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作品名:花筏〜はないかだ 作者:SHIORI

第45回   45
姉の桜子さんの誕生日は明治四十五年の五月だと、祖母は憶えている。この年は七月末に明治天皇が崩御されて、八月から大正元年だから憶えているのだそうだ。しかし五月何日なのかは憶えていない。ナツさんはその前に松一と名付けた男の子を一人生んでいたけれど、一歳で死んでしまったという。それが明治四十四年か四十三年か、あるいはもっと前なのかはわからない。大正三年に祖母を生んだ時に二十八歳で、その後に桃子、友晴、百合子、治郎と生んで、桃子は生後一ヶ月、治郎は一週間で死んでしまい、末っ子の博さんが昭和二年の生まれである。つまりナツさんは、推定二十代前半から四十一歳までに、八回出産している。祖母自身も六人生んでいるし、祖父の利一も七人兄弟だ。戦争中は生めよ増やせよの時代だったから、十人兄弟なんていう家も珍しくなかったと、祖母は言う。恐るべき体力であり生命力だと思うけれど、なんだか悪徳ペット業者と繁殖用の雌犬みたいだ。避妊自体が存在しなかったからと言ってしまえばそれまでだけれど、二十代から三十代のほとんどを妊娠と出産ばっかりさせられているみたいだし、それなのに男の人達は家事や育児を全然手伝わないらしい。おそらくは二、三年毎に妊娠して出産するような状態で、タライと洗濯板で洗濯をしたり、ホウキとゾーキンで掃除をしたり、しかも洋服じゃなくて和服を毎日着て、その和服だって自分で手縫いで作っていたのだから、ナツさんとか祖母って改めてスゴイと、栞は思う。冷蔵庫も掃除機も炊飯器も食器洗い機も無い、オーブンレンジもテレビもエアコンもパソコンもケータイも無い、今、そんな生活をしろと言われたら、栞は裸足で逃げるだろう。ナツさんという人(ひいおばあちゃんだけれど、なんだか異星人のよう)も若き日の祖母も、よくそんな生活をしていたものだなあと思うけれど、考えてみればその時代には日本中の人がそういう生活をしていたのだ。


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