父はさすがに恥ずかしいらしく、『ボーイフレンドが何人かいた。』というただそれ以外、名前も年齢も人柄も、その頃の祖母の様子なども話してくれない。真田さんや岡田さんより後のボーイフレンド諸氏は、栞には未知の存在だ。 男性関係はさておき、祖母の人生とその周囲の人々についてもう少し知りたいと思った栞は、もう一人、まだ雲間にも波間にも揺蕩っていない老女を訪ね、話を聞いた。 老女と申し上げては失礼な気もする。祖父の一番下の妹のユミさんは昭和六年生まれで、祖母の第一子の稲子さんとは三歳しか歳が離れていないのだ。大叔母と伯母が三歳しか離れていないことに、栞はちょっとビックリした。『親戚のオバサン達』の年齢なんて聞いたことも考えたことも無かったから、改めて聞いて今更ながらビックリして、父の失笑をかってしまった。 ユミさんは四百匁くらいの小さな赤ちゃんだったという話を、栞は祖母から聞いた。なぜ祖母がユミさんの出生体重を憶えているのかというと、初めての妊娠と出産に不安でいっぱいになっていた若き日の祖母に、そんなに小さかった赤ちゃんが三年でこんなに大きくなるんだよ、と、ハマさんがユミさんを膝に抱っこしながら言ったからだそうだ。異性にはわりと優しいけれど同性に関しては悪口ばっかり言っている祖母から、ハマさんに関しては悪い話をほとんど聞かない。嫁と姑というのは悪口を言い合うものであるというのが世の中の常識で、絵美子と祖母などはその典型だけれど、意外にも祖母とその姑のハマさんとは、そうではなかったらしい。とても優しくて気丈で献身的に家族の面倒をみる、理想的な主婦だったらしいハマさん像が、祖母の話からもユミさんの話からも窺える。
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