで、まだボーとして居た。そこへ5歳位の男の子を見つけると男は何故か男の子の手を捕まえると、「来い!」と手を引っ張った。
すると男の子は突然の出来事に怯えて声を上げて泣き出した。男は子供の顔を一発、ニ発とビンタをし、すると男の子は怯えきって泣くのを辞める。そしてもう一度手を引き連れて行こうとした瞬間、後ろから子供の手を勢いよく引っ張り返し、無言で男を睨みつける母親の姿が有った。
男はまずいと思い、思わず男の子の手を離すと何も無かったかの様に歩いて自宅の玄関の前を通り過ぎて逃げ去ろうとする。
母親は慌てて携帯電話を取り出すと、警察へ電話連絡を入れて電話越しに事細かく事情を説明した。少し経ってから警察が到着したが男は立ち去った後で、その場で取り押さえる事は出来なかった。
しかし一部始終を見て居た男の家の隣の奥さんが警察に事情を説明し、男の住所、氏名まで全てが判明した。名前は有馬敦司、三十九歳独身、職業高校教師で水仙女子高校の体育教師である。
逃げた有馬は判っていた。自分の素姓が全てバレテ居る事が、有馬は何で自分の家の前であんな事をしてしまったのか自分でも判らなかった。「何故だろう〜判らない!」
有馬は小走りで逃げた。逃げても、逃げても自分が今、何処へ向かって逃げて来ているのかすら、判らなかった。
男の頭の中には罪を犯したという罪悪感と何で自分はあんな事をしてしまったのだろうという、後悔する気持ちで一杯だった。
だが、そんな気持ちの中、有馬はひたすら必死に逃げた。だが一生懸命に逃げれば逃げる程、体が宙に浮き手足が空回りしたみたいに前に進んで行かない。そして焦る気持ちが更に自分を焦らせる。そんな中何故か人の視線を感じてふっと上を見上げると、一人の中年女性が自分をじっと見つめていた。誰だろうと思ったが取り合えず必死に茂垣ながら有馬は逃げた。走っても、走っても誰かに追われている気がして逃げる事を辞めれなかった。すると目の前には橋が出て来た。この橋を渡らないと向こう岸へは行けない。有馬は橋を渡り始めた。そして有馬は走った。しかし早く走ろうとすればするほどまたしても体が宙に浮き前へ進まない。
すると目の前に何故か橋の幅一杯の大きな扉が現れた。それは有馬の行く手を阻み罪に服せと言わんばかりであった。「何だ、これは・・・」と思いながらも全身の力を込めて重いドアを有馬は押し開けて前へ進んだ。
そして有馬は必死で逃げた。
するとまた大きな扉が出て来た。
扉を開けて逃げる有馬、また扉が出て来た。扉を開ける有馬、そして逃げる、また扉が出て来た。扉を開けると、そこには真黒い逃げるという事の恐ろしさを漂わした、心の壁が立ち塞がった。だが何故か有馬は踵を返し、まだ引き返し逃げようとする有馬自信そこに居た。ふっと、また背中に視線を感じ上に目を遣ると、何故か先程の中年女性が自分を見つめている。何処へも逃がさないと言わんばかりに、自分をじっと見つめて威圧している。そこで有馬は夢から覚めた。
 その夢の中を逃げ惑って居たのが、男子教師有馬の心の奥底に住む本当の姿、臆病者の有馬敦司自身なのだ。だが今の有馬本人は気が付いていなかった。自分の精神状態の異常に、何故なら子供の頃からいじめられっ子だった有馬は毎日おどおどと怯える毎日を過ごして来た。そんな弱い自分自身を守るため自分の中にもう一人の強い自分を何時も想像し大丈夫、何事にも負けない強い自分が守ってくれる。守ってくれるんだと何時も自分に言い聞かせていた。そして一人で何もかも自分の意のままにする事の出来る強い空想の自分を作り出し、弱くて臆病な自分の心を空想の強い自分でガードし、心の中に二人の有馬が存在する様になっていた。現実と空想の世界の区別も付かない二重人格者である。
端から見ると平常心を保った普通の人間に見えるのであった。しかし、既に本人の人格は心の奥底へ隠れてしまい、表には出てこない状態に成っていた。空想のもう一人の人格が勝手に有馬を支配し、独り歩きしている状態であった。そしてある日の夕方の帰り道、男子教師は商店街の真ん中を堂々と肩で風を切り歩いていた。夕方の商店街とあって人も多く賑い、買い物をする主婦や帰り道を急ぐ学生達で一杯だった。そんな人ごみの中を有馬は我が者顔で歩いていた。其処へトレンチコートを着たサラリーマン風の男と有馬は肩がぶつかった。一瞬何かが焼け焦げた匂いが辺りに立ち込めたが、吹き抜けの商店街という事も有って、直ぐにその匂いは消えて無くなった。
勿論、その匂いに気が付く人は一人も居らず人の流れが止まる事は無く流れ続けた。
すると急に有馬は立ち止まり白目を剥いて前のめりに倒れていった。
だが誰も倒れた有馬敦司が殺された等とは思いもしなかった。
ただ倒れた有馬の周りを通りがかりの人達が取り囲んで「どうしたんだ・・・この人、急に倒れた見たいだったぞ・・・」余りの一瞬の出来事で何が起こったのか誰も知る余地も無かった。警察が駆けつけた時には有馬は完全に死んでおり、鑑識の結果は心臓部辺りに高圧電流を浴びせられてのショック死と断定された。つまりは他殺である。
しかし警察の捜査は目撃者が一人も居ない状況と犯人に繋がる物が何一つ見つからない事から、後に捜査は暗礁に乗り上げ、この事件は迷宮入りとなる。
だが有馬が犯した罪も、死んでしまった女子生徒自身は勿論の事、二人目の被害者の女子生徒も死んでしまった有馬への訴えをする事も無く事件が表ざたに成る事も無かった。
被害に遭った一人目の女子生徒にも、二人目の女子生徒にも今回の終わり方が一番ベストのであると判断したのは有馬をあの世に送った卓であり、この事によって何人もの人達が救われ、その中には事件を犯した有馬敦司自身もその中の一人である事を卓は知っていたのである。何故ならこの暗殺以来をして来たのは、何を隠そう有馬敦司自身で有るからである。
仲介人の周の下に一通の手紙と一緒に依頼料として五百万円が入って居たのを確認した時、周自身が手紙を読んで驚いたのである。
手紙の内容は自分自身を殺して欲しいと言う暗殺以来であったからだ。周も長い事この仕事をやって来たが、こんな事は過去に例がなく迷った。そして周は卓の下に相談しに来た事から始まったのだった。

 有馬からの手紙にはこう書かれていた。
 私は教師の要職に有りながら、とんでもない事を犯してしまいました・・・ 

罪を償うには死をもってしても償えるとは思えませんが、私だけがこの世に生きる事は許される事ではありません。
なんとか殺人鬼と化してしまった私の命をこの世から消し去って下さい。
それが私の心の病が元で死に追いやってしまた彼女の無念を晴らす事に繋がる事だと私は思います。
そしてもう一人の彼女に植え付けてしまった恐怖と言う二文字を私が死ぬという事で少しでも取り除ければと思います。
それと間違いなく言える事は、このまま私が生きて居たならば、また何人もの被害者が出る事は間違い無い事でしょう。
それだけは何としても避けなければなりません。ご迷惑をおかけしますが何卒、お聞き入れ頂けます様お願い致します。
             有馬敦司
     
    6

 白い雪が深々と降りつもる日本海の波が押し寄せては引いて行き、また押し寄せては引いて行くそんな海辺の漁師町で若いまだ二十歳そこそこの女が、漁師に持て遊ばれて身籠ってしまい下ろす事も出来ず已むを得なく産み落とされたのが昭二である。そして昭二は産声を上げて生まれると同時に、両親に捨てられて産み落とした母親の親戚中を盥回しにされて、もの心付いた頃には何時も飲まず食わずの生活をしながら生きて来た。
只、昭二はそれ以上の生活を知らなかったので飲まず食わずの生活が当たり前だと思っていた。ある時は六人子供の居る家へ預けられ一日一食、それも粥を茶碗に一杯食べれれば良い方で、それ以外の物を与えられる事は無かった。
只救いだったのは住んでいた場所が田舎の漁師町で周りは海と田んぼと畑ばかりで、お腹が空けば、よその畑に入り込んで一つ二つ野菜を取って食べても畑の持ち主もお腹を空かした子どものやる事と、見て見ぬふりをしてくれる人達が多かった事である。
そんな人達の計らいで、昭二は何とかある程度の食べ物を口にする事が出来ていた。
だがそれも長くは続かなかった。
何故なら今面倒を見て貰って居た親戚の家も主人が交通事故に遭い右腕を骨折してしまい完治するのに二カ月ほど休まなくてはならなくなった事から、長い間勤めていた製缶工場を首に成ってしまったのだった。
そうなると子供6人と大家族で生活が困窮している中、それでも昭二を憐れんで、しょうがなしに預かっていた状態だった事から、とても昭二まで面倒みれないと言う事で、今の家も追い遣られる事と成るのであった。
そして次に預けられた処は今迄預けられた家で最悪の家だった。
その家は子供は居なかったが、独り者でまともに仕事もせず、毎日酒を飲んでは暴れまくるといった、どうしようもない叔父の家で、此処では食べ物もまともに与えて貰えず。
毎日一食として昭二の食事が用意される事は無かったのだった。
犬や猫に餌を与えるかの様に、自分が食べている酒のつまみの乾き物を一つ二つちぎっては畳の上に投げ捨てると「食べろ、飯だ!」と言い放つ酷い叔父の下での生活だった。
そんな状況の中昭二の体は、どんどん痩せて行き骨と皮だけになり、フラフラしながら家の周りを食べる物が落ちて居ないかウロウロと、うろつく悲惨な毎日を送るのである。
しかし、前の家の様に周りには田畑も海も無く、つまみ食いが出来る様な物は何一つ無かった。それでもどうにか生きて居られたのは近所の人達が余りの昭二に対する叔父の態度を憐れんで、叔父に隠れて握り飯や庭で焼いた、焼き芋を渡してくれる人達が居たからだった。昭二は貰った芋を一日で全部食べるのでわなく、何日かに分けて食べながら、その日暮らしの自分の人生をただただ生き抜くのであった。
生まれ持って天涯孤独で親の顔すら見た事も無く、勿論、人の優しさにも触れた事も無い昭二に転機が訪れる。
それはある晩の事、酒を飲んで酔っ払っている叔父が昭二に言った。「お前の面倒はもう見れないから、お前はお婆ちゃんが隣町に住んで居るからそこへ行け!」と7歳に成ったばかりの昭二に広告の端切れを破いた紙に住所を書くと昭二に渡すと、その日の中に隣町に住む御祖母さんの処へ追い遣るのであった。
叔父の家を追い出された昭二は途方に暮れるのであった。何故なら、既に外は真っ暗でポツリポツリと街灯は付いているものの、7歳の子供には今からどうしてイイのか判る筈もないからだ。そこへ仕事帰りだと思われる作業服姿の男が自転車で通りかかり、淋しそうに下を向いたまま立ち尽くしている昭二を見かけ態々自転車を止めて声を掛けた。
「どうしたんだ、坊主!」すると昭二は顔を上げると、先程叔父から預かった隣町の御祖母さんの住む住所の書かれた紙を見せた。
それを見た作業服姿の男は「どうした。此処へ行きたいのか?」と昭二に聞いた。
昭二は言葉は吐かず頷いた。すると作業服姿の男は昭二の目線まで腰を落とし、優しげに話した。
「あそこに見える踏切の上を左に向かって歩いて行けば隣町へ行けるから、気を付けて行け!列車が来たら線路から降りるんだぞ!」
と言い残すと昭二の頭を優しく撫ぜると踵を返し立ち去った。
昭二は言われるがままに黙って隣町のお婆さんの住む家へと一人で暗闇の線路の上をトボトボと歩いて行くのであった。
      7

昭二は叔父から書いて渡された住所を下に、通り掛かりの道行く人に、紙に書かれた住所を尋ねながら昭二はお婆さんの家へ向った。目的地のお婆さんの家の前まで何とかたどり着いた頃には、夕暮れ時だった。そして玄関を叩いてお婆さんが出て来るのを待った。
少し間を置いて「は〜い」と返事をすると「ガラガラ〜」と音を立てて玄関の扉を開けた。そして昭二を見るなり「何処の子だい、アンタは・・・」と昭二に尋ねた。すると昭二は、くしゃくしゃに成った叔父からの手紙を、お婆ちゃんに手渡した。するとお婆さんはニッコリ笑うと,お入りと優しく昭二を迎えた。そしてお婆ちゃんは昭二をお風呂場に呼ぶと、昭二の着て居る服を全部脱がすと、温かいお湯を昭二の体に掛けて、石鹸とタオルでゴシゴシと洗いだした。
生まれて、物心付いてから、こんな風にお風呂へ入った事の無い昭二の体は垢だらけで、お婆さんはとても昭二が、まともな育てられ方をされずにここまで生きて来た事が、手に取る様に判った。
お婆ちゃんは何度も何度も昭二の体を洗い流してくれた。昭二は生まれて初めて人の優しさに触れるのであった。
だが昭二にはどうして良いのか全く判らず、只、立ち尽すだけだった。するとお婆ちゃんは、昭二を呼ぶとお腹空いてるだろう、ごはんが出来るまで、これでも舐めてなさいと戸棚の中から、綺麗な水色の飴玉を昭二の口の中へ優しく入れてくれた。すると昭二は驚いた。何て美味しいんだろう、世の中にはこんな美味い物が有るんだと、飴玉を口の中でコロコロと嬉しそうに転がしながら舐めた。
その姿を見たお婆ちゃんは「美味しいかい」と昭二に聞いた。昭二は初めて口を聞いた。「美味しい、飴玉食べたの初めて」と答えた。その時昭二の眼に映ったのは、お婆ちゃんの優しい瞼の奥に光る涙だった。「ねぇ、お婆ちゃん、何で泣いてるの、何処か痛いの〜」と昭二に聞かれたお婆ちゃんは、堪らず昭二を抱きしめた。そして「辛かったろう、良く頑張って生きて来たねぇ、良い子だよ、もう心配要らないからね」と言うと晩御飯食べようと昭二をちゃぶ台の方へ誘った。
ちゃぶ台の上にはジャガイモの味噌汁と大根のお漬物、そして真っ白なご飯だった。
昭二が驚きながら聞いた。「お婆ちゃん、これ食べて良いの」と、するとお婆ちゃんは優しく微笑んで、「うん、良いんだよ〜御代りも有るから沢山御食べ」と昭二の頭を優しく撫ぜた。昭二は生まれて初めて、人の優しさに触れ、生まれて初めて、温かい食事を口にした。美味かった。生きて居て良かったと幼心に感じた一瞬だった。
昭二は生まれて初めてお腹が一杯に成り、この日は歩き詰めで此処へたどり着いた事も有ってか、その場で眠ってしまって居た。
するとお婆ちゃんは布団を敷いてくれて、昭二を抱き抱えると、布団の上に寝かせた。
お婆ちゃんはその時驚いた。
余りの昭二の体の軽さに、「何て軽いんだい、こんなに痩せ細ってしまって、可哀そうに、何も判らず、只、必死で生きて来たんだね〜」と昭二の今迄の人生を哀れに思うのだった。ニ、三日経ってお婆ちゃんは昭二を小学校に行かす準備をしてくれた。
そこには御近所さんから貰って来たランドセルと黄色い帽子とノートに筆箱、勿論筆箱の中には鉛筆が二本と消しゴムが入っていた。
それを見た昭二は不思議そうにお婆さんに尋ねた「お婆ちゃん、小学校って何する処」するとお婆ちゃんは「小学校は、御勉強する所だよ」「ふ〜ん、そうなのか〜」と勉強の意味は判らないが取り合えず昭二は答えた。
気が付くと昭二は普通に喋るように成って居た。と言うか昭二は今迄、誰とも喋る事無く生きて来た為か、人と話してコミニケーションを取る事に植えて居た様だった。
お婆ちゃんを相手にひたすら色んな事を話し続けた。お婆ちゃんは昭二の顔を見て、ニッコリ笑うと、「昭二はお話するのが好きかい」と聞くと「うん、前の家で、テレビで男の人や女の人が話して居るの見ていたけど、自分には話し相手が居無かったから、誰とも話せなかったんだ」「そうかい、じゃ、これからはお婆ちゃんといっぱい、お話しようね」と話しかけると「うん」と元気よく答える昭二であった。
数日後昭二は小学校へ通い始める。
最初は同じ年代の子供達の多さに驚き、尻込みしていた昭二も少しずつ慣れて来て友達も出来、普通の子供と何ら変わりなく、育って行った。 
そんな昭二を眺めながら、「うん、うん」と頷きながら、昭二が普通の子供達と同じ様に成長して行く姿を見て、ホッとするお婆ちゃんだった。そして月日は流れ、昭二は中学三年生に成っていた。
立派な学生に成り、昭二は近所でも有名な優等生だった。お婆ちゃんが何を言う訳でもなく、只優しく見守って来ただけだったが、昭二は勉強する事が好きで好きで堪らなかった事も有り、中学を卒業する頃には学年トップの成績で学校側も大きな期待を寄せて居た。そんな昭二は中学校の卒業をまじかに控え、卒業後は有名な公立高校への入学も決まっていた矢先の事である。
夕方学校から家に帰って見ると、何やら、玄関先でゴタゴタ揉めて居る声が聞こえて来た。玄関を開けて入って見ると、そこには昔、ここへ来る前に居た家の叔父が居た。
叔父は酔っぱらってお婆ちゃんに絡み、金をせびりに来ていたのだった。その叔父の顔を見た時昭二は一瞬にして、あの悪夢の生活を思い出した。飲まず食わずの毎日で、人として扱われる事など無く虫けらの様に生きて居た、あの忌まわしい想い出が蘇るのだった。昭二は「叔父さん何しに来たの、お婆ちゃんを虐めるのは止めてくれよ。帰ってくれよ」と睨みつけながら言うと「偉そうな事言う様に成ったじゃないか昭二、子供の頃、誰が食わせて遣ったと思ってるんだ。忘れたのか〜」昭二は思った。「食べさせて遣っただと、冗談言うなよ、飲まず食わずの生活で、お婆ちゃんの所へ来なければ間違いなく死んでいたじゃないか、おまけにお婆ちゃんの家へ送るでも無く、一人で長い道のりを歩いて行かせ、どうにか此処までたどり着いたのに、冗談言うな!」と心の中で叫びながら、余りの叔父の強引なもの言いに怒りを覚える昭二だった。すると叔父は、お婆ちゃんに対して良いから早く金を出せと力ずくでお婆ちゃんの懐の中の財布を奪い取ろうとしていた。
そんな叔父を見て昭二は思わず二人の間に入り、叔父をお婆ちゃんから引き離した。
すると叔父は、ここまで来る道中で買って飲んで居たと思われる、コップ酒の瓶を昭二に目掛けて投げつけた。それを昭二は思わず避け様と思うが、避ければそのままお婆ちゃんに当たってしまうと判断し、避けずに自分の体で受け止めた。瓶は昭二の額に当たり、額からは真っ赤な血が流れ出した。それを見たお婆ちゃんが大声を出し、誰か来てと声を上げた。すると近所の奥さん達が集まって来て、如何したんですか〜と伺いを掛けて来た。
すると叔父は「やかましい、お前らには関係ねー」と大声で叫んだ。集まって来た近所の奥さん達も昭二の顔面が真っ赤な血で染まって居るのを見て、黙って引き下がる訳には行かず、その場に立ったまま、見守っていた。そんな状況の中まだ諦めようともせず、お婆ちゃんに襲い掛かって来た。堪らず昭二は叔父に辞めろと言いながら、体当たりで叔父を突き飛ばした。叔父は酔っぱらって居た事も有り、足元がふら付き、バランスを崩してそのまま後ろへ倒れて行った。
そして玄関脇に置いてあった、置き石に後頭部をぶつけ意識を失った。そして叔父の頭の後ろの方から真っ赤な赤い血が流れ出した。赤い血は、見る見るうちに地面一杯に広がった。近所の奥さんの一人が慌てて救急車を呼んだ。昭二は一瞬にして起きた出来事に動揺を隠せないで居た。少しすると救急車が到着、それと同時に警察も駆けつけた。
昭二はその場に立ちつくしたまま震えて居た。すると一人の警察官が昭二の肩をポンと叩くと、昭二をパトカーに乗る様に促した。
お婆ちゃんも一緒にパトカーに乗ると警察署へ向って車は走り出した。
現場に残った別の警察官が事件を見て居た奥さん達から事の次第を聞いて居た。
だが誰ひとり昭二を悪く言う人は、居無かった。むしろ全ての人達が昭二に同情し、この後の昭二の処分を気にする人が大半だった。ちなみに叔父の方は頭の打ち所が悪く同時に出血が多量だったせいもあてか、即死だった。お婆ちゃんはその日の夕方には事情聴取を終えて自宅に戻った。
昭二は叔父が死亡した事も有ってか、事情聴取に時間が掛かっていた。正当防衛でも有るし、まだ中学生と言う事で周りの見て居た人達の証言もあり、身家内のトラブルでの事故と言う事で納まった。これが初めて昭二が人を殺めた事件である。この時、昭二は初めて人の命はちょっとした事で、簡単に消えて無くなる物だという事を知った。


次の回 → ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 16