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作品名:花筏〜はないかだ 作者:SHIORI

第80回   80
そんなふうに言う絵美子に、あたしもお母さんと長時間一緒にいると疲れるよ、と言ったら、母はヒステリックに言い返すか、それともふてくされるかどちらだろうと、栞は考える。母と娘の間には、父と息子の場合よりもはるかに捩れた相剋があるのだ。今はもう栞も少しは大人になったから、迂闊なことを口走ったりはしないけれど、例えば香苗の家のように『一卵性母娘』とか『友達母娘』の状態でも、それはあるはずだと思う。祖母には娘が二人いるから、自分の分身が二人いるという形で、表と裏のように分けて見ることができるから、相剋も分散できるかもしれない。姉妹の人数が増えればさらに分散できるだろう。母は姉も妹もいなくて、栞も兄達しかいないから、女だけの系譜で見れば、母の生母から母、栞、栞の娘は、一人娘の状態が続いている。普通、親子というのは似ているところに目がいくのに、母は奇妙に自分と生母の相違点ばかりをアピールする。そのくせ、栞のことは自分のコピーとかクローンであるかのように認識していて、そっくりね、とか言われるととても喜ぶ。ただしそれは母の機嫌がいい時だけで、機嫌が悪い時には頑強に否定し、絶対似ていないと言い張って譲らない。無意識ではあるのだろうけれど母はそうやって相剋を揺さぶり動かして摩擦を起こそうとするから、栞は結婚を考えた時、何人かいたボーイフレンドの中で一番、家が遠い男を選んだ。分散ができないから、距離で摩擦を無くしたのである。そんな後ろ向きな結婚が上手くいくはずがないと、真由美にはさんざん文句を言われたが、なにも母から離れるためだけで結婚したわけではなくて、話題や食事の好みが一番合う人だったし、母や兄や真由美に言われるとムカッとする同じ内容のことを、その男の口からだったら言われても腹が立たないのが、栞にとっては大きなポイントだった。服選びと男選びに関しては一目惚れの衝動買いで後悔を繰り返してきた栞は、母や恋人に服を選んでもらうことに、真由美が言うような強い拒否反応が無い。結婚してからは、夫が選んでくれた服を着て実家に遊びに行くと、母は必ず難癖をつけるが、祖母は似合うとか女らしくなったとか言ってくれる。夫は栞のことをとても大切にしてくれるし、それによって栞自身が独身の頃よりもいい方向へ変化している実感もあるから、夫への感謝や信頼や愛情は歳月を重ねるほどに深くなる。一目惚れの男と結婚していたら、こんなふうにはなれなかっただろうと思う。一目惚れの相手というのは最初の評価は高くても、最近の与党の支持率と同じで時が経つほどに下がってしまうのだ。だから劇的で熱烈な恋愛じゃあなくたっていいじゃん、と栞は真由美に言うのだが、真由美はまだ結婚しない。香苗はよりによってあの石川さんとデキ婚して実家からスープの冷めない距離に住み、母親と二人三脚で育児に勤しんでいる。結局、石川さんは香苗の人生に深く入り込んだ結果、心までも入り込んでしまったわけだ。見栄えは悪くても、それも一つの恋愛の形だよね、と栞は思うのだが、真由美はやっぱり文句を言っている。


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