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作品名:花筏〜はないかだ 作者:SHIORI

第67回   67
ただ一人、生きて帰って来た幸平さんは、まだ独身だったので、大造さんの命令で祖母と逆縁した。この場合の逆縁という言葉の意味が手元の辞書には載っていないので、栞は当初、意味がわからなかった。嫂と義弟の間柄で再婚する、という意味だけをいうのか、女のほうが歳上で子供もいて再婚なのに、男のほうは初婚だなんて世間体が悪い、という当てこすりが含まれているのか。適齢期の男性がたくさん戦死してしまって、初婚すらできない、再婚なんて望むべくもない、そういう女の人達がたくさんいたから、祖母はずいぶんと妬まれたらしい。
再婚した翌年、祖母は末子の義行さんを出産した。しかしその年の暮れに大造さんが亡くなると、幸平さんは酒浸りになり、仕事もしないで飲み歩くようになって、現金はもちろん、虎の子の株も帽子の中に隠して持ち出し、売って酒を飲んでしまった。
「もしあの株があったら、うちは玉川で一番の金持ちだったさ。」
「ふーん…。」
しかも祖母は幸平さんと再婚したために戦没者遺族年金をもらえないまま、半世紀以上を生き抜いてきたのだ。働いても働いても幸平さんに持ち出され、お金は酒代に消えてしまう。幸平さんの姉や妹たちは既に嫁に行ったりして家を離れてしまっていて、誰も幸平さんを諫めてくれる人もおらず、六人の子供と飲んだくれの夫を、祖母は女の細腕ひとつで養ってきたのだ。


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