「どんなって…別に、普通の人だったよ。」 普通、と言われても、大正時代や昭和初期の普通は、今とは違うのではないかと栞は思う。夫が浮気をしてもなんとも思わないのが普通で、汗をかいてひたすらに家事労働をこなすだけの人だったのだろうか。 母親についてよりも、祖母は自分の祖母についてのほうが言葉が少し増える。祖母の祖母はタケさんといって、祖母の記憶では『坂戸の何でも屋だか雑貨屋だかの娘』だったとのことである。ものすごいキツイ性格の、頭がいい人だったそうで、駅前のケッタイな複合経営のお店はこの人が始めたものらしい。バリバリやり手の女性実業家のような人を栞は想像するが、読み書きが全くできない人だったと祖母は言うから、それでどうやって商売をやっていたのかと、栞は首をかしげる。おそらく、その人が『ものすごいキツイ性格』だったから、ナツさんはあまり自己主張しないでただ黙々と家事労働に勤しむ人にならざるをえなかったのではないだろうか。勝四郎さんもかなり我が強くて自分勝手な人だったような感じだから、ナツさんはおとなしく夫と姑に仕えるしかなかったのかもしれない。
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