「現金って聞いたけど、資産って意味だったんじゃないかと思うんだよな。だから株があることも知られて、これだけ資産があるなら主を兵隊にとられても家族は生活していけるだろうって、思われたんじゃないか。学校の成績云々の話は眉唾にしてもさあ。」 伝聞の伝聞みたいな話だから、どこまで本当だかわからない。祖父の遺影を見ると、三十代半ばには見えない、かなり若い顔で、軍服を着ている。これは召集令状が来た頃ではなくて、二十歳で徴兵検査を受けて兵役に行った、その頃に撮影した写真なのではないだろうか。父は二十代の頃、土蔵の整理をしていて日本陸軍の軍服を見つけ、着てみようとしたけれど、小さくて着ることができなかったと言う。父は身長が百五十三センチくらいで、かなり小柄である。今でこそメタボ腹をもてあましているけれど、若い頃には同級生の中で一番すばしっこかったんだと自慢するのだから、そんなに太ってはいなかっただろうと思われる。その父が着られないほど小さな軍服に身を包んで、祖父は戦争に行ったのだろうか。けれど出征して半年で、乗せられていた船が撃沈され、戦場に到着する前に死んでしまったというのだから、土蔵にあった軍服が祖父のものであるのなら、兵役に行った時のものなのだろうと考えられる。つまり、身長が百五十センチもない小兵でも兵役に行かされたということだ。そして在郷軍人(兵役経験者)だったのなら、多少、歳をくっていても召集はされたはずで、役場の同級生の私怨とか裏工作とかいうのは、ちょっと作り話めいている。おそらく、父親が戦死した悲しみや絶望をぶっつける先として、父の兄姉には役場の同級生さんしか具体的な対象者がいなかったのだろうと思う。
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