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作品名:花筏〜はないかだ 作者:SHIORI

第79回   79
同じことは英俊にも言える。稲子さんのことを働き者の姉として尊敬はしていても、甘えたり慕う様子は、見たことがない。優子さんに対しては、還暦を過ぎてからさえヤンチャな弟としてふるまっていて、あまりの稚気がましさに見ているほうが吹き出してしまいかねないような笑顔で、店のことや議員の仕事のことなどを自慢していた。平成四年、五十歳の大台にのる前の年に、一階が店舗で二階が住居の大きな家を建てた時の父の有頂天ぶりといったらなかった。新築祝いに来てくれた優子さんに、鉄骨のすごく頑丈な建物なんだとか延々と説明して聞かせ、二階で大勢で飛び跳ねたって床が抜けない、などと子どものような自慢をして、あげくには自分がピョンピョン飛び跳ねて、天井に届くくらいジャンプ力があるとか、愚にもつかない体力自慢までしていたその様子は、小学生、あるいは幼稚園児の無邪気さと言って、過言ではなかった。お祝いに来たのが優子さんではなく稲子さんだったら、英俊はあそこまではしゃいだり得意満面で自慢したりなどしなかっただろうと、栞は思う。
「お祝いに来るはずないじゃないか。だって稲子さんはねえ、この家を建てる時、大造さんが植えた木を伐ったり庭石を動かすなんて許さないって、怒鳴り込んできたんだよ。自分は嫁ぎ先を御殿みたいに建て替えたくせにさあ。おばあちゃんだって、稲子が稲子がって口では言ってたって、実際には優子さんばっかり可愛がっているだろう。近親憎悪っていうか、自分自身を見ているようで、稲子さんと一緒にいるのは疲れるんだよ。」


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