祖母の悪口を言う時の母の顔は、あまり見たくない。嫁と姑というのはそういうものだとわかってはいても、人を憎むというマイナスのエネルギー源のそばにいると疲れるし、不毛だと思うし、そういうエネルギーを発している人は、醜く見えてしまう。しかし絵美子達の世代は、戦後、日本人の寿命が飛躍的にのびたことによって、歴史上、最も長い期間を『嫁』として過ごしている。祖母はまったくもって稀有なことに、どん底と言っていい苦労をしてきたわりには卑屈にも気難しくもならず、更年期以降の女性にありがちな底意地の悪さとも無縁なまま、単純で自己中心的な可愛い女であり続け、そうであるがゆえに尚更、絵美子は気苦労が絶えないのである。一つの家という舞台に自分が主役だと思っている女が二人いれば、これは自己中心的で神経が太いほうが勝ちと、戦う前からわかる。どれだけ歳をとっても、あたしは可愛い、美人で主役、と思っている姑に、神経質でやや被害妄想的な嫁は勝てるはずがなく、四十年以上もの間、絵美子は耐えて忍従し、ただひたすらに家事と育児と店の仕事をこなしている。それは滅私奉公とまでは言わないまでも、それに近いものであったと、祖母以外のほとんどの人に思わせるだけのものであった。
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