はたして新たな出逢いがあったのか、栞は知らない。最近の祖母は、十年前のようにはしゃべってくれない。老いが進み、しゃべることが億劫になったのかと思ったが、全然そういう感じではなく、百歳まで秒読みとは思えないほど早口で、しゃべるだけならいくらでもしゃべる。その内容が、何が無くなった、何を盗られたということや、自分はまだ若いという自慢話ばかりで、栞が質問をするとそれは憶えていないとか忘れたとか言うのである。祖母の性格から考えて、意地悪やヘソを曲げているわけではない。県外へ嫁いだので顔を見せる機会が極端に減った栞を、忘れてもいないし間違えもしない。恭明と自分の末息子の義行さんのことはしょっちゅう間違えるのに、栞のことは声だけでわかると言ってくれる。忘れた頃に顔を出して無粋な質問をする栞に向かって、 「今だって店に立って商売できるよ!」 などといばる祖母は、他の高齢者にはいっぱいある老人性色素斑もわりと少ないし、トイレにだって、ゆっくりでも一人で歩いて行くのだ。正月に、 「おばあちゃん、今年、何歳になるの?」 と質問したら、 「これから嫁に行くわけでもないから、年齢なんか忘れた!」 と言い返されて、呆気にとられた。もらってくれる人がいるなら、どうぞ嫁に行ってください、もう帰って来なくていいから!と、母が揚げ足をとる。
|
|