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作品名:花筏〜はないかだ 作者:SHIORI

第70回   70
しかし、幸平さんとの再婚に関して、祖母自身の語るところと絵美子が聞き貯めてきたものでは、ずいぶんと違う。祖母は『幸平はあたしのことを姉ちゃん姉ちゃんって慕ってて、あたしのことをずっと好きだったんだよ。』と言う。けれど母は、初代の幸吉さんの生家である『元ンち』に、幸平さんを好きな女の子がいたのだと聞いたと言う。その女の子は幸平さんが兵隊に行ったすぐ後に縁談があって、嫁に行くべきか幸平さんを待つべきかと、祖母に相談に来たのだという。祖母は『生きて帰るか死んじまうかわかんねエ奴なんか待たないで、いいお話なんだから、お受けしなさい。』とエラソーに言ったのだそうだ。それなのに幸平さんが復員してきたら、祖母のほうが六歳も歳上なのに幸平さんと『逆縁』したのだ。大造さんにしてみれば、利一さんも善吉さんも戦死してしまった以上、幸平さんが跡を継ぐのが当然のことだと考えて祖母とくっつけたのだろうけれど、『元ンち』の人々にしてみれば、何か騙されたような、おもしろくないという不快感があったのではあるまいか。大造さんとハマさんの夫婦はどちらも幸吉さんの実子ではないのだから、幸吉さんが亡くなった時点で実質的には『元ンち』との血縁関係は切れたと、言えるかもしれない。しかし『元ンち』にしてみれば、本家筋なのに礼節を欠いたことをされたという意識は、そう簡単には消えない。不運なことに、『元ンち』の女の子の結婚相手は祝言から二ヶ月後には召集令状が来て出征し、帰らぬ人となってしまった。その上、宿していた新しい命も流産してしまって婚家に残ることもままならず、娘を返された『元ンち』では、あの時、縁談を断って幸平さんを待ってさえいたなら、娘は出戻りの烙印を押されずに済んだし、幸平さんだって娘婿として大切にしてあげられたのにと、祖母のことを呪い殺しかねないくらいに恨んでいたというのだ。


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