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作品名:花筏〜はないかだ 作者:SHIORI

第93回   93
善吉さんが出征した昭和十六年の十二月八日、日本軍がパールハーバーを攻撃し、太平洋戦争が始まった。緒戦は日本軍が優勢で、翌十七年三月には東南アジア一帯を占拠したという。四月にはアメリカの爆撃機が東京、名古屋、神戸を初空襲したけれど、その頃には祖母もユミさんも日本が戦争に負けるなんて、全然、考えたこともなかったという。六月にミッドウェー海戦で大敗し、制海権も制空権もアメリカに握られてからも、しばらくの間は、国民には本当のことは一切知らされず、日本軍は破竹の勢いで進撃を続けているのだと思い込まされていたのだそうだ。
「昔の日本って、今の北朝鮮みたいな国だったんだね。」
「まあそんなものよねえ。」
前述の利一さんから幸平さんへの手紙は、暢気な文面からこの昭和十七年のものではないかと、栞は推測する。七月二十四日という日付はあるけれど何年かは書いてなくて、けれど
『砂糖入ラズノ氷水ガアルダケ酒ナシノ戦時下ラシイ天王サマガ終リマシタ。何ガナクトモオシシヲカツイテミンナ元気デヤリマシタ』
という追伸がある。天王サマというのは、地元のささやかな夏祭りのことだ。夏祭りをやっていたということは、戦局不利が伝えられていない頃と考えていいはずだと思う。


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