「このハガキが来た頃には、女学校へ進学させてもらえることになってたんだけど、本当にいいのかな、って、悩んだの。母が亡くなって、利一兄さんも出征しちゃって、それなのに父と薫さんに負担かけちゃって、申し訳なくて…。」 ユミさんは知らないだろうけれど、栞は知っている。祖母はいつも昔の話をする時、『あたしは頭が悪いから…。』とか、『あたしは勉強が嫌いだったから…。』という前置きをしてから、『でも利一おじいちゃんは玉川で一番頭がよかったし、トミちゃんもサッちゃんもユミちゃんも女学校へ行ったし、優子と崇久と義行だって一番の成績で進学したんだから、ここんちの家系は頭がいいんだよ。』と言っていた。これは、栞や兄達の成績があまりにも情けないものであったことに対する絵美子の小言や嘆息や愚痴を耳にする度に言っていたことで、栞や兄を慰める形をとりつつ、内実はユミさんや自分の子供を進学させた自慢話だったわけで、ユミさんを女学校に進学させたことで負担をかけさせられたという認識は、祖母には微塵も無いはずだと、栞は思う。祖母はどうも『頭のいい人コンプレックス』があったようで、自分が尋常小学校とか公民学校とかに行っていた頃、自分は頭が悪いから級長になれなかったけれど、副級長にはなれたから、級長をやっている頭のいい子達のグループにいたんだ、とか、そういう自慢もしていた。そんな『虎の威を借る狐』的なことを得意げに自慢されても困るのだけれど、少なくとも五回以上同じ話を聞かされたから、祖母にとってはよっぽど誇らしいのだろう。
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